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選抜の悔しさを花園で晴らしたい
12月27日から大阪・東大阪市花園ラグビー場で、各都道府県の代表51校が出場し、高校ラグビー日本一を決める「花園」こと、第104回全国高校ラグビー大会が開催されているが、今大会のシード校の選定において、最も注目されたチームの1つが東福岡(福岡)だった。
東福岡は福岡県予選で筑紫を80-5で下して、25年連続34回目の花園出場を決めたが、ノーシードとなる可能性も考えられていた。ただ、東海大相模(神奈川)、御所実業(奈良)の選抜ベスト8の2校が県予選で敗退したことなどにより、ギリギリBシードに滑りこんだようだ。
コーチで12回、そして監督として13回目の出場を迎える同校OBの藤田雄一郎監督(52歳)は「6勝して優勝すれば花園で100勝だったこともあり、ノーシードから行く準備をしていた。シードという評価をいただいたのは、一昨季、昨季決勝に進んだご褒美だと思っている。そこは勘違いせず、真摯に受け止めて、1試合目からしっかり準備していきたい」と前を向いた。
藤田監督(左)と稗田新 コーチ
「ヒガシ」の名で知られるグリーンジャージーの東福岡と言えば、一昨季は花園で優勝、昨季は準優勝を誇る全国有数の強豪校で、優勝は7回を数える。しかし、今季は例年になく、春から苦しんでいた…。
九州大会(Aパート)を何とか制して、優勝を目指して臨んだ春の選抜大会は、まさかの初戦で目黒学院(東京第1/Bシード)に24-28で逆転負けして敗退。6月の九州大会では、決勝戦で大分東明(大分/Bシード)に12-45で大敗。さらに7月の夏のセブンズ大会でも優勝した桐蔭学園(神奈川/Aシード)と、京都工学院(京都)に予選プールで敗戦した。
昨季準優勝した、今は大学1年生となった代のヒガシは、コロナ禍もありセレクションができなかったため、55名が入部した。その1つ下の代である現在の3年生は、1つ上の部員数が多かったことを懸念し、福岡県内の有望選手が県外のチームへ進学した影響などがあり、41名とやや少なかった(2年生は50人、1年生は61人)。
また、花園で優勝した一昨季、昨季の代はほぼ3年生で戦っていた。昨季の決勝に出場したのは、副キャプテンCTB(センター)深田衣咲(3年)のみだ。ヒガシは1月に新チームとなると、卒業間近まで3年生と試合して強化するのが恒例だが、60点差、70点差で負けていたという。
3年生のリーダー陣(下段左からFL梁瀬拓斗副将、古田主将、深田副将、上段左からFB三好、SH中嶋 LO梁瀬将斗、HO沢田.
「3年生は1年生の時から花園決勝を見ている代で、自分たちもそのステージに立たなければいけない責任感と、経験値がまだまだその土俵にも上がってなかった。また東福岡ラグビー部にいるから僕たちは負けないという、勘違いなどが入り混じったスタートだった」(藤田監督)。
藤田監督が取った策は大きく分けて3つだ。1つ目は例年よりも、県外に出て強豪チームと試合をして経験を積んだ。また、東京サントリーサンゴリアスや、キューデンヴォルテクス、福岡ルリーロ所属のOBの選手やコーチのサポートも受けた。
2つ目は「3年年に情はあるのですが…」と藤田監督は本音を吐露したが、選手を学年ではなく実力で起用し続けた。福岡県の予選決勝を見てもFW(フォワード)第1列の3人はPR(プロップ)勝又篤、武田粋幸、HO(フッカー)須藤蒋一と全員2年。
1年生ながら司令塔を務めるSO橋場
また、FL(フランカー)古澤将斗、インサイドCTB半田悦翔は2年生。そして司令塔であるSO(スタンドオフ)は、キックの光る橋場瑠音で1年生。ベンチにもPR武田琢磨、PR/LO平野良次、SO川添丈、WTB(ウィング)/CTB八尋奏と1年生が控える。
その効果をキャプテンNO8(ナンバーエイト)古田学央(3年)は、「例年に比べて、1・2年の下級生が多いメンバー構成になっている。メンバーに入っていない3年生は悔しい思いもしているが、良い相乗効果があると思う」と話した。
補食はカステラ
3つ目は武器としているディフェンスや、ボールを大きく動かすアタックの接点の下支えとなるフィジカル強化、身体作りだ。指揮官も選手たちも、選抜大会のころは「フィジカルが足りなくて、攻守に渡って前に出ることができずミスが多かった」と分析していた。そのため昨季まで、練習後に捕食として長崎・福砂屋の「カステラ」を摂取していたが、練習の合間にも摂るようにした。
春の選抜で負けてから、少しずつ努力していた成果が出て、大きな転機となった試合が8月、菅平合宿での桐蔭学園戦だった。FWが特に鍛えてきたディフェンスで前に出て51-15で快勝。「FWで前に出られたので1番の試合だった」と古田主将は胸を張った。ただ、大阪桐蔭(大阪第1/Aシード)には大敗し、東海大大阪仰星(大阪第2)にも敗戦したという。
福岡予選決勝は攻守ともに会心の出来で圧勝し、花園の切符を得た。その後も練習や試合を重ねて、天理(奈良/Bシード)のほか、毎年「ベアーズカップ」という交流戦を行っている石見智翠館(島根/Aシード)に勝利した。だが、大分東明には8-24で敗戦。まだ波があるのが現状だ。
ディフェンス練習を行う東福岡
藤田監督は「今年のチームの強みはディフェンスだが、かすかな光りが見えてきた。最後まで部内マッチをして、3年生にチャンスを与えていますが、花園ではやはりメンタルが大事になってくる。初戦に勝って波に乗りたい」と先を見据えた。古田主将は「春からミスの多さが課題なので、ミスに厳しくいきたい」と言えば、深田副将は「相手の22mに入ったらしっかりトライを取り切りたい」と話した。
スローガンは「咲」
今季のスローガンは3年生で話し合って「咲」を掲げた。発案者は副将の深田衣「咲」だった。「ちょっと調べてみたら、咲には『笑う』という意味があったし、花は自分自身で1人1人の色を出して、花園の舞台で花を咲かせればいいという意味を込めた」。
藤田監督は選抜での苦い経験から「優勝を狙っている」という言葉をNGとしているという。経験豊富な指揮官は「まだ、その土俵には上がっていないが、もしかしたら花園に行って大会で成長し、準決勝や決勝にたどり着けそうな雰囲気になれば…。そうなるように仕上げていきたい」と本番を見据えた。
BK(バックス)のエース的存在である深田副将は、「もちろん優勝が目標だが、花園でも目の前の試合に全力で取り組んで1戦1戦勝って行ければいい」と言えば、チームをまとめる古田主将は、「花園で1日でも長く試合ができることは本当に幸せなことなので、目の前の試合を大切に勝ち上がっていければ」と静かに闘志を燃やした。
第104回全国高等学校ラグビーフットボール大会
東福岡は、展開ラグビーが伝統的な持ち味で、大型FWも武器としている茗渓学園(茨城/Bシード)と同じ山に入った。初戦となる2回戦は、12月30日(月)午後1:15、第3グラウンドで朝明(三重)に勝った光泉カトリック(滋賀)と対戦する。
「フェニックス」というチーム名を持つヒガシ。不死鳥のように花園でV字復活を遂げ、選抜大会初戦負けの悔しさから、8度目の優勝という見事な花を咲かせることができるか。
文/写真:斉藤健仁
斉藤 健仁
スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。≫Twitterアカウント
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