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ジョネ・ナイカブラ
小さな体で攻守に奮闘したSH藤原忍は試合直後、「いまは悔しいしかありません」と言葉を絞り出した。ポジティブなことを言おうとしても、悔しい気持ちしか出てこなかった。歴史的勝利を目指した選手たちにとって厳しい現実を突きつけられる敗戦だった。10月26日(土)、リポビタンDチャレンジカップ2024日本代表対ニュージーランド(NZ)代表は、日産スタジアム(神奈川県横浜市)に、60,057人の大観衆を集めて行われた。
午後2時50分、ジョーダン・ウェイレフリー(オーストラリア協会)の笛で試合は始まった。日本代表はキックオフをキャッチして以降、ボールをキープして攻め続けた。NZ代表FW第一列の両PRは体重140kgという超大型だったが、スクラムは日本代表が低い姿勢で安定させた。
前半5分、NZ陣10mライン付近のラインアウトからの攻撃でNO8ファウルア・マキシが縦突進してできたラックからパスを受けたSH藤原が左に開き、ラックサイドに走り込んだWTBジョネ・ナイカブラにノールックのパスを返す。ものの見事に抜け出したナイカブラはそのままゴールラインに向かい、SOダミアン・マッケンジーと、FBスティーブン・ペロフェタのタックルを受けながらインゴールにボールを押さえた。熱狂する大観衆。SO立川理道のゴールも決まって、7―0と日本代表がリードする。
ファウルア・マキシ
前半12分、日本代表は自陣のラインアウトから攻めたが、ボールを奪われ最後はNZのWTBマーク・テレアにトライされる。どんな相手のタックルもかわして前に出るテレアのランニングスキルにはその後も苦しめられた。続く14分、NZのキャプテン、LOパトリック・トゥイプロトゥにトライされ14-7と逆転された日本代表だが、17分、NZ陣ゴール前のラインアウトからゴールラインに迫り、NZがディフェンスラインを分厚くしたのとは逆側にボールを運んで、マキシが飛び込んだ。スコアは、14-12。拮抗した展開になり、両チームの一挙手一投足にうなるような歓声が上がった。
リポビタンDチャレンジカップ2024 ラグビー日本代表テストマッチ
【ハイライト動画】日本 vs. ニュージーランド
ワーナー・ディアンズ
前半20分、マキシがマッケンジーに激しいタックルを見舞って落球を誘い、このボールをLOワーナー・ディアンズが足にかけ、転々とするボールを自ら確保してトライ。NZの俊足WTBセヴ・リースを振り切った逆転トライに、この日最高の歓声が上がったが、タックルの際にボールがマキシの腕に当たっており、映像判定の結果はノックオンでトライキャンセルとなる。ここが流れの変わり目となった。
「試合を20分ずつ、4つのブロックに分けると、前半の残り20分で29失点しています。トライキャンセルで感情面が落ちるところがあった」と、試合後、エディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチは語った。この直後のスクラムからのトライを防ぐことができていれば拮抗した展開に持ち込めただろう。あまりにも簡単にディフェンスを破られたことを感情のせいにはできない。ディフェンスのコネクションが切れる場面はこの後も頻発した。密集周辺はよく止めていただけに、タッチライン際を簡単に破られるのは大きな課題だ。23分には、PR竹内柊平のジャッカルで取り戻したボールを、NZのCTBビリー・プロクターの瞬時のジャッカルで奪い返され、最後はFLサム・ケインにトライを決められた。ここでも左タッチライン際のテレアに3人のタックラーが吸い寄せられた。前半だけで43失点では勝つ流れは作れない。
松永拓朗
後半に入って、さらに1トライを追加された日本代表は、テストマッチデビューとなるPRオペティ・ヘル、HO原田衛、FL下川甲嗣らスピードある選手を次々に投入して反撃開始。テストマッチデビューとなった松永拓朗も立川に代わってSOとして及第点のプレー。FB矢崎由高が大きくゲインし、CTBディラン・ライリーがタックルを交わして抜け出すなど、何度もチャンスを作ったが、トライは取り切れず。前半28分、ヘルがラックサイドを抜け出し、立ちはだかるマッケンジーをステップで抜き去ったトライは静かになっていた観客席を大いに盛り上げた。しかし、最後はNZ代表でのテストマッチデビューとなったWTBルーベン・ラヴに2トライを奪われ、64-19と突き放された。
ジョーンズHCは、「感情面に左右されないことが大切。学ばなければいけない」と、リードして前のめりになり、失点に落胆するなど感情面の未熟さを反省点にあげた。単調にも見えたアタックについては、「今は超速ラグビーを極端にやらせている。それはチームのDNAとするため」と、土台を築きあげるための徹底であると説明した。
後半は疲れが見えたNZだが、個々のオフロードパス、ジャッカルの質の高さ、トライを取り切る決定力など世界トップレベルのフィジカル、スキルを見せつけた。楽をしようとせず、あえてタフな戦いを挑んだ姿勢も学ぶところが多い。日本代表は組織ディフェンスの精度が低いだけではなく、タックル成功率62%(NZは81%)が示す通り、つかみにいくようなタックルで抜かれるシーンも多かった。世界の一流選手と戦うからこそわかる課題は多い。いち早く学び、世界のトップレベルを追いかけたい。
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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