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山沢拓也選手
ファン待望の日本代表戦が迫ってきた。対するのは、昨年までスーパーラグビーに参戦していたサンウルブズだ。なかでも注目されるのが、4季ぶりにトップリーグ、日本選手権を制したパナソニック ワイルドナイツのSO山沢拓也だ。パナソニックでは松田力也が先発SOでゲームを作り、山沢が後半登場して試合を締めくくるパターンがお馴染み。途中出場での山沢は天才的なステップワークと正確なキックでディフェンスを翻弄し、ファンを魅了した。日本代表復帰を待ち望む声は大きいが、本人はどんな気持ちでプレーしているか。サンウルブズの一員としてプレーする日本代表戦を前にその胸の内を聞いた。
山沢拓也選手
──サンウルブズでは2019年以来のプレーになりますね。久しぶりのサンウルブズに参加して、どんなことを感じましたか。
「今回も準備期間は一週間ほどしかありません。2019年に合流したときも、合流してすぐに遠征して試合をしました。それでも、準備期間が短いなかでチームメイトがサポートしてくれてチームにも早く馴染めたし、楽しく過ごすことができました。今回もその文化はチームとしてしっかり残っていて、早めにコミュニケーションがとれて、選手間の仲を深めています」
──チームのテーマが「適応力」ということですが、どんなことを心がけていますか。
「個人的にはアタック(攻撃)の方がメインの役割になると思っています。今回初めてやるシェイプ(攻撃の形)などを、自分一人で覚えようとするのではなく、選手同士で、もっとこうしたほうがいいと、話しながら作るようにしています」
──日本代表のディフェンスを慌てさせてやろうという気持ちはありますか。
「それよりも、自分たちのアタックがうまくいくかが重要です。日本代表がどんなディフェンスをするかによって、試合の中で適応していけると思うので、その結果、いいアタックができたらいいなと思います」
──今回はサンウルブズでのプレーですが、再び日本代表に選ばれたいという気持ちがあると思うのですが。
「自分のなかでは割り切っていて、今回はサンウルブズとして試合を楽しむことにフォーカスしています。先のことは考えていません」
──日本代表になりたいというよりも、自分のプレーのレベルを上げたいということですか。
「そうですね。個人的には、上手になりたい、というのが一番です。それをひたすら追求していきたいです」
──理想にしているスタンドオフはいますか。
「いないです。その人と同じようにプレーしようとすると、自分の良さが無くなってしまいます。ここ数年、それでもがいているときもありました。今シーズンは、10番としての必要最低限の判断は大事にして、自分のやりたいことを思い切ってやるというふうに割り切ってプレーできたことが、今までよりレベルアップできたところだと思います。ただ、引き出しとして、こういうプレーもあるんだと参考にすることはあります。スコットランドのフィン・ラッセルはその一人で、ひらめきでプレーする選手なので、こういうのがあるんだなと思いながら何試合か見ています」
山沢
──どちらかというと、ひらめきあるプレーの方が好きなんですね。
「僕は考えすぎてしまうところがあるので、ひらめきは大事にしたいです」
──トップリーグでは途中出場でスピーディーなステップでタックラーをかわしたり、キックを使ってディフェンスを崩したりしていましたね。
「そうですね。パナソニックには自分のプレーを知っている人が多いので、自分が選択したプレーに対してみんなが反応してくれるからこそ、良いプレーにつながっていたと思います」
──どんなプレーを思い描いているのですか。
「途中出場の役割は、試合によって違います。どういうプレーを選ぶのが良いのか、どういうプレーを優先すべきなのか、試合の流れによって変えないといけないんです。もっと試合を経験することで、そのあたりの引き出しも増えてくるのかなと思います」
──さまざまな経験を積むという意味では、海外でプレーしたいですか。
「プレー時間、経験値を伸ばしていきたいという気持ちが一番で、(海外は)チャンスがあれば行きたいです」
──今シーズンは怪我が少なくなったと思います。堀江翔太選手などのトレーニングを担当する佐藤義人トレーナーに、トレーニングメニューを組んでもらったりしたそうですね。膝の不安はなくなりましたか。
「不安がまったくないわけではないのですが、自分でコントロールできるようになってきました。膝に疲労が溜まっている、痛みが出てるな、というときにどうすべきか、それが出ないようにするためにどうすべきか。佐藤さんにすべてお願いするのではなく、自分のなかでも理解できてきました」
──プレースキックも見直しているようですね。
「自分にとってどのポイントが重要なのか、ここ数週間探しているところでもあり、まだ完全に見つけられていませんが、少しずつ手ごたえを感じてきています。修正点を一回一回見つけて、練習しています」
山沢拓也選手
──サンウルブズでもプレースキッカーを務めると思いますが、成功率で松田選手に負けたくないという気持ちはありますか。
「プレースキックが完成したら、(負けたくないという)気持ちになりますけど、まだ完成していないので。試合で蹴るチャンスがあれば、ここがキーポイントというところは自分の中で定められてきているので、それができれば入ってくれると信じています」
──今回のサンウルブズでは、チーム練習の時間が短いので攻撃を司るSOとしては難しいところがあると思いますが。
「詰め切れていないところが多々ありますが、それはそれでひとつの味になると思います。チームとして決め切ったことをやるだけではなく、個々の強みを生かすプレーができれば、すごく面白いラグビーになるのではないかと思います」
深谷高校3年生の頃に日本代表強化合宿に参加するなど、その才能は早くから認められていた山沢選手だが、大学時代の膝の怪我もあって日本代表キャップは3にとどまっている。その創造的なプレーを世界の舞台でも披露してほしいと願うファン、関係者は多いが、本人は自らのプレーの質を高めることに集中しているようだ。6月12日、日本代表に対して彼はどんなプレーを見せるのだろう。類まれな才能を目にするのが楽しみだ。
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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