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後半37分、ダメ押しトライをあげた帝京大HO江良颯キャプテンは、その場に倒れ込んだ。スクラムを全力で押し、力強いタックル、ボールキャリーと全身全霊でチームの先頭に立った両足には疲労が蓄積していた。「モールから行こうとしたとき、両足つっていました。でも、行くしかない。身体がボロボロになるまで走ると言っていて、最後までフィールドに立てなかったのは恥ずかしいですけど」。
最終スコアは、34-15(前半14-12)。帝京大が三連覇を達成したが、両チームにとって難しい環境下での戦いだった。午後から雪が降る予報がウソのように、午後1時の空は晴れわたっていた。その後空が暗くなりはじめ、午後3時19分のキックオフ以降、雨が落ち始め、やがてみぞれから雪に変わる。先制したのは帝京大だった。FB山口泰輝(4年)が相手陣インゴールへボールを蹴り込み、明治大のゴールラインドロップアウトから攻め、左オープン展開でWTB高本とむ(4年)がタックラーを3人かわしてトライを奪う。
その後は攻守の入れ替わりに両チームが素早く反応し、拮抗した展開になる。前半17分に雷鳴がとどろき、レフリーの判断で中断。いったん再開するが、22分に運営サイドも正式な中断を決め、選手はロッカールームに引き上げた。雷が鳴りやみ、再開されたのは55分後(午後4時40分)のことだった。
江良キャプテンによれば、岩出雅之顧問から「時間が伸びたのは嬉しいことじゃないか」と言われ、中断をポジティブにとらえることができたという。仲間と戦える時間が増えた喜びをかみしめながら仕切り直すことができたのだ。さっそく、LO尹礼温(4年)のジャッカルでチャンスをつかんだ帝京大は、ラインアウトからの攻撃で尹がトライ。これは映像判定でノックオンがあったとしてノートライになったが、直後のラインアウトでモールを押し、江良がモールサイドをついてトライ。山口がゴールを決めて、14-0とした。
しかし、明治大もフィールド横幅いっぱいにボールを動かし、前半35分、CTB秋濱悠太(3年)がトライ。39分にもスクラムからの攻撃で、SH萩原周(4年)、SO伊藤耕太郎(4年)、WTB海老澤琥珀(1年)とボールが渡ってトライ。14-12と差を詰めて前半を折り返した。後半は先に帝京大FB山口が2PGを決めて、20-12と突き放すも、明治大もWTB海老澤の狙いすましたタッチキックなどで反撃する。
後半18分、試合の流れを決定づけるトライが生まれた。帝京大SO井上陽公(4年)のPKからのタッチキックを海老澤がフィールド内でキャッチし、カウンターアタックを仕掛ける。この連続攻撃でパスミスが起こり、このボールを帝京大WTB小村真也(3年)が足にかけ、ゴールに迫って最後はCTB戒田慶都(4年)がトライ。27-12として優位に立った。
明治大も廣瀬雄也(4年)がPGを返し、27-15としたが、後半30分を過ぎて、帝京大ボールのスクラムで明治大がコラプシングの反則を取られる。そして、冒頭のトライシーンが訪れた。帝京大は2度目の3連覇という前人未到の記録を作り、明治大は創部100周年のシーズンをほろ苦い準優勝で終えた。
表彰式で整列したとき、明治大の廣瀬雄也キャプテンはこらえきれずに涙を流した。「スタンドを見たとき、ずっと応援してくれたファンの人たちの顔が見えて、優勝できなかった悔しさ、申し訳なさがこみ上げました。自分の名前をコールしてくれて、試合に出られなかったメンバーも手を振ってくれていて、明治でプレーできて良かったと思いました」。
帝京大の江良颯キャプテンは笑顔だった。「この一年間、仲間とともに歩んだプロセスに間違いはなかった。ほんまに幸せやと思いました」。互いに必要以上に点数を意識することなく、自分たちのプロセスを大切に目の前のプレーに集中した。雨、雪の降る難しいコンディションと緊張感のなかでミスも多かったが、激しいタックルの応酬は見応えがあった。明治大はスピーディーにトライを奪い、帝京大はスクラムで圧力をかけ、モールを起点に決勝トライをもぎ取った。持ち味を出しあう好ゲームに拍手を送りたい。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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