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芦塚仁(同志社大学)
一発勝負の緊迫感こそは大学選手権の醍醐味だ。敗北すなわちシーズン終了の張り詰めたムードが集中力を研ぎ澄ませ、チームの奥の奥に秘められた力まで引き出す。関東および関西の上位勢が登場してくる3回戦、12月11日に花園ラグビー場で行われた同志社大対福岡工業大の一戦も、そんな魅力にあふれるゲームとなった。
先に見せ場を作ったのは、1回戦から勝ち上がってきた九州学生リーグ1位の福岡工業大だ。開始6分、敵陣30メートル付近での左ラインアウトから狙い通りにサインプレーで前進し、CTB時任凛空が相手防御へのキックをみずからすくい上げてインゴールへ飛び込む。結果的には直前にノックオンがあったという判定でトライにはならなかったが、福岡工業大の緻密な準備とこの試合にかける気迫が立ち上るシーンだった。
しかしこのプレーで目を覚ましたかのように、同志社大もここから引き締まった攻守を展開する。福岡工業大の主軸であるPR鍋島秀源がデリバレイト・ノックオンで11分にシンビンとなると、そのペナルティから敵陣ゴール前まで進み、ラインアウトモールを一気に押し切って先制。17分にも同じ流れでゴールラインを越え、追加点を奪う。
さらに29分、相手ボールラインアウトのターンオーバーからWTB大森広太郎が右コーナーに飛び込むと、36分にはSO大島泰真のあざやかなラインブレイクからフォローしたNO8林慶音がインゴールへ。38分にも自陣からの連続攻撃をWTB芦塚仁が仕留めきり、35-0と大きく先行して前半を終えた。
後半。ここまで同志社大の堅守を崩しきれないシーンが続いていた福岡工業大が、開始早々にスタジアムを沸かせる。45分、キックレシーブからWTB讃井良太の好走で敵陣ゴールラインに迫ると、たたみかけるようにFWがラッシュ。最後はLO小杉龍海が密集脇をねじ込み、待望のトライを刻む。
しかし同志社もすぐに主導権を取り戻し、51分に入替で入ったばかりのFL奥平都太郎が判断よく前に出てポスト下へトライ。58分にはスピーディーな連続展開で相手ディフェンスを揺さぶり、右外にオーバーラップを作ってCTB市川亮太がフィニッシュする。62分にもハイパントを起点にボールを動かし続け、CTB西村海音が左中間に押さえた。
ラグビー 全国大学選手権 22/23 3回戦
【ハイライト動画】同志社大学 vs. 福岡工業大学
鍋島秀源(福岡工業大学)
これで54-5と点差は大きく開いたが、福岡工業大の戦う意志は折れなかった。ひるむことなくハツラツとパスをつないで同志社大防御に圧力をかけ、69分にワイドな左展開からPR鍋島秀源が豪快なランでチーム2本目のトライを挙げる。直後にモールで同志社大にトライを返されたものの、77分にはゴール前のスクラムをめくり上げてペナルティを奪い、クイックリスタートからHO沖本翔一がラックサイドを突いてグラウンディング。積み上げてきたものを感じさせるプレーで、ひたむきに立ち向かう姿勢を見せる。
最後は同志社大が連続攻撃で敵陣22メートル線内へ入り、SH藤田海元がPGを成功。62-17とリードを広げたところで、フルタイムの笛が鳴り響いた。
勝った同志社大はシーズンベストのパフォーマンスを披露した天理大戦を彷彿させる内容で、1週前の戦いがフロックではないことを証明した。特に光ったのは前に出て厳しく体を当て、相手を押し込み続ける意識の高さだ。アタックではラインアウトモールを軸にした得点パターンが確立し、SO大島の多彩なプレーメイクも強い輝きを放った。
シーズン序盤はパフォーマンスが安定せず苦しい戦いが続いたが、崖っぷちに立たされたことで覚悟が決まり、ここにきて急速にチームとしての一体感が高まりつつある。「結果がともなわなかったので学生も『このやり方で大丈夫なのか』という不安があったと思いますし、我々スタッフも苦しかった。でも絶対にそこでブレてはダメだと信じてやってきました。今、全員がしっかりと同じ方向へ向かっている感覚があります」(宮本啓希監督)。次戦の相手は前回大会の準々決勝で24-76と大敗を喫した帝京大学だ。この1年の歩みを証明する上で、これ以上ないチャレンジの舞台といえる。
敗れた福岡工業大も培ってきた力をいかんなく発揮し、ここまで勝ち進んできた意地を随所に感じさせた。底知れないポテンシャルを秘めたルーキー、CTB時任凛空の躍動感あふれるプレーは、新鮮な驚きと未来への大きな期待を抱かせた。「最後の20分までもつれるような展開に持ち込みたかったのですが、さすがに同志社大も強く、それをさせてくれなかった。ただ、地方のチームでもこれだけ戦えるというものは、見せられたのかなと思います」と宮浦成敏監督。地域リーグの代表が全国の舞台にチャレンジする意義を体現する、見ごたえある奮闘だった。
直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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