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武内慎(明治大学)
4戦全勝で並ぶ上位勢同士の激突の大事な初戦に快勝できた。ひたむきなディフェンスを伝統とする慶應義塾大から、8トライを奪う圧巻のパフォーマンス。この勝利は、4シーズンぶりの覇権奪回を期す明治大に確かな自信と大きな勢いをもたらすだろう。
80分を通して際立ったのは、コンタクトエリアで貪欲に前に出る姿勢と、ボールを動かす意識の高さだ。攻守とも接点で厳しく体を当てて圧力をかけ、FW、BK一体のアタックで自在にスペースを攻略する。慶應義塾大の懸命のタックルにもひるまず、築き上げてきたラグビーを精度高く遂行できたことが、54-3の完勝の要因となった。
この試合にかける明治大の意志が立ち上ったのは、開始7分の先制トライの場面だ。FKからの速攻を起点に一人ひとりが力強くゲインを刻んでゴールラインに迫り、15フェーズにおよぶ長い連続攻撃を仕留め切ってHO松下潤一郎がフィニッシュ。決して強引なプレーには傾かず、誰もが忠実に役割を果たし続けた一連のプレーに、自分たちのスタイルへの確信とチームの結束は浮かんだ。
伊藤耕太郎(明治大学)
その後19分にPGで3点を返されたものの、23分に右オープン展開でゲームキャプテンのCTB齊藤誉哉が好走し、外をフォローしたFL森山雄太が右スミに押さえる。35分には敵陣22メートルライン付近のスクラムから、BKのサインプレーでSO伊藤耕太郎があざやかにブレイク。そのまま滑るようなランでインゴール中央へ駆け抜けた。
このトライで流れを決定的にした明治大は、38分にもSO伊藤が相手防御のギャップを逃さず突いて抜け出し、パスを受けたCTB齊藤が力強い走りで左中間へ。前半だけで4本目となるトライを挙げ、26-3と大きく先行してハーフタイムを迎えた。
残り40分で23点差。追いかける慶應義塾大にすればこれが瀬戸際というスコアだ。逆に明治大はあと1本取ればほぼゲームを決められる。果たして次のトライを挙げたのは、紫紺のジャージーだった。
ラグビー 関東大学対抗戦2022
【ハイライト動画】明治大学 vs. 慶應義塾大学
後半開始直後、防御裏へのショートパントをSH萩原周が落ち着いて処理し、すかさず切り返す。FB安田昂平のキックをチェイスしたWTB秋濱悠太が片手ですくい上げ、オフロードで内へ。浮き球を腕に収めたNO8木戸大士郎がポスト横になだれ込んだ。
慶應義塾大もここから開き直って攻め、敵陣レッドゾーンでチャンスを作るが、明治大は大差リードにも緩むことなくタイトに体を張り続け、ゴールラインを割らせない。複数のピンチを堂々と切り抜けると、61分にゴール前の混戦からSO伊藤がタックラーをかいくぐるように抜け出してポスト横にグラウンディング。精神的にも相手にダメージを与えるこのトライで、ふたたび攻勢に転じる。
以後はベンチのフレッシュレッグを次々と投入してエナジーを持続し、危なげなくゲームをコントロール。65分にCTB廣瀬雄也の突破からLO武内慎が右中間へ飛び込んで追加点を挙げれば、終了間際の85分には相手のパスをインターセプトしたCTB齊藤がこの日2本目のトライをマーク。得点を50の大台に乗せて、試合を締めくくった。
これで明治大は開幕からの連勝を5に伸ばし、3トライ差以上の勝利によるボーナスポイントも加えて勝点は24となった。この後の試合で帝京大が早稲田大に49-17と快勝したため勝点1差は変わらなかったが、充実したゲーム内容からは、ここにきて急速にチーム力が高まりつつあることをうかがわせる。
夏合宿や秋シーズンの序盤戦では攻守にチグハグなシーンが目立ったが、試合を重ねるごとに戦い方の浸透と相互理解が進み、一体感あるプレーをフィールドで表現できるようになってきた。看板であるセットプレーの安定感に加え、ここ一番の勝負強さで知られる慶應義塾大をノートライに抑えるなど、ディフェンス面が成熟してきたことも心強い。2週後の11月20日、秩父宮での帝京大との全勝対決(14時キックオフ)は、対抗戦はもちろん大学選手権の優勝争いをも左右する大一番になりそうだ。
今季初黒星を喫した慶應義塾大は好タックルで相手キャリアーを押し返す場面もあったものの、明治大の厚みのあるプレッシャーを断ち切るまでには至らず、早い時間帯に引き離されたことで苦しい展開を強いられた。先に主導権を握って自分たちのペースで試合を進め、少ない好機をスコアに結びつけることが、今後のタフなゲームを戦い抜く上でのテーマだろう。対抗戦の優勝争いへの生き残りをかけた11月23日の早稲田大戦(@秩父宮、14時キックオフ)での巻き返しが注目される。
直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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