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バーナード・フォーリー(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)
4月24日、江戸川陸上競技場は初夏のようだった。気温は24度。クボタスピアーズ船橋・東京(S東京ベイ)のサポーター「オレンジアーミー」の鮮やかな応援着が強い日差しに映えた。S東京ベイは勝ってプレーオフ進出を決めたい大切な試合だったが、この日の神戸スティーラーズ(神戸S)は手ごわかった。
試合前、4月17日に急逝したスティーブ・カンバーランド氏(神戸ヘッドFWコーチ)への黙とうがささげられた。神戸Sの選手たちには恩人へ勝利を届けたいという決意の表情があった。2008年から神戸Sに関わり、近鉄ライナーズでもコーチ経験のある同氏への黙とうは今節のすべての試合会場で行われた。神戸Sだけではなく、S東京ベイも喪章をつけて戦う特別な試合だった。
正午、神戸SOアーロン・クルーデンのキックオフ。立ち上がりはS東京ベイが連続攻撃を仕掛けるが、ハンドリングエラーでチャンスを逸する。先制したのは神戸だった。前半7分、自陣からパスをつないだS東京ベイに対して、神戸のディフェンスラインがプレッシャーをかける。S東京ベイの立川理道のパスを、神戸CTB李承信がもののみごとにインターセプト。ここでできたポイントから、本来のWTBではなく、NO8で出場のアタアタ・モエアキオラがディフェンスの背後のグラバーキック(地面を転がるキック)。これをFB山中亮平が確保し、最後はWTBアンダーソン フレイザーにつないだ。ゴールは外れて、0-5。
しかし、S東京ベイは前半13分、神戸ゴール前のラインアウトからモールを押し込み、FLトゥパ フィナウがゴール右隅にトライ。難しいゴールをSOバーナード・フォーリーが決めて、7-5と逆転に成功する。この日は、暑さに加えて風も強く、キックが大きく流されたり、ラインアウトが乱れたり。また、汗のせいかハンドリングエラーも多く、ボールは両チームの間を行ったり来たりしてスリリングな展開となる。前半16分、クルーデンのトライで神戸が逆転すると、31分、フォーリーがPGを決めて、スコアは、10-12。前半終了間際には神戸LOのJD・シカリングがトライして、再び10-19で神戸がリードを広げた。
JD・シカリング(コベルコ神戸スティーラーズ)
前半は大きくパスを展開してミスの多かったS東京ベイだが、後半の立ち上がりはPRオペティ・ヘル、交代出場のLOデーヴィッド・ブルブリングらが縦に縦にボールを運び、最後はフォーリーがトライ。17-19とする。だが、神戸もすぐに反撃。外側の選手が前に出てくるS東京ベイのディフェンスを利用し、パスのタイミングを遅らせてすれ違いざまに抜け出し、防御背後へのキックを巧みに使うなど効果的を繰り出した。後半6分、S東京ベイのディフェンスラインのギャップをついてアンダーソンが突破し、SH中嶋大希がトライして、17-26と差を広げた。「神戸の攻撃はスピアーズのディフェンスを分析してデザインされていたと思います」(S東京ベイ立川理道キャプテン)。それを理解したうえで、S東京ベイは慌てず、我慢強く戦った。
後半9分、相手陣深くのラインアウトを得たS東京ベイは、FLピーター・ラブスカフニを縦突進させて起点を作り、オペティ・ヘルがタックラーを引きずりながらトライし、22-26と迫る。12分、李承信にPGを決められたものの、25分、フォーリーが値千金のインターセプトからトライをあげ、29-29の同点に追いついた。神戸の自陣からの攻撃だったのだが、もしパスが通っていたら神戸の大きなチャンスになるところだった。勝負を決めたパスカットともいえる。
その後も一進一退の攻防が続く。両者PGを決めあい、35-32のS東京ベイリードで迎えた後半39分、神戸陣中盤のスクラムからNO8ファウルア・マキシがサイドアタック。このボールを立川、FBゲラード・ファンデンヒーファーらがつないでフォーリーがゴールに迫り、最後は交代出場のSH藤原忍が左中間にトライ。40-32として勝負を決めた。神戸のゲームキャプテン橋本皓は「(カンバーランドさんに)勝つ姿を見せたかった。(精神的に)難しい中でしっかり準備して戦うことはできたと思います」と無念の表情を浮かべた。
ジャパンラグビーリーグワン2022ディビジョン1
【第14節ハイライト】 クボタスピアーズ船橋・東京ベイ vs. コベルコ神戸スティーラーズ
S東京ベイのフラン・ルディケヘッドコーチは両軍の選手たちをねぎらった。「まずはカンバーランドさんのこと、お悔やみ申し上げます。感情的に難しいところ戦った神戸の選手たちを尊敬します。スピアーズの選手たちメンタル面を試される試合で、よく我慢しました」。この試合では若い選手たちの活躍も光った。神戸ではFL井上遼(報徳学園→明大、24歳)がリーグワンで初先発、リザーブからの登場だがFL山田生真(東海大仰星→東海大、23歳)、CTB池永玄太郎(上宮太子→天理大、25歳)がリーグワンデビュー。S東京ベイでは、この春に入団したばかりのWTB木田晴斗(関西大倉→立命館大、23歳)が初先発でフィジカルの強さを披露。PR紙森陽太(大阪桐蔭→近畿大、22歳)、FBハラトア・ヴァイレア(日体大柏→日体大、23歳)がリーグワンデビューを飾った。いずれも将来のチームの軸になるだろう選手たちだ。
S東京ベイは、プレーオフ進出枠の4位以内が確定したが、「まずは次のシャイニングアークス東京ベイ浦安戦にフォーカスしたい」(ルディケヘッドコーチ)と手綱を引き締めた。神戸は試合前に4位以内が消滅していたが、気迫あふれるプレーを見せた。レギュラーラウンドは残り2試合。試合後の円陣では「今シーズンだけではなく、これからも戦いは続いていく。最後までしっかり戦おう」と声を掛け合った。
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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