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6連勝と快進撃を続ける埼玉ワイルドナイツを誰が止めるのか。今やリーグワン最大の関心事だが、フィジカルバトルに強いトヨタヴェルブリッツであれば、その可能性があるのではないか。そんな予想をした人も少なくなかったはずだ。3月12日(土)、現在リーグ3位のワイルドナイツに、4位のヴェルブリッツが襲い掛かった。
パロマ瑞穂ラグビー場は気温19度。強い日差しで体感気温はさらに高かった。午後12時、試合はヴェルブリッツのキックオフで始まった。開始3分、ヴェルブリッツのFB小澤大がディフェンスラインを突破して相手陣深く入り、FLピーターステフ・デュトイが素早くサポートするも、ここはパスがつながらず得点につながらず。その後、ワイルドナイツボールのスクラム、ラインアウトが続いたが、ヴェルブリッツはディフェンスラインを整えては前に出てプレッシャーをかけ、得点を許さなかった。
山沢拓也(埼玉ワイルドナイツ)
ワイルドナイツの先制トライは、前半12分、SO松田力也とFB山沢拓也のカウンターアタックから生まれた。自陣22mライン付近でパスを受けた山沢が松田にパス。松田は空いているスペースを探しながら前に出て、松田の右のスペースに走り込んだ山沢にパス。一気に相手陣に入った山沢はタックラーの直前でインゴールまで転がるキックを蹴り込む。ここに、WTBセミシ・トゥポウが快足を飛ばして走り込み、ボールを押さえた。
セミシは、ヴェルブリッツのWTBウィリアム・トゥポウの実弟だ。2人が子どものころから夢見た兄弟対決だった。2人でトライ数を競っていたのだが、先にトライをあげたのは弟だった。数分後、兄のウィリアムが意地を見せる。ワイルドナイツBKがパスを回し、CTBディラン・ライリーがキャッチした瞬間、激しいタックルでライリーを仰向けに倒したのだ。これで流れをつかんだヴェルブリッツは、18分、ディフェンスラインを突破したCTBロブ・トンプソンからパスを受けたNO8姫野和樹がトライをあげる。ゴールも決まって、7-7の同点。その後も両チームは緊張感ある接戦を繰り広げた。
ジャパンラグビー リーグワン2022 ディビジョン1
【第9節ハイライト】トヨタヴェルブリッツ vs. 埼玉ワイルドナイツ
21分に松田がPGを決めれば、22分、ヴェルブリッツのSOライオネル・クロニエが自らのハイパントを山沢と競り合いながらキャッチ。そのままインゴールまで駆け抜け、自らゴールも決めて、14-10とリード。しかし、ワイルドナイツも27分、ヴェルブリッツのゴール前の右ラインアウトからモールを組み、押し切れないと見るや松田が左中間のゴールライン上にキックパス。これをセミシ・トゥポウがキャッチしてトライをあげた。試合の流れの中で大きかったのは、前半終了間際の山沢のトライだ。持ち前のスピードでタックラーを振り切ったものだが、22-14と8点リードで前半を折り返した。
後半に入っても拮抗した展開は続く。山沢のハイパントをキャッチしたウィリアム・トゥポウからパスを受けたクロニエが相手陣に入って、パントキックを蹴り込み、自ら追いかける。ワイルドナイツはSH内田啓介、松田、山沢が戻るも、ゴールライン寸前でバウンドが変わってクロニエが押さえた。スコアは、22-19。7分の山沢のトライと、18分の松田のPGで、32-19と突き放したワイルドナイツだが、28分、ヴェルブリッツがトライを返す。
交代出場のFBウィリー・ルルーが自陣から防御背後へのキックを使い、さらにサッカースキルを見せてドリブル。ワイルドナイツのゴールラインに向かって転々とするボールを拾ったウィリアム・トゥポウがキャッチして左コーナーに向かって走る。これを阻止しようと追いかけたのが、弟のセミシ・トゥポウだ。最後は弟のタックルを受けながら兄が左コーナーにボールを押さえる。「私たち兄弟にとって、家族にとって誇り高い試合になりました」(ウィリアム)。難しいゴールをクロニエが決めてスコアは、32-26の6点差となる。
竹山晃暉(埼玉ワイルドナイツ)
しかし、ヴェルブリッツの健闘もここまで。直後にWTB竹山晃暉のタッチキックで攻め込んだワイルドナイツは、ラインアウトからの連続攻撃でディラン・ライリーがトライ。39分、交代出場のSH小山大輝がトライし、最後は、ヴェルブリッツのパスをインターセプトした竹山が独走トライをあげて、51-26と突き放した。終わってみれば、3トライ差のボーナス点も獲得するワイルドナイツの快勝だった。
「スコアだけでは語れない接戦でした」と話したのは、ヴェルブリッツのサイモン・クロンヘッドコーチだ。「ディフェンスは幅をワイドに保つ。ラインスピードを上げる。ブレイクダウンにプレッシャーをかける」という修正点をしっかり守って失点を最小限に抑えた。今季最高のパフォーマンスといってもいいだろう。ただし、それも70分まで。さらに一貫性あるプレーをすることが今後の課題になる。
ワイルドナイツは、プレーヤーオブザマッチに輝いたFL長谷川崚太を筆頭に全員が献身的に働いた。そして、松田と山沢という日本屈指のプレーメイカーがチームを操った。本来SOの山沢は「外から見える景色、情報をSOの立場に立って、力也が必要な情報を伝えようと意識しています」と話した。2人が並んで3試合。ワイルドナイツの攻撃はさらに多彩になっている。2人だけではなく、WTB竹山も好キックで陣地を進めるなど、各選手の的確な状況判断も磨きがかかっている。ワイルドナイツの強さを改めて印象付ける戦いだった。
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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