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福田健太(トヨタヴェルブリッツ)
オールブラックスの主力がリーグワンに集っても、もはや黒船来航の衝撃はない。ないはずだ。ただ、放送の解説をしたり各試合を映像で見返すと、ついつい、おー、サベア、さすがレタリック、おっ、モウンガ様、憎いぞアーロンにボーデン、と声に出したり、出しそうになったりする。サム・ケインの日本にあっても万能には映らぬ泥臭い動きにも、かえって凄みを覚える。
ニュージーランダーに限らない。花園近鉄ライナーズの元ワラビーズ、ウィル・ゲニアが敗色濃厚の展開にもスリムな勝機を探ろうと力を尽くす姿や、静岡ブルーレヴズの南アフリカ人、永遠のひとりPOМ(プレーヤー・オブ・ザ・マッチ=公正に選んだら全試合に選ばれそうだ)であるクワッガ・スミスの球への働きかけを目にするたびに「本物」とつぶやいてしまう。
しかし、よく目を凝らせば、日本列島に生まれ育った確かなラグビー選手が芝の上にいて、世界の顔に伍して体を張ったり頭をめぐらせたりしている。
1月14日。花園ラグビー場。トヨタヴェルブリッツの背番号21、福田健太は見事だった。開始15分に観客の楽しみであっただろう9番、アーロン・スミスが負傷退場。想定よりうんと早いはずの出番が回ってくる。
動じない。それどころか図太い。堂々と「代役」を務める。いや、本当はサブではない。本物に替わる本物だ。
後半21分過ぎ。28―14と先行のヴェルブリッツはライナーズに長いゲインを許した。からくも阻んでP獲得。すると入替出場のSHは楕円球を掘り出して、タップキックで速攻を仕掛けた。
すぐにピータースティフ・デュトイが反応した。身長2mの南アフリカ代表は的確に長いキックを繰り出す。あわやトライで前がかりのライナーズの帰陣はとてもかなわず、右WTBの高橋汰地が仕留めた。
花園の観客の大声援に応えようとライナーズは激しく抵抗していた。よいアタックで大チャンスをつくった。そこからの反転の失点。ここに勝負は決した。
オールブラックスのキャップ125の穴をジャパンのキャップ1(出場時間5分)が当然のように埋めた。個人の奮闘努力のおかげと知りつつ、あえて、これを日本ラグビーの底力と呼ぼう。
福田健太は明治大学の2018年度主将、学生チャンピオンとなるチームを統率、ヴェルブリッツへ進んだ。最初の2シーズンのリーグ出場は計7分。22年度にレギュラーの座をつかみ、ワールドカップのジャパンにも「第3のハーフ」の立場で呼ばれてサモア戦の残り5分に出場を果たした。
さあ、ここで飛躍というところで、なんとアーロン・スミスがやってくる。またもや控え暮らし。ではあるけれど、どっこい準備万端なのだった。
同じ日。兵庫のノエビアスタジアム神戸。クボタスピアーズ船橋・東京ベイの7番、末永健雄が、コベルコ神戸スティーラーズの12番、ナニ・ラウマペ、背番号7のアーディ・サベアを倒した。どちらもオールブラックスにあって弾丸かつ移動氷山のごとき突進で鳴らしてきた。
178cm、98kgのスピアーズのフランカーは前者を開始21分過ぎ、後者を後半の26分強にほどよく低く、まったく軽くはないタックルで止める。ことさらに感動を呼ぶようなヒットではない。そこがよい。狙いを定めて的確に体を当てると、あの両雄がゲインできなかった。
末永健雄に日本代表歴がない。なんだか腑に落ちない。ふたつのタックルもまたリーグワンの伸長を示している。
昨年末、12月17日。静岡ブルーレヴズのスクラムにも「日本ラグビー無形文化財」を見た。対神戸。静岡の誇るフロントロー、河田和大、日野剛志、伊藤平一郎、それぞれの背丈が「172・172・175」のスモールな3人が無欠の壁を形成する。
神戸の右サイドの最前線はジャパンの具智元、その尻を204cm・121kgのブロディ・レタリックが押す。さらにはアーディ・サベアも横から加勢する。ここを切り取ればワールドクラスの「技と力と知恵」がある。
かたや河田の尻につくのは187cm・104kgの大戸裕矢である。向き合うロックのサイズはこんなに違うのに、もちろん静岡は一歩も引こうとはしない。セットプレーとは体重の合計でも代表キャップの総数でもないとわかる。
河田・日野・伊藤が肩を寄せるフロントロー人形が発売されたらぜひ購入したい。締め切りに追われるパソコンの近くに置けば気も引き締まる。
1月13日。その静岡の8人の塊をベンチより登場後、いささか揺さぶった若者がいた。東京サントリーサンゴリアスの23歳、右プロップの細木康太郎である。学生時代、モンスター的なスクラムで他校の周到な準備を無力化させた。問答無用の破壊はどうやら国内の頂点のリーグでも威力を発揮する気配だ。
そしてプロップをもうひとり。ディビジョン2、豊田自動織機シャトルズ愛知の左プロップ、南友紀は、開幕節の日本製鉄釜石シーウェイブス戦の前半33分、地面のボールを拾うや突然駆けた。ひとつスピン、もうひとつスピン、さらにもうひとつ、3、4人をかわし飛ばす。ちょっと静岡在住のおそるべき人(クワッガ・スミス)のようだ。
鋭くて速くて、体の幹はあまりにも丈夫だ。メンバー表には「172cm・96kg」と記される。筑紫高校ー立命館大学の30歳。ここにも背の高くない実力者はひそんでいる。もし自分がスーパーラグビーの採用担当なら、ボスに「知られざる逸材発見。クワッガのように走る。ジャパンの下部リーグに所属」とメールを打つ。
最後に最新の驚きを。三菱重工相模原ダイナボアーズのCTB、岩下丈一郎。1月20日の対東京サンゴリアスでチームのデビューを果たした。
試合前。ダイナボアーズの関係者が3人、別々の場所で、これから解説をする筆者に同じ内容を告げた。
「岩下、見てください。タックルします。いい男なんです」
タックルをした。トライもした。チャンスをつくって相手のチャンスの芽を摘んだ。きっと、いい人間だ。34―36の惜敗。もし白星なら、九州学院高校→関東学院大学→コカ・コーラ→宗像サニックス→ダイナボアーズ、経歴だけでこちらの胸がツンとなる27歳はヒーローだった。
文:藤島 大
藤島 大
1961年生まれ。J SPORTSラグビー解説者。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。 スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。 著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)近著は『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ)など。『 ラグビーマガジン 』『just RUGBY 』などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球にみる夢』放送中。
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