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松島幸太朗
快勝の流れから一転、最後は薄い氷の上で歩を進めるような展開。それでも最後に勝ち切ったことには、大きな価値がある。
ワラビーズ予備軍のオーストラリアA代表を招いての3連戦のシリーズ最終戦。国代表同士の試合ではないためJAPAN XVとしての対戦ながら、位置づけは限りなくテストマッチに近い。そんな大切なゲームで、桜の勇士たちは築き上げてきたスタイルを随所に発揮して勝利をつかみ取った。
山中亮平
これまでの2戦と同様、この日も先にスコアを刻んだのはJAPAN XVだった。開始3分、中盤の右展開からCTBディラン・ライリーが防御裏へキックを転がし、すばやく反応したWTB松島幸太朗がライン際でキャッチ。内へのリターンパスを足にかけたFB山中亮平がそのままインゴールで押さえ、早々に先制トライを挙げる。
その後9分にオーストラリアAにトライを奪われ追いつかれるも、JAPAN XVは速いテンポでボールを動かしてリズムを生み出し、徐々に勢いを盛り返す。そして18分、ゴール前で得たマイボールラインアウトから、NO8テビタ・タタフが豪快にタックラーを弾いてグラウンディング。ふたたび先行すると、22分にも同じような位置のラインアウトでタタフがサインプレーからあざやかに抜け出し、インゴールへ滑り込んだ。
さらにその5分後には、小刻みなパスのつなぎからCTBライリーがラインブレイクし、巧みなコースどりで50m近くを走り切ってゴールラインを越える。いずれもSO李承信がゴールを決め、スコアは一気に28-7まで広がった。
オーストラリアAもここで集中力を発揮し、32分、36分とミスに乗じて2トライを返したが、JAPAN XVは前半終了間際にもスピーディーなオープン攻撃でWTB松島が大外のスペースを駆け抜けトライ。世界的強国とはいえ、フル代表でないチームに3つ続けて負けるわけにはいかない。そんな決意が立ち上るようなパフォーマンスで、最初の40分を終えた。
迎えた後半。波に乗る日本代表は、キックオフ間もない42分にグラウンドいっぱいを使ったアタックからLOジャック・コーネルセンがチーム6本目となるトライをマークする。これでスコアは、この日最大の23点差まで広がった(42-19)。
トライを決めたジャック・コーネルセンとリーチマイケル
普通ならこれで勝負ありという展開。しかし、ワラビーズ昇格に燃えるオーストラリアAの選手たちはそう甘くはなかった。入替で入ったSHライアン・ロネガン、LOケイデン・ネヴィルらを軸に自分たちの強みに立ち返り、ここから猛烈な追い上げを見せる。
48分、ラインアウトモールからFLブラッド・ウィルキンが近場をねじ込んで反撃の狼煙を上げると、55分にもゴール前のペナルティで速攻を仕掛け、ウィルキンがふたたびインゴールへ。60分にはターンオーバーのターンオーバーからHOラクラン・ロネガンが左コーナーへ飛び込み、たちまちワンチャンスで射程圏内の7点差に詰め寄る。
JAPAN XVも懸命に体を当てて抗うが、いったん傾いた流れは簡単には動かない。67分、オーストラリアAはたたみかけるような連続攻撃で左ショートサイドを攻略し、WTBディラン・ピーチが腰の強い走りで左隅にトライ。ゴールが外れかろうじてリードは残ったものの、点差はついに「2」まで縮まった。
またしても同じ轍を踏むのか。それとも今度こそ1、2戦とは違う結末を迎えられるのか。まさにJAPAN XVの真価が問われる局面だったが、ここで大きな存在感を示したのが、FB山中と途中出場のSO山沢拓也だった。
ファウルア・マキシ
まずは69分過ぎ、山中が左足のロングキックで大きく陣地を進めると、70分にはペナルティから山沢が測ったようなタッチキックで一気に敵陣ゴール前へ。準備したムーブからNO8ファウルア・マキシが突き抜け、難しい角度のゴールを山沢が見事に通して9点差まで引き離す。
終盤はお互いに消耗する中での意地のぶつかり合いとなり、JAPAN XVは攻め込まれながらも粘り強く守り続けて、一歩ずつ勝利へと近づいていく。80分、オーストラリアAに8本目のトライを許したが、ここでフルタイム。待ちに待った勝利の笛が鳴り響き、選手たちに安堵の笑顔が広がった。
ラグビー日本代表強化試合 第3戦
【ハイライト動画】JAPAN XV vs. オーストラリアA(10月14日)
「途中、相手の勢いに自分たちのプレーができない時間帯もあったが、その時でも切れず、みんなでコミュニケーションをとり合って、しっかり目を見てコールし合っていた。それによってつながりが切れずに、ゲームを進められたと思います」
キャプテンのHO坂手淳史がそう振り返ったように、オーストラリアAの猛攻に劣勢を強いられるシーンはあったものの、チームとしての連携を保ち、土俵際で踏みとどまれた点は、1、2戦からの進歩といえるだろう。依然としてソフトなトライを与えてしまう課題は残ったが、コンタクト局面のバトルではゲームを通して十分対抗できていた。脳震盪から復帰し潜在力を示したSO山沢、同じく途中出場から再三好プレーを見せたPR竹内柊平とNO8マキシの活躍も、貴重な収穫だ。
シリーズは1勝2敗の負け越しとなったが、この3連戦で日本代表が得たものは計り知れない。タフな真剣勝負で体を当ててつかんだ感触は、2週後に迫ったニュージーランド代表とのテストマッチ、そしてその先に控えるヨーロッパツアーでのイングランド戦とフランス戦に、必ずつながるはずだ。
「1試合目、2試合目とだんだん成長して、3試合目も成長することでこうして勝つことができました。この後の2週間でもっともっと成長して、次のオールブラックス戦でいいラグビーを見せて、勝てるようにがんばっていきたいと思います」(HO坂手)
本当の決戦はこれから。とびきり歯応えのある相手とのトレーニングマッチ最終戦、手応えと課題が折り重なる内容での勝利に、未来への想像はふくらむ。着実にステップを重ねていることを実感する、大阪の夜だった。
文:直江 光信
直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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