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【プレビュー:ISU欧州フィギュアスケート選手権2020 男子シングル】2020年1月、グラーツで8年ぶりに新たな男子ヨーロッパ王者が誕生する。新しい時代の始まりだ。
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部1年前のミンスクで、ハビエル・フェルナンデスが戦後最多の7連覇を達成すると、直後にチャンピオンのまま競技の世界を去った。2020年1月のグラーツでは、8年ぶりに、新たな男子ヨーロッパ王者が誕生する。新しい時代の始まりだ。
こんなフレッシュな機会にふさわしく、極めて目新しい名前が、男子シングル優勝候補の筆頭へと躍り出た。1年前には、周囲どころか、本人さえも想像していなかった事態かもしれない!ただし今シーズンのケヴィン・エイモズは、軽やかに、しなやかに、確実に強豪の仲間入りを果たした。
「フィギュア(図形)」ではなく、「アーティスティック(芸術性)」スケートの国からやってきたエイモズは、そもそもジュニア時代から優れた芸術性の持ち主として知られてきた。独自の世界観に、独創的な振り付け。工夫が散りばめられたトランジション、音楽への高い共鳴力。今季SPの「The Question of U」はとてつもなくエネルギーにあふれ、一方でFP「Lighthouse」の繊細な感情表現は、見る者をエモーショナルな世界へと引きずり込む。ついでにキスクラでの可愛さも、ファンたちの胸をぎゅーっとつかむのだ。
こんなエイモズが「強い」選手に生まれ変わったきっかけは、一昨季半ばに練習拠点をフロリダに移したこと。なんでもコーチのジマーマンが真っ先に取り組んだのは、徹底的な肉体改造だったという。おかげで4回転ジャンプを高く飛べる筋力と、フリーの4分を滑り切る持久力とを身につけた。ミスが大幅に減り、安定したハイスコアが出せるようになった。
今季は参加したすべての大会で表彰台に上がっている。オータム・クラシックで2位に入ったのを皮切りに、フランス杯3位(GP大会初表彰台!)、NHK杯2位、GPファイナル3位(ファイナル初進出!)、そして2年連続3度目のフランス国内選手権で1位。当然のように母国からは、2011年フローラン・アモディオ以来9年ぶりの「フランス男子優勝」を大いに期待される。
「GPファイナルはプレッシャーゼロで臨んだんだ。出場できるだけで幸せだったし、ひたすら自分が大好きなことをやっただけ。これまでGPファイナルで表彰台に上がれるなんて、考えたことさえなかった。でも自分にも可能だと理解した。欧州選手権に向けて、自信をつけた」
4回転トゥーループに加え、シーズン後半には4回転サルコウも本番使用したいと意気込んでいるらしい。この欧州選手権が初お披露目の場となるだろうか。泣き虫エイモズが、今回も、嬉しい涙を流せるように祈りたい。
本来ならば、ヨーロッパで優勝大本命に上げられるべきは、ロシアの2選手だったはず。過去2年、つまり2018年はドミトリー・アリエフが、2019年はアレクサンドル・サマリンが、それぞれハビに次ぐ2位に入っている。今季グランプリシリーズでも、サマリンは自身初のGP大会優勝を手に入れた。アリエフも初の表彰台乗りを達成。前半戦「世界トップ6」が集うグランプリファイナルにも、両者は駒を進めた。
ただこのグランプリファイナルの結果と、年末のロシアナショナルの成り行きは、たしかに不安材料として小さくない。それでも2人が「強さ」を再証明した機会にもなったはずだ。
ナショナルでSP4位から立て直し、初優勝に輝いたアリエフにとっては、なによりグランプリファイナルの「悪夢」を完全に払拭できたことが大きい。トリノではFPで転倒3回し、文字通りぼろぼろの状態で最下位に終わった。しかしナショナルまでの2週間で、きちんと心身ともに立て直した。
