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1987年に始まったラグビーワールドカップ(RWC)の歴史のなかでも指折りのショッキングな試合内容だった。1991年、1999年大会で優勝したオーストラリアは常に優勝候補の一角であり、プール戦を勝ち抜くのは当然のチームだった。しかも、ヘッドコーチは、オーストラリア、日本、イングランドのヘッドコーチとしてRWC3大会で準優勝2回、南アフリカのテクニカルアドバイザーとしては2007年大会で優勝も果たしている名将エディー・ジョーンズである。衝撃の試合内容を振り返ってみよう。
混戦のプールC最大の注目対決、ウェールズ対オーストラリアは、9月24日、オリンピック・リヨン・スタジアム(リヨン)で午後9時に始まった。ここまで2勝し、勝てば決勝トーナメント進出が決まるウェールズはキックオフ直後からペースをつかんだ。開始3分、中盤のラインアウトから右オープンに展開すると、サインプレーからFLジャック・モーガンが抜け出し、サポートしたSHガレス・デーヴィスがトライをあげる。SOダン・ビガーのゴールも決まって、7-0。
ガレス・アンスコム
オーストラリアも9分、大切な試合でSOに抜擢されたベン・ドナルドソンがPGを決める。この直後、ウェールズのプレーメイカーであるダン・ビガーが肩を負傷し、退場を余儀なくされる。さらにドナルドソンにPGを決められ、7-6。この窮地にチームを救ったのが交代出場のSOガレス・アンスコムだった。19分のPGは外したが、2分後にPKを得たときには、ゴールポストまで48mの距離を自ら「蹴る」と直訴。成功させて10-6とリードを広げる。
ラグビーワールドカップ2023 特集ページ
オーストラリアもボールを保持しながら攻めるが、ウェールズの「レッド・ウォール」(赤い壁)が前進を許さない。SHガレス・デーヴィスの素早い出足のタックルも光っていた。アンスコムがさらに2PGを加え、前半は16-6とウェールズのリードで折り返した。ウェールズは前半だけで103回ものタックルを決め、SHデーヴィスの正確なハイパントをWTBジョシュ・アダムズが走り込んでキャッチするなどシンプルに戦った。序盤はオーストラリアに圧力を受けたスクラムも修正し、途中からは逆にプレッシャーをかけはじめた。
ラグビーワールドカップ2023 フランス大会 プールC
【ハイライト動画】ウェールズ vsオーストラリア
後半、流れはさらにウェールズに傾く。後半3分、スクラムでオーストラリアの反則を誘うと、アンスコムがPGを決めて19-6。8分にはアンスコムが防御背後に蹴ったショートパントを追ってCTBニック・トンプキンズがインゴールに走り込んでトライ、アンスコムのゴールも決まって26-6と突き放す。以降はオーストラリアの規律が乱れて反則も増え、アンスコムが2PG、後半30分にはアンスコムがドロップゴールを決めて、35-6。後半はウェールズの攻撃時間が長くなり、一方的な展開だった。仕上げは終了間際の38分、ゴール前ラインアウトからモールを押し込み、23歳のキャプテン、ジャック・モーガンがダメ押しトライを決めた。
「ゲームをうまくコントロールできた。トライを与えなかったのも良かった」とは、ウェールズのウォーレン・ガットランドヘッドコーチ。鉄壁のディフェンスアはまさに「レッド・ウォール」。3連勝で勝ち点を14点と伸ばしたウェールズはプールCの2位以上を確定させ、決勝トーナメント一番乗り。プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたアンスコムは、「本当に嬉しいし、ほっとしました。ビガーはチームにとって大きな存在で、代わって出場した時は自分の役割を果たすことに集中しました」と話した。
エディー・ジョーンズヘッドコーチ
オーストラリアは1勝2敗で勝ち点6にとどまり、同じく勝ち点6のフィジーが下位2チームとの対戦を残していることから8強入りが厳しくなった。負傷で試合に出られなかったキャプテンのLOウィル・スケルトンは涙を浮かべた。エディー・ジョーンズヘッドコーチは、チームが為すすべなく負けていく様子を呆然と見つめていた。終了後は、ウェールズを祝福した上で、34点差という歴史的完敗に「オーストラリアのサポーターの皆さんに謝りたい。私たちのパフォーマンスは要求される水準に達していませんでした。このことは私が全面的に責任を負います」とコメントした。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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