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遂行もっこう。でも創造のほうもお願いします。大学ラグビーの開幕が迫って、そんなことをしきりに思う。
いまのラグビーは「遂行」を重視する。すいこう。なしとげること。
プロやプロに近いコーチが、世界に広がる情報網から「そのときの多くのチームにとって正しい戦い方」を選んで、選手はそれを成し遂げようとする。
リーグワンの試合後の会見でも「遂行できた」や「遂行するつもりでしたが」とキャプテンはよく口にする。
戦法が明確。練習グラウンドでは求められる技術や体力を迷わずに身につける。いざ公式戦、揺るがぬ努力を支えに遂行する。古今東西、勝つチームはそうだ。
問題は戦法の導入に大学の部員が主体としてかかわるかどうかである。ぜひ、かかわってほしい。いくばくかのロマンにくるまれた願いでもある。学生ラグビーの重要な機能に「研究」があると信じたいのだ。
大昔も大昔の1908年。明治41年の11月。慶應義塾大学は初めて「横浜外国人クラブ(現・YC&AC)」を破った。背景に情熱的な学習があった。これより2年前に世に出た画期的な技術書、ニュージーランド代表の名手、デイブ・ギャラハーらによる『The Complete Rugby Footballer』を英国より入手、ページをばらし、部内で手分けして翻訳に励んだのだ。
現在にいたるまで高い評価を受ける名著にさっそく触れた。そのことは現在の蹴球部(ラグビー部)の血であり肉でもある。
さらに慶應は創造の領域にも踏み入った。
前掲書で当時のオールブラックスの好んだ展開重視の「2・3・2スクラム(前から人数を数えた形)」を学んだ。ところが、英本国の協会はこれを邪道と嫌い、ほどなく「フロントローは3人」と競技規則を改変する。
そこで日本のルーツ校の面々は考えた。散開に長ずる7人スクラム(7システム)の利点を手放さず、なお合法である「3・2・3スクラム」を1910年(明治43年)までに開発したのだ。
好敵手の早稲田大学ものちにこれを採用、身上となる展開の力を伸ばす。ややあって明治大学は先を走る両校を別の角度で倒そうと8人スクラムの押しに徹し、また躍り出た。「明治41年のページばらし」は日本ラグビー発展のひとつのきっかけであった。
3・2・3の「7システム」完成の当事者で、ラグビー精神の番人とも称された風格たたえる名士、敬称略で田邊九万三は、1940年にこう記している。
「7システムは慶應義塾の伝統であるから之を行うのであると云うが如き空漠な信念、信仰の下に進んで居らるるとするならば之は大なる間違である」(『田邊九万三追懐録』)
しびれる言葉だ。成功に安住するな。「不断の研究」(同)を怠るな。そう愛する後輩を励ましている。慣習をいましめる。伝統とは絶えざる進歩の堆積である。大学スポーツの核心はそこにある。
うんと時は飛んで、きたる2025年9月13日、札幌の月寒ラグビー場において早稲田と日本体育大学が関東対抗戦開幕節にぶつかる。近年の成績では前者の優位は確かだろう。それでも両校の対戦に心ひかれるのは、かつて覇を競った関係であり、さらに、どちらも「創造」のヒストリーの当事者であるからだ。
早稲田は「ユサブリ(高速かつ理詰めに球を動かして相手と接触せずに裏に出るスペースをつくる)」や「シャロー防御(一線で激しく前へ出るディフェンス)」を戦前に独創した。
日本体育は本コラムにおける仮称「近接サポート攻撃(展開時にBKがラックの球を確保、ライン形成のFWで外を抜く)」をわがものとさせて、1969年度の日本一につなげている。
いずれも現代の視点では珍しくない戦法だ。だからこそ先駆は尊い。現場の若者が知恵を絞って戦法へ昇華させれば、もっと尊い。
いまこれを書いている筆者も個人的に「創造」を試みて、専門誌の連載などで明らかにしてきた。ひとつも具現せず。例を挙げる。
バックパス。
ラック連取で息詰まったら、ハーフやスタンドオフが、くるんとうしろを向いてキック、スピードやパワーに優れるランナーをあらかじめ遠く背後に残しておいて、そのキックパスをつかみ、カウンターのランを仕掛ける。フィジー代表の採用を希望。
Hポール・ハイパント。
意図的ラックをいくつかこしらえ、ころあいをはかりゴールポストのバーに落とすつもりで高々とキック、チーム屈指の身体能力やボール感覚を有する者が、両外より逆Vの字のラインで猛烈に追い、高く跳ぶ。きっとよいことがある。東京大学の乾坤一擲の入替戦必勝を想定。
ヒールアウト段差攻撃。
もはや死語のヒールアウト、古いラグビーではルーズ(ラック)の球をシューズの底で強く掻き出し、転がり動くボールをハーフがさばいた。この古式技術を援用、地面を滑る楕円球をエース級のランナーがトップスピードで拾い突破を図り、あるいはランと思わせて、ふいに止まり、そこへ背後より別の走者がドカーン。旧ヤマハの対パナソニックでの「遂行」を想像。
まあスポーツライターのたわむれはともかく、日本列島のすべての大学の部員には世のどこにもない攻守の仕組み、フィールドでのポジション配置を考え抜いてもらいたい。競技の進歩のため。なんて大義は脇によけよう。机上に深く熟慮して、グラウンドでがむしゃらに表現する。ただ楽しそうではないか。
文:藤島 大
藤島 大
1961年生まれ。J SPORTSラグビー解説者。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。 スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。 著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)近著は『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ)など。『 ラグビーマガジン 』『just RUGBY 』などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球にみる夢』放送中。
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