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三菱重工相模原ダイナボアーズ
「旋風」と評するにはまだ早いかもしれない。それでも、12月17日に開幕したNTTジャパンラグビー リーグワン2022-23の序盤の2節でもっともインパクトを残したチームといえば、今季よりディビジョン1(D1)に昇格した三菱重工相模原ダイナボアーズで間違いないだろう。
シーズンのオープニングマッチとなった第1節リコーブラックラムズ東京戦で34-8とボーナスポイント付きの勝利を挙げると、翌週は昨季5位のトヨタヴェルブリッツを27-25で撃破。D1の開幕2連勝は前年度王者の埼玉パナソニックワイルドナイツとダイナボアーズの2チームだけで、順位表ではそのワイルドナイツを勝ち点1差で抑え堂々の首位に立っている。まだ全16節のレギュラーシーズンの2試合を終えたばかりとはいえ、この状況を予想する人はほとんどいなかったはずだ。
躍進の仕掛け人は、今季より指揮を執るグレン・ディレーニーヘッドコーチ(HC)である。
ニュージーランドのカンタベリーやハイランダーズ、ウエールズのスカーレッツといった強豪クラブでコーチを歴任し、昨季よりディフェンスコーチとしてダイナボアーズに加入。長年の課題だった防御面をまたたく間に立て直し、リーグ戦での失点、失トライいずれもディビジョン2(D2)最少という堅守を築き上げた。安定感あるディフェンスをベースにロースコアの展開に持ち込んで競り勝つというスタイルを確立できたことが、入替戦勝利によるD1昇格の原動力となった。
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ディフェンスコーチに就任したディレーニーがまっ先に取り組んだのは、「自分たちが誰を代表して戦っているのかを選手一人ひとりに自覚させる」ことだった。練習グラウンドのある三菱重工相模原製作所の工場をメンバー全員で見学し、そこで働く人々にどんな姿を見せなければならないかを認識させた。背負うものを具体的に理解することは、チームに対する忠誠心と結束の高まりを呼ぶ。これまでなら出なかった「あと一歩」が出るようになり、カバーディフェンスの粘りと厳しさが飛躍的に向上したのは、明白だった。
裏方としてダイナボアーズを支える運営側のスタッフからも、ディレーニーHCの人柄を賞賛する声は数多く聞かれる。明るく、情熱にあふれ、常にユーモアを欠かさない。実績ある外国人選手を特別扱いするようなところがなく、誰に対しても分け隔てなく誠実な態度で接する。
高校卒業後に19歳で来日し、当時関東社会人リーグ所属のトーヨコで社員選手として3年半プレーした経験から、ディレーニーHCはコミュニケーションを何より大切にする。自身が発言する際はできるだけ通訳を介さず日本語でしゃべり、たとえばニュージーランド代表5キャップのNO8ジャクソン・ヘモポのような大物に対しても、可能な限り日本語で話すことを求めているという。あるスタッフは、「ジャックス(ヘモポの愛称)はすでに聞くだけならこちらのいったことをほぼ理解できるレベル。日本語検定試験の勉強もしています」と明かす。
もともとファミリー的な空気の強いチームだったが、ディレーニーHCの就任後のダイナボアーズは、一体感がさらに高まった印象を受ける。クラブに携わるすべてのメンバーが同じ方向を向き、それぞれの立場で役割に100パーセント専心できていることが、今季の好調につながっているのは間違いない。
グラウンド上のパフォーマンスで明確に進歩を感じるのは、コンタクト局面でまったく当たり負けしなくなったことだ。ラグビーの原点であるフィジカルバトルで互角以上に対抗できるため、攻守とも余裕を持ってプレーを判断し遂行できる。この点については、昨季最終戦からわずかひと月半後の7月中旬に早々とトレーニングを開始し、体づくりに取り組んできた成果といえるだろう。
シーズン前のインタビューで、ディレーニーHCはこう語っている。
三菱重工相模原ダイナボアーズ
「我々は D1に昇格したばかりのチームです。どこよりも早く始動することで、選手たちはいち早く自分の体を仕上げなければならないと自覚します。もし遅く始動していたら、体を仕上げることに時間をとられて、それ以外の準備が遅れていたかもしれません。また当然ながら、D1ではD2以上に強靭なフィジカリティが求められる。そこで対抗するためのトレーニングもしなければなりません。すべては理由があるからやっているのであり、昇格1年目の今シーズンは、我々にとってこの時間が必要だったのです」
戦力面では、新たに獲得した203センチ、121キロの南アフリカ出身のLOウォルト・スティーンカンプと、193センチ、102キロでオーストラリア代表3キャップを誇るCTBカーティス・ロナの存在が大きい。これまでチームに足りなかった「サイズとパワーで相手を圧倒できる柱」がFWとBKに加わったことで、セットピースが安定するとともに、膠着状況を打開できるようになった。
ブラックラムズ戦でプレーヤーオブザマッチを獲得したSO/CTBヘンリーブラッキンや、ヴェルブリッツ戦で好キックを連発したSOジェームス・シルコックも優れたパフォーマンスを発揮しており、コベルコ神戸スティーラーズに移籍したマイケル・リトルの穴を感じさせない。世界有数のプレーメイカーであるオーストラリア代表59キャップのSO/CTBマット・トゥームアも控えているだけに、ここからさらにチーム力を伸ばす余地も十分ある。
16節にわたるD1の戦いは長い。本当の厳しさを実感するのはここからだろう。それでも最高峰のステージで戦っていける手応えは確かにつかめた。この2つの勝利は、ダイナボアーズが次のレベルへと進むための貴重な財産になるはずだ。
「我々は入替戦でD1のチームに2度勝利し、D1で戦う権利をつかみとったチームです。ただそこに存在するだけでなく、プレーを通じてリーグにプラスをもたらすチームであると示す必要があります。自分たちはここにいるべきだということを、証明したい」(ディレーニーHC)
次節に対峙するのはディフェンディングチャンピオンのワイルドナイツ(1月7日12時キックオフ@熊谷)。チームの真価を証明する上でこれ以上ない相手だ。むろん昨季実質無敗の王者は甘くないだろう。それでも何かを期待したくなる魅力が、今のダイナボアーズにはある。
直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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