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山沢拓也(埼玉ワイルドナイツ)
埼玉ワイルドナイツ(埼玉WK)の底知れぬ強さが挑戦者の心を折る勝利だった。2月26日(日)、神戸総合運動公園ユニバー記念競技場には、寒空の下、7,830人の観客が詰めかけた。ホストのコベルコ神戸スティーラーズ(神戸S)のファンが多いが、快進撃を続ける埼玉WKのサポーターも遠路駆けつけていた。
午後2時30分、埼玉WKのSO松田力也のキックオフで試合は始まった。神戸SのFB山中亮平が蹴り返すと、これをキャッチしたFB山沢拓也がハイパントを蹴り上げる。日本代表選手たちの豪華な競演が試合への期待感を高めた。2003年のトップリーグ開幕年以来の勝利を目指す神戸Sは、スクラムで押し勝って反則を誘い、気迫あふれるタックルでプレッシャーをかけた。前半16分、SO李承信がタックルの際に頭部にダメージを受け、HIA(脳しんとうのチェンク)で一時退場。そのまま交代するアクシデントに見舞われたが、山中亮平がSOの位置でプレーし、チームを引っ張った。
一方、埼玉WKは松田、山沢のダブル司令塔が卓越したスキルを披露して得点をあげる。まずは前半18分、松田のパスがWTB野口竜司のトライを生んだ。密集に寄り気味だった神戸Sのディフェンスラインを見逃さず、スピードあるパスをCTBダミアン・デアレンデに送ってタックルを外したのだ。デアレンデから野口にパスが渡っての先制劇だった。24分、今度は山沢が魅せる。神戸Sのディフェンダーにトライを阻まれた直後のことだ。ゴールラインからのドロップアウトのキックをゴールポストまで40mの位置でキャッチした山沢は、前に走りながらボールをバウンドさせ、軽く右足を振り抜く。ボールは正確にゴールポストの間を通過。ドロップゴール成功で3点を追加する。スコアは、10-0。
神戸Sにすれば、好ディフェンスでトライを防いだ直後の失点で、精神的なダメージが大きかっただろう。前半27分、神戸Sもゴール前のスクラムからNO8マルセル・クッツェーがサイドアタックでゴールラインに迫り、最後はLOジェラード・カウリートウイオティがトライを返す。以降は互いにチャンスを作りながら得点できず、10-7で前半が終了する。後半の序盤は、埼玉WKが珍しく反則を繰り返し、神戸Sの山中がPGを決めて10-10の同点となる。
ジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1
【第9節ハイライト動画】コベルコ神戸スティーラーズ vs. 埼玉ワイルドナイツ
堀江翔太(埼玉ワイルドナイツ)
ゲームが動き始めたのは、後半7分、両チームがFW第一列の3人を一気に交代させてからだ。埼玉WKはクレイグ・ミラー、堀江翔太、ヴァル アサエリ愛。神戸Sは、五十嵐優、北出卓也、具智元。五十嵐以外は日本代表経験者である。具は神戸Sの試合には一年ぶりの復帰だった。この直後、神戸Sのカウリートウイオティが松田への危険なタックルでシンビン(10分間の一時退場)となってしまう。松田も自身史上初のHIAで退場するが、埼玉WKは山沢がSO、野口がFBという本来のポジションに戻って問題なくカバーする。この危険なタックルで得たPGチャンスを山沢が決めて、13-10とすると、後半16分、相手の反則で得たラインアウトのモールから堀江翔太がトライして、20-10とリードを広げる。
5分後、自陣で得たPKからトライが生まれる。タッチキックで前進すると、ハーフウェイラインを少し越えた左のラインアウトからまずはフィールド中央で縦に2度突進。ここで、右に位置していた山沢、野口が一気に左方向に走り、山沢の突破から野口につないで連続トライ。相手の反則を確実に得点する埼玉WKの真骨頂が発揮された連続トライだった。これでスコアは、27-10となり、流れは完全に傾く。心身ともに疲労が出てきた神戸Sの心を折るように、埼玉WKはボールを自在に動かしながら、交代出場のSH小山大輝らが、さらに3トライを畳みかけた。
「スティーラーズも結果が欲しい試合でした。何としても勝とうとして立ち向かってくるのは分かっていました。それに勝ち切れて良かったです。小山大輝がリーグ50キャップでトライがとれたことも嬉しく思っています」(ロビー・ディーンズ監督)。坂手淳史キャプテンは「きつい時間帯もありましたが、我慢強くディフェンスができて良かったです。ここがチーム力の出るところなので」と話し、「今回は、実行力ということにフォーカスして神戸に来ました。後半はそれによってモーメンタム(勢い)を作ることができました。それを前半からできるように頑張ります」と、貪欲に語った。ディーンズ監督は流れが変わった瞬間について問われると、こう解説した。「スティーラーズにカードが出ましたね。ああいう場面が大事です。相手が一人少なく、疲れが出てきたところで効果的なアタックをできたことが、モーメンタムにつながりました」。
野口竜司(埼玉ワイルドナイツ)
神戸Sの橋本皓キャプテンは落胆した表情で語った。「後半、徐々に崩されて(精神的にも)切れた感じになってしまいました。前半のチャンスにトライが取れなかったことが悔やまれます」。その言葉通り、ディフェンス突破の数は、25対24で埼玉WKがひとつだけ上回っているだけだった。チャンスを確実にものにする力に差があったということだ。プレーヤー・オブ・ザ・マッチは野口竜司。埼玉WKでは初めて11番(WTB)を背負って出場したが、反則を誘うタックル、チャンスを作るカウンターアタック、そして2トライと、与えられた役割を果たして9連勝に貢献した。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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