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クボタスピアーズ船橋・東京ベイ:立川 理道 キャプテン
楽しくて苦しくて美しい。楽苦美(ラグビー)を表現するような初優勝だった。後半29分の木田晴斗のトライで逆転した直後、立川理道キャプテンは、チームメイトに言ったという。「まだ何も終わっていない。プラン通りやろう」。一瞬でもスキを見せればトライを獲ってくるのが王者ワイルドナイツである。その怖さを知り尽くしているからこその声がけだった。最後のスクラムが後半39分。残り1分、丁寧にボールをキープする。ひりひりするような緊張感。そして、ノーサイド。分厚い壁を突き破ったスピアーズの歓喜の雄叫びが国立競技場に響き渡った。
トップリーグ時代を含めて3連覇を狙う埼玉パナソニック ワイルドナイツ(埼玉WK)と、初のファイナリストとなったクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S東京ベイ)の戦いは、5月20日(土)、国立競技場に41,794人の観衆を集めた行われた。コロナ禍で中止が相次いだ昨季とは違い、今季は全試合が行われ、この決勝戦はディビジョン1の丁度100試合目だった。午後2時38分、S東京ベイのキックオフで試合は始まった。
前半11分、埼玉WKがPGチャンスを得るが、SO松田力也がこれを外す。松田は試合開始早々にタックルした際、頭部を強打していた。そのダメージからか、そのプレーは精彩を欠いていた。直後にS東京ベイはSH谷口和洋がディフェンスを突破し、WTB木田晴斗が左コーナーにトライを狙うも、ここは松田、FLラクラン・ボーシェー、WTBマリカ・コロインベテが猛然と戻って、コロインベテがタッチに押し出す。3人の圧力の中でトライ寸前までボールを運んだ木田の非凡さ。3人が危機管理能力を発揮した埼玉WKのディフェンスの凄みを感じるシーンだった。木田は地面で頭部を強打したがHIA(脳しんとうのチェック)の結果、12分後にフィールドに戻った。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ:木田 晴斗
埼玉WKにミスが目立つも一進一退の攻防が続く。前半20分、26分、S東京ベイがSOバーナード・フォーリーのPGで6-0とリード。27分には埼玉WKゴールに迫ってトライを奪うかに見えたが、HOマルコム・マークスが埼玉WKのFL福井翔大の低く鋭いタックルを受けノックオン。チャンスを逸する。その後、36分に松田、38分にフォーリーがPGを決めあって、前半は9-3で折り返した。
ジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1
【プレーオフトーナメント 決勝 ハイライト】埼玉ワイルドナイツ(D1 1位) vs. クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(D1 2位)
後半に入っても、互いに攻め、守り、どちらに流れが転ぶか分からない展開が続いた。6分、フォーリーのPGでスコアは、12-3。両チーム初のトライは後半18分に生まれた。埼玉WKがラインアウトからモールを押し込み、交代出場のHO堀江翔太がトライ。ゴールは松田に代わって登場したSO山沢拓也が決めて、12-10となる。25分には埼玉WKのWTB長田智希が山沢のロングパスをキャッチしてトライ。12-15と逆転に成功する。後半に強い埼玉WKの流れかと思われたが、スピアーズは29分、交代出場のSH藤原忍が右タッチライン際から上げたハイパントを、NO8ファウルア・マキシ、WTB根塚洸雅の2人が追ってボールを確保。すぐに左オープンサイドに展開すると、CTB立川理道が左タッチライン際で手を上げていた木田にキックパスを送る。木田は余裕を持ってこのボールをキャッチしてインゴールに駆け込んだ。17-15と逆転。フォーリーのゴールは決まらず、PGで逆転できる点差で残り10分の攻防となった。
この日のS東京ベイは一貫して相手陣に入ることを心掛け、パスは少なめにボールを持って前に出た。埼玉WKの良さを出させない戦い方は功を奏していた。そして、冒頭のシーンが訪れる。観客席のサポーターは総立ちでガッツポーズ、涙を見せる人も多かった。ノーサイドの瞬間、立川キャプテンは笑顔を見せず、相手選手、レフリーと握手した。埼玉WK、レフリーへの敬意を表す態度は天理大学時代から変わらない。「皆さんの応援が力になって勝てたことを嬉しく思います。こういうゲームができたのも、パナソニックがいて、たくさんのファンの皆さんがいて、レフリーがいたからこそ。その中で勝てたことを嬉しく思います」。
ノーサイドの瞬間
7シーズンにわたってチームの指揮を執ってきたフラン・ルディケヘッドコーチの眼差しも優しかった。「みんなの信頼が勝因です。常にベストを尽くすことを7年間積み重ねてきて、今年はコーチ陣、運営スタッフを含めて信じる力が芽生えた。その中でハードワークし、見えないところでの努力が実りました。また、ロビー・ディーンズさんと、この数年間高いスタンダードを保ち続けているワイルドナイツにも敬意を表します。ロビーさんは、さまざまな情報を共有してくれました。感謝しています」。
敗れた埼玉WKの態度も立派だった。坂手淳史キャプテンは「上手くいかない時間帯が多い中で、どちらに転ぶか分からないところに居続けたことを誇りに思います。自信は失っていません」と力強かった。ロビー・ディーンズ監督はいつも通り穏やかだった。「与えられたチャンスを失い、チャンスで焦ったところもあった。しかし、我々は負け犬ではありません。これを糧にして、またこの場に戻ってきます」。
初優勝したクボタスピアーズ船橋・東京ベイ
プレーヤーオブザマッチは立川理道。力強い縦突進、あくなきタックルでチームを引っ張った。彼が入団した2012年、チームはトップリーグ下部のトップイーストにいた。苦難の時代を経て勝ち取った頂点だった。トップイースト時代は想像もできなかった日本一を達成したスタジアムには、両チームの選手、ファンが称えあう美しい光景が広がっていた。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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