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12年前の再現! モルネ・ステインの決勝PGで、世界王者・南アフリカが勝利。ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ、リベンジならず。
村上晃一ラグビーコラム by 村上 晃一勝利した南アフリカ代表
ツアーが始まる前、誰がこのラストを予想できただろうか。12年ぶりのブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズの南アフリカ遠征は、8月7日、ケープタウン・スタジアムで最終戦が行われ、南アフリカ代表スプリングボクスが、19-16で勝利。テストマッチ三連戦の勝ち越しを決めた。イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドの精鋭が集い、12年前の負け越しのリベンジに燃えたライオンズだが、まさかの結末が待ち構えていた。
第1戦は、22-17でライオンズが勝ち、第2戦は27-9で南アフリカが勝った。第1戦の前は、フィジカル面に強みを持つ南アフリカに対し、ライオンズがスピーディーに勝負するという予想が多かったが、ふたを開けてみると、フィジカルバトルとキックの応酬で大半の時間が過ぎる2試合となった。最終戦前、ライオンズのウォーレン・ガットランドヘッドコーチは、「もっとラグビーがしたい。インプレー時間を多くしたい」と話した。
ガットランドHCの言葉通り、ライオンズはキックオフ直後からボールを保持して連続攻撃を仕掛けた。それを南アフリカが強力なタックルで押し返す。開始2分、ライオンズSOダン・ビガーがPGを失敗。そのビガーは9分、タックルした際に足を痛めて苦痛に顔をゆがめた。代わって投入されたのは、スコットランドSOフィン・ラッセルだ。ビガーよりもパスでボールを動かすことを得意とするラッセルの登場でライオンズの攻撃はテンポアップした。
南アフリカSOハンドレ・ポラード、ラッセルがPGを決めあい、3-3で迎えた前半18分、ライオンズがチャンスをつかむ。ゴール前5mのラインアウトから素早くモールを組み、巧みにディフェンスの圧力をずらしながらHOケン・オーウェンズがトライをあげたのだ。練り上げたモール戦略を感じるトライだった。ゴールも決まって、スコアは10-3。南アフリカがPGを返して、前半は10-6で終わったが、ボール保持時間はライオンズが69%、地域獲得でも74%と圧倒していた。
スクラムは序盤こそライオンズが優位だったが、PR(1番)ウィン・ジョーンズが背中を痛めたのか、精彩を欠きはじめると南アフリカが盛り返した。南アフリカは負傷欠場のFLピーター ステフ・デュトイ、SHフランソワ・デクラークの穴を、フランコ・モスタート、コーバス・ライナーが埋め、アグレッシブなタックルでライオンズの連続攻撃をしのいだ。
後半の序盤は南アフリカに負の連鎖が起こる。ポラードが7分、13分にPGを外し、大型LOルード・デヤハーが負傷退場してしまう。その直後、ライオンズのハイパントを南アフリカNO8ヤスパー・ヴィザがキャッチミス。ところが、これがノックオンにはならず、跳ねたボールを南アフリカのCTBルカンヨ・アムがキャッチして、FBウィリー・ルルーにつなぐ。ルルーは右タッチライン際を前進してライオンズ陣深く侵入し、WTBチェスリン・コルビにパス。ゴールまで残り30mのあたりで、コルビは独特のステップワークでまずはライオンズのFBリーアム・ウィリアムズをかわすと、次のタックルをハンドオフでかわして走り切り、貴重なトライをあげた。ポラードのゴールも決まって、スコアは、13-10となる。
後半22分、ラッセルがPGを返し、13-13になったところで、南アフリカはHB団を交代させた。SHライナーに代えてハーシェル・ヤンチース(23分)、SOポラードに代えてモルネ・ステイン(24分)が投入されたのだ。ステインがフィールドに現れたとき、ライオンズファンには12年前の悪夢が蘇ったことだろう。2009年のテストマッチ3連戦では南アフリカが先勝し、第2テストが接戦になったとき、途中出場したのが25歳のモルネ・ステインだった。25-25の同点で迎えた試合終了間際、ステインは54mの決勝PGを成功させ、南アフリカが勝ち越しを決めたのだ。
ステインは、2016年以降代表を外れていたが、今シリーズのメンバー入り。この日、3連戦で初めてリザーブ入りしていた。このメンバーを見た時点で、12年前の再現に心躍らせた人は少なくなかっただろう。ステインは26分、あいさつ代わりに約42mのPGを成功させる。狂いのないプレースキックは、自陣では反則ができないというプレッシャーをライオンズに与えただろう。33分、ライオンズのロビー・ヘンショーが抜け出して南アフリカ陣を入り、反則を誘ってラッセルがPGを決め、再び16-16の同点となる。
どちらが勝ってもおかしくない緊張感ある攻防の中で、ライオンズにミスが出る。南アフリカのキックを、2回連続でノックオンしてしまったのだ。最終的にはボール争奪戦で南アフリカにPKを与えてしまう。後半38分、中央約34mのPGを狙うのは、キックの名手モルネ・ステインだ。37歳のベテランは、当然のごとくゴールポストのど真ん中にボールを蹴り込んだ。スコアは、19-16。
最後はライオンズがスクラムで反則をとられて万事休す。ステインがタッチに蹴りだしてノーサイドとなった。歓喜の南アフリア代表スプリングボクスは、キャプテンのシヤ・コリシが選手、スタッフに自らメダルをかけ、カップを掲げた。ラグビーワールドカップ(RWC)優勝の2年後にライオンズに勝ち越すという、12年前とまったく同じことをやってのけたわけだ。RWC2019の優勝以降、コロナ禍で代表戦ができず、新しい選手、戦術を試す機会が限られる中で、シンプルに南アフリカのプレースタイルを貫いての勝ち越しだった。
ライオンズには悔やみきれない負け越しである。リベンジの機会は2033年まで待たなければならない。試合数が少ないからこそ、ライオンズの試合は一つ一つ重い価値がある。観戦者も心を締め付けられる。果たして、12年後の世界はどうなっているのだろう。満員の観客で埋まったスタジアムを想像しつつ、そのときを待ちたい。
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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