「失敗は常に内省を促してくれる。自分との内なる対話こそが、僕が必要とする考え方へと導いてくれるんだ」
おかげでアリエフは、氷の上に立つことの喜びを再確認できたという。また「ファンたちを喜ばせたい」という想いをいっそう強めたようだ。重圧や憂いから開放され、「生まれて初めてのビッグタイトル」ロシア選手権優勝に続き、欧州の舞台でものびのびと輝いて欲しい。
一方でサマリンは、国内選をSP8位と大きく出遅れた。規定ジャンプを1つもクリアに成功させられなかったせいだ。プログラムコンポーネントだけ見れば全体で2位という「魅せる」演技だったが……。
関係者からは「冒頭の構成はあまりに難しすぎるのでは」との批判も受けた。たしかにサマリンのSPにはいきなり4Lzと4Fが登場する。ちなみにGPシリーズ2戦では4Lz+3T→4Fの順で組込まれ、いずれも4Lzコンビネーションは完璧に成功しつつ、「(本人にとって)一番難しい」4Fはいずれもミスがあった。つまりヨーロッパで頂点をつかむためには、このSP2つの4回転の行方が大きな鍵になるのかもしれない。
ご存知の通り、誇り高きサマリンはFSで巻き返し、見事トータル3位に食い込んだ。なによりジャンプのミスは、ジャンプで取り返した。「20点超えジャンプコンビネーション(4Lz+1Eu+3S)」をきっちり披露。4年連続の欧州選手権行きを文句なく決めた。今は欧州での金メダル獲得にベストを尽くすつもりだ。
「周りのことは気にしない。すべては自分の出来次第。僕がすべきは、自分の仕事を正確に成し遂げることだけ。そうすればすべてがうまく行く」
美しいスケーティングと、にじみ出るノーブルな雰囲気とで、良い意味で「ザ・正統派」のリッツォも、さらなる研鑽結果を披露するために欧州の舞台へとやってくる。
昨ヨーロピアンでイタリア男子として10年ぶりの欧州メダルを獲得(銅)。さらには世界選手権7位に食い込み、イタリア男子に7年ぶりの「世界選2枠」をもたらした。おかげで「もっと強くなりたい!世界選や五輪でもメダルを獲りたい!」との意欲に目覚めたそうだ。夏季にはカナダのブライアン・オーサーのもとでトレーニングを積んだ。現時点では本番で披露しているのは4Tだけだが、4Lz、4F、4Loも精力的に取り組んでいる。
ただし12月のイタリア選手権では、年下のダニエル・グラスルに逆転優勝をさらわれた。2シーズン前のジュニアワールドで、イタリア人男子として史上初めて銅メダルに輝いたのがリッツォなら、昨季の同大会であっという間に「史上2番目」となったのがグラスルだった(同じく3位)。そもそも2018年に欧州選手として初めて国際大会で「4Lo」を決めた選手でもあり、15歳当時には「史上最年少4Lzジャンパー」にもなった(その後記録は破られた)。
今回のヨーロピアンは、17歳のグラスルにとって本格的なシニア選手権デビュー。地元メディアの報道によると、本人は大胆にもトップ5、いや表彰台を狙っている。秘策は……FSに4回転を3本入れること!
また高い4回転ジャンプが武器のモリス・クヴィテラシヴィリ、美しく独創的なスピンやステップが持ち味のデニス・ヴァシリエフス、さらには29歳ミハル・ブレジナと30歳アレクシー・ビチェンコの大ベテランたち……と欧州には個性豊かなスケーターが揃っている。もちろんロシアナショナルでSP13位からの大逆転銀メダルを成し遂げ、アリエフとサマリンの間に割って入ってしまったアルドゥール・ダニエリアンにも要注目。2シーズン前の世界ジュニア銀メダリストで、今季もジュニアグランプリ大会で2度の表彰台に上っている16歳が、欧州でもサプライズを巻き起こせるだろうか。
文:J SPORTS 編集部
J SPORTS 編集部
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