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岩村昂太(三菱重工相模原ダイナボアーズ)
39歳のベテラン安江祥光は言った。「降ってきた勝利ではなく、つかみに行った勝利だからこそ意味があります」。三菱重工相模原ダイナボアーズ(相模原DB)は、3勝4敗の9位ながら上位陣とも十分に戦える自信をつけてきた。クロスボーダーラグビー開催のための休止期間に、「ただきついのではなく、きつい状態でラグビーをし、考える」(岩村昂太キャプテン)というハードトレーニングを実施。持ち前のフィットネスをさらに高めての挑戦だった。
ジェームス・グレイソン(三菱重工相模原ダイナボアーズ)
昨季のリーグワンを制したクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S東京ベイ)との戦いは、2024年3月3日(日)、午後2時30分に始まった。相模原DBはSOジェームス・グレイソンが短く高いボールを蹴り上げ、チャレンジンなキックオフで勝利への意欲を示した。一連のプレーでS東京ベイの反則を誘い、グレイソンがPGを狙う。ところが、この日はグレイソンのプレースキックが不調。先制機を逸した。しかし、相模原DBは5分、グレイソンのキックパスを右タッチライン際にいたNO8ジャクソン・ヘモポ(194cm)がキャッチして、好サポートの鶴谷昌隆が先制トライを奪う。ディフェンス側にいたのはSH藤原忍(171cm)。23cmの身長差を利してのキャッチだった。
S東京ベイは10分、相模原DBがキックをキャッチした後にボールがこぼれたところで、HOデイン・コールズが拾って突進。相手陣深く入ってNO8ファウルア・マキシにつなぎ、トライ。FBゲラード・ファンデンヒーファーのゴールは決まらず、5-5の同点となる。16分には攻め込んだラインアウトからモールを組み、ここは押し切れなかったが、CTB立川理道のキックパスをWTB木田晴斗がキャッチしてトライ。5-12と逆転する。
相模原DBの狙いは、「インプレーの時間を長くする」ことだった。自信のあるフィットネスを生かして徹底的に走り続け、簡単にはタッチキックを選択せず、相手と競り合うキックを多用した。60%以上のボール保持率で戦うことができたが、S東京ベイも決定力があり、前半38分にはCTBリカス・プレトリアスにトライされ、10-17とリードを奪われる。ビッグプレーが飛び出したのは、その直後だ。
ジャパンラグビー リーグワン2023-24 D1
【第8節ハイライト】クボタスピアーズ船橋・東京ベイ vs. 三菱重工相模原ダイナボアーズ
S東京ベイが自陣から攻め、立川が左タッチライン際にいた木田にキックパス。そのまま大幅ゲインかと思われた瞬間、相模原DBベン・ポルトリッジが木田の直前でキャッチ、そのままインゴールまで走り切る。「キックは自分の頭を越えると思って、タックルに行かなきゃと思って木田のほうに向かっていたら、意外にボールを空中に長くいたので」と、切り替えてキャッチ。17-17の同点に追いつく値千金のトライだった。
JD・シカリング(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)
後半5分、S東京ベイのJD・シカリングにトライを奪われるも、LOウォルト・スティーンカンプがトライして、24-22と逆転。その後は互いに反則やミスで苦しむが、S東京ベイのファンデンヒーファーに2つのPG(後半18分、26分)を決められて、スコアは、24-28。しかし、終盤になっても相模原DBのフィットネスは衰えることがなかった。4点を追う後半30分には、ヘモポの突進でゴール直前に迫りスティーンカンプがトライして、29-28と逆転。33分にはポルトリッジがトライを奪う。ところが、2トライともグレイソンのゴールが入らず、34-28と、1トライ1ゴールで逆転される点差を残してしまう。試合終了間際にグレイソンがPGを狙ったが、これも入らず、逆襲を受ける。キックの名手としては珍事ともいうべき事態になったが、最後は守り切って歓喜のノーサイドとなった。
王者からの勝利で4勝4敗の勝ち点は18となり、順位はひとつ上がって8位に。「選手を誇りに思う」と相模原DBのグレン・ディレーニーヘッドコーチ。「普段より20、30%上のパフォーマンスを出す必要があったが、選手がやってくれた」。勝った瞬間は涙もあった岩村キャプテンは「すごく嬉しかったのですが、完璧な試合ではなかったです。ミスもありましたので」と気を引き締めていた。
敗れたS東京ベイは4位から6位に後退した。フラン・ルディケヘッドコーチは「勝ちたいチーム同士が力を出し切った試合だった。いい面もあったし、ミスもあった。リーグワンの質が上がったということ」とおだやかに話した。立川理道キャプテンも「うまくいかない原因を自分たちで作ってしまった」とミス、反則で守る時間が多くなった試合を冷静に振り返っていた。S東京ベイは第9節(3月9日)、東大阪市花園ラグビー場でトヨタヴェルブリッツと対戦。勝った相模原DBは本拠地の相模原祇園スタジアムでコベルコ神戸スティーラーズを迎え撃つ。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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