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2022年8月27日は日本ラグビー史に深く刻まれる日になった。秩父宮ラグビー場には、4,569人の観衆が集い、その多くが日本代表ジャージーをまとっていた。女子アイルランド代表来日第2戦は、午後7時、女子日本代表(サクラフィフティーン)SO大塚朱紗のキックオフで始まった。
前半3分、アイルランドSOダナ・オブライエンの好キックで自陣深く攻め込まれ、ラインアウトからモールを組まれる。第1戦ではモールを押し込まれたこともあって、日本がディフェンスに集中した瞬間、アイルランドはSHエルサ・ヒューズに右ショートサイドを突かれ、WTBナターシャ・ビーハンにトライを奪われた。しかし、この日の日本は第1戦に破綻したディフェンスを修正し、反則も少なく、我慢強く戦った。前半16分には、アイルランド陣ゴール前のスクラムからSO大塚が右中間にトライ。5-5の同点とする。
19分、アイルランドのモールをがっちり止め、FL長田いろはがジャッカルでピンチを防ぐ。ラインアウトは身長差もあって第1戦同様苦しんだが、スクラムは、PR南早紀キャプテン、HO永田虹歩、PRラベマイまことのFW第一列が背中のぴんと伸びた低い姿勢で安定。ここが勝因の一つになった。前半34分、アイルランドゴール前のスクラムからSH阿部恵が右に持って出て、CTB中山潮音がダミーで走り込み、外に開いたSO大塚へパス。その内側に走り込んだFB松田凛日はボールを受けるとタックルを弾き飛ばし、大歓声のなか右中間インゴールへ躍り込む。大塚がゴールも決めて、12-5とリードした。
ハーフタイム。歴代の女子日本代表選手たちへのキャップ贈呈式が行われた。キャップは国を代表して戦った選手の名誉の称号だが、実際に飾り帽が贈られる。日本のキャップ制度は、男子は1982年に始まり、今回ようやく女子のキャップ制度が始まった。1991年の第1回女子ラグビーワールドカップ以降の代表選手に贈られ、15人制は197名、7人制は112名が対象。この日のスタジアムには114名の元代表選手が集った。歴史的なセレモニーを感慨深げに見つめる観客席。代表してキャップを受けた一人、冨田真紀子さんの頬を大粒の涙がつたった。
ラグビー女子日本代表テストマッチ2022
【ハイライト動画】日本 vs. アイルランド(8月27日)
歴史を繋いだ元代表選手たちの応援も力を与えたのだろう。後半も日本は好タックルを連発する。なかでもPRラベマイの前に出るタックルは出色だった。9分、スクラムからの連続攻撃で大塚のロングパスを受けたWTB名倉ひなのがトライ。15分には、CTB古田真菜のパスを受けたFB松田がタッチライン際で2人のタックルをハンドオフでかわし、バックスタンドの観客の前を約40m駆け抜ける。左中間にトライして、22-5。その後は、イングランドでプレーするPR加藤幸子、SH津久井萌など交代選手が活躍し、25分には加藤が勝利を決定づけるトライ。29-10とした。その後も日本は速いテンポで攻め続け、そのままノーサイドの笛が鳴る。アイルランド代表との7度目の対戦での初勝利だった。
試合後のインタビュー。南早紀キャプテンは開口一番「最高です!」と叫んだ。盛り上がる観客席。「先週大敗した後、自分たちの積み上げてきたものは何なのか見つめなおし、自分たちにできることを100%出そうと話しました」。キャプテンの言葉通り、個々の選手が自分の役割を全力でやり遂げた80分だった。獲得率の低かったラインアウトほか課題も多いが、10月8日、ニュージーランドで開幕するラグビーワールドカップに向かって自信を深める夜になった。
レスリー・マッケンジーヘッドコーチも最初の言葉は「最高です!」。キャプテンと同じ言葉でチームの結束を感じさせた。ヘッドコーチは、「日本代表ジャージーに包まれるスペシャルな時間でした」と言ったあと、アイルランド代表のジャージーを着て応援した人々にも感謝の言葉を述べた。アイルランド代表のグレッグ・マクウィリアムズヘッドコーチは日本の選手たちの円陣に入って祝福した。試合後は「このツアーは彼女たち(アイルランド代表選手たち)に人生の良い経験になったでしょう」と話した。ラグビーが大切にするノーサイドを感じる光景が広がっていた。
日本の選手たちの献身的で、ラグビーが好きだという気持ちを感じるプレーは見る者の胸を打った。観客席には、歴史をつないできた女子選手たち、温かいファンがいた。日本ラグビーにとって特別な夜だった。それはアイルランドの選手たちの心にも響いただろう。両国の交流は今後さらに深いものになりそうだ。
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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