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松永拓朗(東芝ブレイブルーパス東京)
最初から最後まで緊迫感ある戦いだった。どちらのファンもハラハラドキドキ手に汗握った。「観戦するには素晴らしい試合だったでしょうね」と苦笑いしたのは東芝ブレイブルーパス東京(BL東京)のトッド・ブラックアダーヘッドコーチだ。コベルコ神戸スティーラーズ(神戸S)のデイブ・レニーヘッドコーチは「なんと言えばいいのかわかりません。フラストレーションのたまる試合でした」と話した。両チーム6トライずつ。40-40の引き分けは、互いに悔いの残る試合だったが、アグレッシブに攻め合うエンターテインメント性に富んだ試合でもあった。
4月14日(日)、秩父宮ラグビー場(東京都港区)には、11,918人の観客が集った。午後2時30分、神戸SのSOブリン・ガットランドのキックオフで戦いの火ぶたは切って落とされた。立ち上がりは自陣から積極的にボールをつなぐBL東京が3連続トライを奪う。前半3分、CTBロブ・トンプソンがディフェンスを突破して大幅ゲインし、CTBニコラス・マクカランにつないでトライ。7分、WTBジョネ・ナイカブラが爆発的な加速で抜け出し、自らのキックを追いかけてトライ。19分には、ナイカブラからのパスを受けたWTB森勇登が右タッチライン際を走り、内側をサポートしたトンプソンに山なりのパスを送って3つめのトライ。3トライ中2ゴールをSO松永拓朗が決めて、19-0とした。
ワーナーディアンズ(東芝ブレイブルーパス東京)
父の急逝でニュージーランドに帰国したリッチー・モウンガの不在が心配されたBL東京だが、その穴は松永が埋め、BK陣が自陣からでもアグレッシブに攻めた20分間だった。神戸Sに何度も攻め込まれたが、ワーナー ディアンズ、ジェイコブ・ピアスの両LOらの粘り強いタックなどで失点を防いだ。選手たちの腕には喪章があった。モウンガのためにも勝ちたいという思いは強かっただろう。
対する神戸Sも負けるわけにはいかなかった。試合前までは5位(勝ち点34)につけ、プレーオフトーナメント進出枠の4位以内に入る可能性は残していた。残り4試合すべてボーナス点を獲得しながら勝利して勝ち点を積み上げるしかない。最善を尽くそうとした試合でようやくトライできたのは、前半24分のことだった。BL東京のゴールラインに迫ったところで、PKを得たがPGは狙わずスクラムを選択。ここからの攻撃でCTBラファエレ ティモシーがガットランドのショートパスを受けてトライ。続く27分、WTB山下楽平のキックで相手陣深く入ると、FB山中亮平がこぼれ球を確保し、SH日和佐篤、NO8アウマキ アマナキとつないでトライ。ガットランドがゴールを決めて、19-14と差を詰める。
ジャパンラグビー リーグワン2023-24 D1
【第13節ハイライト動画】東芝ブレイブルーパス東京 vs. コベルコ神戸スティーラーズ
その後はスクラムで神戸Sが反則を取られると、BL東京がラインアウトでミスするなど落ち着かない展開になる。35分、BL東京は神戸Sの山下楽平がハイパントのボールを味方側にはたいたボールを、CTBマクカランが確保し、FBマイケル・コリンズがトライ。40分にも森勇登がトライを追加して、33-14として前半を終えた。
サウマキアマナキ(コベルコ神戸スティーラーズ)
後半も前半同様、神戸Sが地域的には優位に戦い、何度もチャンスを作る。BL東京の粘りのディフェンス、ミスなどでチャンスを逸していたが、後半8分、CTB李承信のキックパスを受けた山下楽平がトライ。26分、交代出場のLOワイサケ・ララトゥブアを縦に走り込ませてトライし、33-28と差を詰める。直後にBL東京が森のトライで突き放すが、神戸Sのサウマキがトライを返して一歩も引かない。
40-35とBL東京リードの終盤も激しい攻防が続いた。試合終了間際にはスクラムで優位に立つ神戸Sが反則を取り、さらにスクラムを選択して攻め立てる。最後は、スクラムから素早くボールを出して左オープンに展開し、交代出場のWTB濱野隼大がインゴール左隅にトライ。40-40の同点とした。そして、勝敗はガットランドのゴールキックに託された。そこまで5本のゴールをすべて決めていたガットランドだが、最後は足の疲れと精神的プレッシャーもあってか、ゴールを外してしまう。直後にノーサイドの笛が鳴った。
ガットランドに駆け寄り、労をねぎらう神戸Sの選手たち。BL東京も集まり、互いの健闘をたたえ合った。引き分けの場合は両チームに2点が与えられる。この結果、BL東京は3試合を残してプレーオフ進出枠の4位以内が確定。神戸Sはトップ4に可能性を残すも悔いの残る引き分けだった。「後半あれだけチャンスを作りながら点が取り切れない。我々の現状からすると、負けに等しい引き分けでした」。デイブ・レニーヘッドコーチは厳しい表情で語ったが、順位は5位のままで、4位の横浜キヤノンイーグルスとの勝ち点差は7点。逆転の可能性はまだ残されている。
「神戸は危険なチームだと思っていました」と、ブラックアダーヘッドコーチ。「素晴らしいことができた瞬間もあったが、無理やりオフロードパスをしてチャンスを与えることもあった。プレーオフに向かって一貫性のなかったところを改善していきたい。プレーオフ進出決定については、組織にかかわる人々のハードワークに感謝しています。本当にワクワクしています」。BL東京は、次節(4月21日)、鈴鹿で三重ホンダヒートと対戦。神戸Sは札幌でクボタスピアーズ船橋・東京ベイと必勝態勢で戦う。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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