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アグレッシブに攻撃を仕掛ける東京サンゴリアス(東京SG)か、堅守速攻の埼玉ワイルドナイツ(埼玉WK)か。好対照の2チームによる決勝戦は期待通りの僅差勝負となった。2022年5月29日(日)、真夏のような日差しが降り注ぐ国立競技場には今季最多の33,604人の観衆が訪れた。午後3時7分、東京SGのFBダミアン・マッケンジーのキックオフで熱戦の幕が開いた。序盤は地域を進めるキックの応酬となる。東京SGはマッケンジー、SO田村煕、埼玉WKはSO山沢拓也、WTB竹山晃暉、FB野口竜司が慎重に相手陣深くへのキックを繰り返す。
前半6分、マッケンジーが先制PGを決めれば、14分には山沢がPGを返し、3-3の同点。埼玉WKのFLラクラン・ボーシェーが得意のジャッカルを決めると、東京SGもPR垣永真之介のジャッカルで会心の笑顔。一進一退の攻防の中で、先にトライを奪ったのは埼玉WKだった。前半28分、東京SG陣中盤の右ラインアウトから左オープンに展開し、CTBハドレー・パークスが縦突進。ここでできたポイントから、さらに左へ。SH内田啓介が山沢を飛ばしてCTBディラン・ライリーにパスし、ライリーは左斜めに走って、東京SGのCTB中村亮土、サム・ケレビの2人を引き付けて野口にパス。抜け出した野口からWTBマリカ・コロインベテにボールが渡って両チーム初のトライが生まれた。山沢のゴールも決まって、10-3。
後半32分、埼玉WKのコロインベテがインゴールに駆け込み、トライが決まったかと思われる場面があったが、ボールのつなぎの中でノックオンがあったという判定でトライキャンセル。埼玉WKは前半11分にもライリーのラストパスが映像判定でスローフォワードとされ、トライできていなかった。ディフェンスを崩すシーンは埼玉WKのほうが多かった。
対する東京SGは、埼玉WK得意のインターセプトをされないように短いパスを使ってボールキャリアーが力強く前進しチャンスを作った。もっとも惜しかったのは、前半39分、マッケンジーがゴールラインに迫ったときだ。連続攻撃の最後にマッケンジーがタックルを振り切ったかに見えたのだが、山沢が持ち前の俊足を生かして追いかけ、ゴール直前でマッケンジーの足を右手で抱え、同時にボールを持つ左手を触った。直後、マッケンジーの左手からボールがこぼれ落ちる。トライが決まっていれば同点になった可能性があり、とてつもなく大きなトライセービングタックルだった。
ジャパンラグビーリーグワン2022ディビジョン1
【プレーオフ決勝 ハイライト】東京サンゴリアス vs. 埼玉ワイルドナイツ
東京SGの苦戦の要因の一つはラインアウトだ。「毎回、(こちらも)ジャンパーが飛ぶ。スチールできなくても、飛ぶことで相手のフッカーはプレッシャーを感じるものです」(埼玉WK・坂手淳史キャプテン)。東京SGは前半だけで4度ボールを失った。ボールを確保できてもその後の攻撃でミスが起きる。セットプレーの不安定さが、攻撃的スタイルを披露する機会を少なくしてしまっていた。
後半は埼玉WKもタッチキックが短くなるなど、ミスや反則で苦しむ時間帯があった。後半12分、17分にマッケンジーがPGを決めて、10-9の1点差。山沢もPGを返すと、マッケンジーもPGを決めて、後半26分で13-12。まさに「ファイナルラグビー」が展開される。勝敗を決定づけたのは、後半30分あたりのスクラムだった。ハーフウェイラインからやや東京SG陣に入ったスクラムで、東京SGがボールを出そうとした刹那、埼玉WKは「第二波」と言うべき猛プッシュで押し込んだ。判定は、東京SGのペナルティ。このPKからタッチキックを選択した埼玉WKは、ラインアウトからの攻撃でライリーがゴール右端にトライし、18-12とリードを広げた。
最後の10分の戦いも我慢比べになったが、埼玉WKが東京SGのトライを許さずに勝ちきり、リーグワン初代王者に輝いた。PR稲垣啓太は「シーズンを通して調整が難しかった。我々だけではなく、ファンの皆さんもそうでしょう。その中でたくさんの観客に集まっていただき、いい終わり方ができて最高です」と喜びを語った。「80分間を通して、反則を少なくし、相手の反則を誘うのが我々のテーマでした。きょうはそれができたと思います」。反則数は、東京SGが8、埼玉WKが6だった。
埼玉WKの坂手淳史キャプテンは、チームの強さついてこう語った。「みんなが自分の役割を果たせるプロフェッショナルなチームです」。各選手の責任感あるプレーは、ディフェンス面でよく発揮されていた。試合中に棒立ちになっているような選手は皆無で、常に組織の中で機能しようと動き続けていた。タックルしてすぐに起き上がって次に備えるときもあれば、人数をかけて一気にターンオーバーを狙うこともある。瞬時の判断も的確だった。実は準決勝の最後の10分間に4名の負傷者が出ていた。そのため、PR藤井大喜が昨年のチーム加入後初先発。FW第一列の3人を一気に交代させるのが最近の必勝パターンだったが、クレイグ・ミラーの怪我で稲垣がフル出場でスクラムを支えた。選手層の厚さ、戦略・戦術の浸透度も含め、チームとしての底力を感じる優勝だった。
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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