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【ハイライト動画あり】温かくて激しいチャリティーマッチ。 日本代表入り目指すエマージング ブロッサムズが トンガサムライフィフティーンを破る
村上晃一ラグビーコラム by 村上 晃一EMERGING BLOSSOMS 竹山晃暉
これほどまでに温かくて優しい観客に包まれたゲームはなかったかもしれない。1月に発生したトンガ北部海底火山の噴火によるトンガ王国の被災者救援や復興支援を目的としたチャリティーマッチ。6月11日(土)、秩父宮ラグビー場には、8,055人の観客が集った。キックオフ前のスクラムユニゾン、おうら少年少女合唱隊SING!、トンガサムライフィフティーン(TSF)の団長のノフォムリ・タウモエフォラウさんの両国国歌斉唱には温かい拍手が送られ、この日のためにトンガの選手たちが作ったシピタウ(ウォークライ)「ムテキ・トフィア」の迫力に感動の輪が広がった。
ジャパンラグビーチャリティーマッチ 2022
TONGA SAMURAI XVによる「シピタウ」ムテキ・トフィア
トフィアとは、トンガにある島の名前で、今回の災害で神様に守られた聖なる場所だという。神様に守られた無敵のチームという意味が込められているのだ。ムテキ・トフィアをリードしたのは、ラトゥ志南利監督の息子ラトゥ クルーガー。最後は日本語の「感謝(カンシャ!)」の言葉で締めくくられた。試合の発案者ラトゥ志南利監督は、次のように話した。「日本にいるトンガ人はほとんどがラグビー選手です。ラグビー選手の力で、自分たちの国をサポートしたいと思いました。その想いに応えてくれた日本ラグビー協会、選手たち、ファンの皆さんに感謝しています。感謝を込めてプレーしますが、中島イシレリのような日本代表復帰を目指す選手もいます。やるからには勝ちにいきます」。
EMERGING BLOSSOMS 立川理道
対戦するのは、もっとも日本代表に近い選手で構成されたエマージング ブロッサムズ(EB)。日本代表経験豊富なSO田村優、CTB立川理道、ラファエレ ティモシーもおり、ベテランと若手が融合したチーム編成だった。彼らが目指すのは日本代表入りである。午後1時、EBボールのキックオフ。立ち上がりから激しいコンタクトプレーの応酬で観客が沸く。先制したのはEBだった。前半8分、TSF陣内深く入ったスクラムから攻め、最後はLOヴィンピー・ファンデルヴァルトと田村優がシザースで攻める角度を変え、田村がインゴール右中間に躍り込んだ。安定したスクラム、素早いテンポの攻撃で優位に試合を進めていたEBだが、TSFも個々のパワフルな突進で流れを作り、23分、中島イシレリからパスを受けたLOエセイ・ハアンガナがゴール左中間にトライをあげた。ラトゥがゴールを決めて、7-7。
ジャパンラグビーチャリティーマッチ 2022
【ハイライト】EMERGING BLOSSOMS vs. TONGA SAMURAI XV
TONGA SAMURAI XV レメキ ロマノ ラヴァ
その直後、EBはラファエレの防御背後へのキックでチャンスを作り、FB尾崎晟也が、TSFのSOレメキ ロマノ ラヴァにゴールライン直前でタックル。その後のラックから出たボールがインゴールに入った瞬間を見逃さず、SH茂野海人が押さえてトライを追加した。36分には、EBがゴール前のラインアウトからモールを組み、HO堀越康介がトライ。17-7と突き放した。後半に入ると、EBがさらにテンポアップ。3分、ワイドな展開でボールを動かし、最後は、尾崎からWTB竹山晃暉にパスが渡ってトライ。24-7とした。TSFも横浜イーグルスのシオネ・ハラシリがトライを返したが、後半34分、EBのテビタ・タタフが5人、6人とタックルをかわす凄まじい突進で約20mを駆け抜け、ダメ押しのトライをあげた。スコアは、31-12。タタフは80分フル出場で突進、ジャッカルと大活躍。LO辻雄康も190cm、113kgと国際レベルのLOとしては小さいサイズながら、相手ボールをもぎ取るなどフィジカル自慢のトンガの選手に負けない強さを見せつけた。
この試合はトンガ語の実況・解説付きでトンガ王国にも配信された。両チームの選手のモチベーションが高く、最後まで緊張感ある好試合となった。EBの堀川隆延監督は、チャリティーマッチの意義を理解した上で選手たちの健闘をたたえた。「自分たちは何のために戦うのか、存在意義とは何なのか。あくまで我々が目指すのは日本代表であって、日本代表になったその先に、ラグビーワールドカップに勝つという道標がある。常に挑戦し続けることについて選手と一週間話してきました。選手たちはいいチャレンジをしてくれたと思います」
1980年、初のトンガ人留学生としてホポイ・タイオネさんと来日したノフォムリ・タウモエフォラウ団長、日本代表として3度のラグビーワールドカップに出場したラトゥ志南利監督ほかTSFのスタッフは長らく日本で活躍したトンガ出身のラグビーマンばかり。プレーしたメンバーは日本の中学、高校、大学でラグビーや日本文化を学んだ選手が多かった。日本とトンガの選手たちがともに歩んだ42年のラグビー史が凝縮されたチャリティーマッチだった。試合が終わり、両チームが円陣なって祈りを捧げる。トンガサムライフィフティーンはグラウンドを一周して感謝に意を表しながら、何度も「ムテキ・トフィア」を舞った。ほとんどの観客は全選手がフィールドから姿を消すまで見守り、拍手を送っていた。トンガ王国へのサポート、両チームへの感謝の意を表するためだろう。
日本ラグビー協会はチャリティーマッチの収益金を駐日トンガ王国大使館へ寄付する。何度も感謝の言葉を述べたラトゥ志南利監督は今後もTSFの試合を希望している。それが今後もトンガに思いを寄せることにつながるからだ。しかし、継続するためにはこの試合にもう一つの価値がなくてはいけない。日本代表候補選手たちの強化に資する試合であれば、継続の可能性は高くなる。そういう面でも意義深い試合だった。2022年6月11日は、日本とトンガが絆を深めただけではなく、新たな一歩をしるした歴史的な日でもあった。
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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