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姫野和樹
ようやくつかんだ今夏初勝利の結末は劇的だった。リポビタンDチャレンジカップ2023 ラグビーパシフィックネーションズシリーズ「日本代表対トンガ代表」は、7月29日(土)、東大阪市花園ラグビー場で行われた。立見席も埋まった観客数は、21,138人。選手登場の前には照明が落とされ、最初にトンガ代表で記念の50キャップとなるSHソナタネ・タクルアが登場する。そして、覚悟を決めた表情の姫野和樹キャプテンを筆頭に日本代表が入場。陸上自衛隊中部方面音楽隊による両国国歌吹奏、日本ラグビー協会名誉総裁の彬子女王殿下からの両国選手への激励、トンガのウォークライ「シピタウ」が試合の格調を高めた。
ラグビーワールドカップ2023 特集ページ
試合前のコイントスで勝ったトンガは陣地を選択し、午後7時40分のキックオフは日本代表SO李承信が先に蹴り込んだ。これが10mラインに届かないミスキックとなって、トンガボールのスクラムとなる。以降は我慢のディフェンスが続いた。体格の大きいトンガに対して日本は2人かがりのダブルタックルで押し戻し、トンガのモールに対しても、低い姿勢で食い止める。先にトライをとったのは、日本だった。
ジョネ・ナイカブラ
前半20分、トンガ陣22mライン付近右隅のスクラムから、サインプレーを仕掛ける。SH齋藤直人が持ち出したボールに、SO李、インサイドCTB長田智希が走り込み、左側にいた長田にパスが渡る。さらに背後から走り込んだWTBセミシ・マシレワがパスを受けると、前に飛び出してきたディフェンダーをかわし、左タッチライン際にいたWTBジョネ・ナイカブラへロングパス。ナイカブラは爆発的スピードでインゴールまで駆け抜けた。準備されたアタックが一発で決まったシーンだった。
喜びもつかの間。トライ後のキックオフで流れを悪くする課題が露呈する。元ニュージーランド代表FBチャールズ・ピウタウのカウンターアタックから密集サイドを突かれて、この日が50キャップ目の記念試合となったSHソナタネ・タクルアにあっさりとトライを許したのだ。ボール争奪戦周辺をどう守るかという課題が残った。蒸し暑い気候の中でハンドリングエラーもあり、その後の日本は連続攻撃でディフェンスを崩すことができなかった。しかし、前半終了間際、左タッチライン際からナイカブラがインゴールへ蹴り込んだボールを忠実に追いかけたLOアマト・ファカタヴァがトライ。13-5と、8点のリードで折り返す。この夏、全試合に先発するファカタヴァの運動量、スピードはこの日も光っていた。
リポビタンDチャレンジカップ2023 ラグビーパシフィックネーションズシリーズ
【ハイライト動画】日本代表 vs. トンガ代表
松田力也
「後半の10分が良くないのは課題だが、そこで相手に主導権を渡してしまった」(姫野)。倒された選手がボールを放さない反則から2PGを決められ、後半7分で13-11と2点差に迫られてしまう。ここから日本はLOジェームス・ムーア、SO松田力也、PR具智元、SH流大ら2019年のラグビーワールドカップ(RWC)経験者を次々に投入し、攻撃のテンポを上げた。13分には、ラインアウトからのサインプレーで、マシレワが右コーナーにトライ。モールからトライを返されたが、後半27分、松田のPGで21-16と再びリードを広げる。
劇的な場面は後半39分に訪れた。トンガの連続攻撃を粘り強く守り、ノックオンを誘うと、日本は自陣から攻めた。松島幸太朗のパスを受けたマシレワが右タッチライン際を快走し、トンガ陣に入る。内側にサポートしたCTBディラン・ライリーにパスをしたが、このボールをトンガの選手にパスカットされ、逆に自陣まで一気に走られてしまう。トライされれば同点、ゴールも決まれば逆転される大ピンチだ。しかも、松島はパスをした直後に激しくタックルされて倒れていた。
マシレワのダメ押しトライかと盛り上がった観客席から、一転、悲鳴があがる。この声が松島を覚醒させた。インターセプトされたことを察知した松島はむくっと立ち上がり、猛然とボールキャリアーを追った。そして、足元にタックルし、間一髪で倒した。その後もパスをつながれるとトライされる可能性があったが、長田がパスのコースに入って防ぎ、アマト・ファカタヴァ、堀江翔太も素早くディフェンスに戻ってきた。なおも攻められたが堀江翔太がジャッカルで反則を誘い、ピンチを脱した。まさにファンとチームが一体になったドラマチックな勝利だった。
ジェイミー・ジョセフヘッドコーチは笑顔で勝利を喜んだ。「ディフェンスが強固なものになりました。選手たちが最後まで動き続け、タックルし続けたことをポジティブにとらえています」。今夏初勝利はRWCフランス大会に向けて明るい材料だが、密集サイドを簡単に破られたディフェンス、攻撃面のミスなど課題は多い。準備の試合はあと2つ。これをどう使って本番に間に合わせるか。首脳陣の手腕が問われる戦いになる。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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