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ラグビーワールドカップ2023(RWC)は、10月8日、トゥールーズで行われたフィジー対ポルドガル(プールC)で一次リーグの全40試合を終了。決勝トーナメント進出の8チームが出そろった。最後の1枠に滑り込んだのはフィジーだったが、この試合で多くの観客の心をつかんだのは、劇的な逆転でRWC初勝利をもぎとったポルトガルだった。
この日の焦点はフィジーの勝ち点だった。プールCはウェールズが1位通過を決め、オーストラリアが4試合を終えて勝ち点11。フィジーは1試合を残して勝ち点10。フィジーがオーストラリアに勝っているため、勝ち点1以上を上げれば2位に浮上し、決勝トーナメントに進出できる。勝ち(4点)、引き分け(2点)、ボーナス点(4トライ奪うか、7点差以内の負けで1点)のいずれかを獲得すれば決まりだ。
多くのラグビーファン、関係者はフィジーが勝って簡単に2位通過を決めるだろうと考えていた。しかし、16年ぶりに世界の大舞台に戻ってきたポルトガルの士気は高かった。パトリス・ラジスケヘッドコーチの下での4年間ハードワークしてきた。すべてはRWCでの初勝利のためだ。プール戦敗退が決まっても勝利への意欲は失っていなかった。
ラグビーワールドカップ2023 特集ページ
午後9時、ポルトガルのキックオフで試合は始まった。開始10分、フィジーSHフランク・ロマニが先制PGを決める。フィジーはパワフルな選手を次々に縦に走り込ませてディフェンスを崩しにかかるが、ポルトガルも的確なダブルタックルなどでこれを食い止める。ポルトガルはFW、BKが一体となって、右に左に移動攻撃を仕掛けながら対抗。互いにチャンスでミスもあり、攻守はめまぐるしく入れ替わった。前半38分、ポルトガルSHサミュエル・マルキがPGを決め、3-3で前半は終了する。
後半、先にトライをとったのはポルトガルだった。自陣からフィジー陣にハイパントを蹴り込むと、22歳のSOジェローニモ・ポルテーラが走り込んでスーパーキャッチ。この起点から出てきたボールをCTBペドロ・ビッテンクールがインゴール方向へ地面を這うグラバーキック。WTBハファエリ・ストルチが俊足を飛ばして右タッチライン際でボールを確保すると、フィジーの2人がかりのタックルを受けながら右コーナーにボールを押さえた。観客席は興奮のるつぼとなり、マルキが難しいゴールを決めて、10-3とリードする。
ラグビーワールドカップ2023 フランス大会 プールC
【ハイライト動画】フィジー vsポルトガル
フィジーもこの日、何度も大幅ゲインしていたFBシレリ・マンガラが自陣22m付近から一気に相手陣22mラインまで走ってチャンスを作り、最後はFLレヴァニ・ボティアがトライ。ロマニがゴールを決めて、10-10とする。その後もシーソーゲームは続いた。後半11分にポルトガルがモールを押しこみ、HOフランシス・フェルナンデスがトライ。その後のフィジーの猛攻は粘り強く止め続けたが、28分、フィジーがロマニのトライとゴールで17-17と再び同点となる。
その後、フィジーが2本のPGを追加し、後半36分で17-23の6点差になったところで、誰もがフィジーの勝利を確信しただろう。しかし、ポルトガルの選手達はあきらめていなかった。フィジーのハイパントを自陣から切り返し、丁寧にボールをつないでフィジー陣に入り、右タッチライン際でFLディヴィジ・ウォリスが捕まる。このブレイクダウンの背後にいたのが決定力抜群のWTBストルチだった。
ストルチはブレイクダウンとタッチラインの狭いスペースにディフェンダーがいなくなったのを見逃さなかった。いなくなるのを待っていたかのようにタッチライン際を抜け出し、最後はWTBホドリコ・マルタにつないで右中間にトライ。22-23と1点差とする。歴史的勝利はゴールキッカーのSHマルキの右足に託された。ポルトガルのコーチ陣、スタッフ、ベンチの選手達、そしてサポーターが祈るように見つめる中で、マルキが右足を振り抜くと、ボールはゴールポストに吸い込まれた。スコアは、24-23と逆転。その後のキックオフからボールをキープしたポルトガルに歓喜の瞬間が訪れた。
ポルトガルは2007年大会で初出場を決めて以降RWCからは遠ざかっていた。しかし、2019年に現在のヘッドコーチであるパトリス・ラジスケが就任すると、攻撃的なラグビーでレベルアップ。シックスネーションズの下部大会にあたるヨーロッパチャンピオンシップで常に上位を争う実力を備えて行く。今大会のヨーロッパ予選では4位となって当初は圏外だったが、スペインが出場資格のない選手を予選に出場させたことで3位に浮上し、敗者復活戦で香港、ケニアに勝利。アメリカとの決定戦で1勝1敗の引き分けながら得失点差で出場権を勝ち取った。
今大会でも初勝利は難しいと見られていたが、ふたを開けてみると、ウェールズのウォーレン・ガットランドヘッドコーチに「ミニ・フィジー」と称される変幻自在のアタッキング・ラグビーを展開。ウェールズと28-8、ジョージアと引き分け(18-18)、オーストラリアにも34-14と健闘。最後はフィジーを下し、その存在感を世界にアピールした。映像を何度でも見返す価値のあるトライが多く、今後もラグビーファンを楽しませてくれそうなチームだ。一方、オーストラリアに勝利しながら、ジョージア、ポルトガルの挑戦に苦しんだフィジーは7点差以内のボーナス点を獲得して決勝トーナメント進出を決めた。準々決勝ではイングランドと対戦する。ポルトガルのように攻撃的なプレーでラグビーの母国に立ち向かってもらいたい。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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