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ジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチ
あの熱狂から約1年7カ月。コロナ禍で活動ができなくなっていたラグビー日本代表が2023年のラグビーワールドカップ(RWC)に向けての強化を本格的にスタートさせた。5月24日、スコットランド、アイルランド遠征に旅立つ36名のメンバーが発表され、大分県別府での強化合宿が始まった。6月12日にはサンウルブズとの強化試合、26日はスコットランドの地でブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ、7月3日はアイルランド代表との戦いが待ち受ける。RWC2019に引き続き指揮を執るジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチに強化への意気込みを伺った。(取材日:5月26日)
ラグビーワールドカップ2023 特集ページ
──ようやく日本代表の活動が始められますね。
「わくわくしていますし、チームが合流して強化できることを嬉しく思っています。合流できなかった期間にはトップリーグが行われ、素晴らしいラグビーが展開されたと思います。しかし、私たち日本代表はさらにステップアップしていかなくてはいけません。いまがスタート地点にいますので、これからが重要です」
──コロナ禍でチームとして集まれない期間、ジョセフHCはどのような活動をされていたのですか。
「いろんなラグビーをたくさん見ていました。トップリーグはもちろん、姫野和樹も活躍したスーパーラグビーほか世界中のラグビーを見て、いまどんなトレンドがあるのか情報を収集していました。これからのチャレンジは、集めた情報をライオンズの試合まで約1カ月の強化の中に入れ込んでいくことです。いい準備をして、ライオンズ、アイルランド戦に臨みたいと思います」
──他のスポーツや分野から学ぶこともありましたか。
「多くのコーチが他のスポーツから学んでいると思います。コロナ禍で移動もできず、実際に観戦することはできませんでしたが、さまざまなメディアを通じて国際的なスポーツを見て常に情報を得ています」
──5月24日に発表された36名には、RWC2019の日本代表メンバーが18名含まれていました。彼らに求めるものは何でしょうか。
「自分たちのスタンダードを築き、それに対して責任をもって取り組むことが大事です。2019年の大会では日本代表が良いパフォーマンスをしましたが、それよりも高い強度で、もっとレベルを上げていかなくてはいけません。すでにリーダー陣とは話をしていますが、理想のスタンダードに上げていくために、リーチ マイケルほか2019年を経験した選手たちにしっかりリードしてもらいたいと思っています。新しいチームのスタートですから、新しく入ってくる選手達に居心地のいい環境を作らなくてはいけない。ハードワークしていかなくてはいけないし、経験ある選手たちの仕事はたくさんあると思います」
──過去のRWCを見ていると、どの国の代表チームも4年のサイクルの中で、半分以上の選手が変わっていきます。どの程度が理想だと考えていますか。
「具体的な数字は考えていません。経験があり、ハングリー精神を持っていて、妥協しないということを基準にして、選手を選んでいます。2023年大会まで2年しかありませんが、2019年大会のことを言えば、2016年時点で姫野和樹のことを知っている人が少なかったと思います。それがワールドクラスの選手になりましたね。これからもメンバー変更はあるでしょう」
──スーパーラグビーでは姫野選手、フランスのトップ14では松島幸太朗選手が活躍しています。彼らに日本代表にもたらしてほしいものは何ですか。
「彼らのもつベストのパフォーマンスを出すことによってチームに貢献してもらいたいです。それぞれ日本のチーム、海外のチームで学んだことがあると思いますので、それを発揮しながらベストパフォーマンスを出してほしいと願っています」
──2019年大会への強化は約3年、今回は2年しかありませんね。
「時間がないという意味では、他国に比べて出遅れていると思います。選手を試す時間もありません。しかし、時間は後戻りできません。前向きに考えて行くしかありません」
──2023年のプール戦では、イングランド、アルゼンチンとの対戦が決まっています。この2チームを念頭に置いた強化になるのでしょうか。
「対イングランド、対アルゼンチンについて考える時間はたっぷりあります。まずは、日本代表メンバーがチームとしてつながること、スタンダードを上げること、メンタルの部分も含めて、一貫性を持ったチーム作りをしなくてはいけません。まずは、そこにフォーカスします」
ラグビーワールドカップ日本代表(2019年)
──前大会はスーパーラグビーにサンウルブズが参戦していて、高いレベルの試合を経験できる舞台がありました。今回はありません。トップリーグはその代わりになりますか。
「スーパーラグビーのほうがレベルは高いと考えています。2016年からスーパーラグビーに参戦できたことで、移動の面も含めて、さまざまな経験を積むことができました。しかし、コロナ禍では世界を飛び回ってたくさんの国際試合をすることができません。自分たちができることを見つめて活動していきたいと思います」
──練習の強度を上げるしかないのでしょうか。
「すでに強度は高いと思いますが(笑)。別府での1回のキャンプで試合に向かわなくてはいけないというのは、前回のRWCとはあきらかに違います。目の前にある貴重な時間をしっかり使っていくしかありません。コロナの影響で来年もどの相手と試合ができるか分かりませんし、今できることを一つずつやっていくことが大事だと考えています」
──6月26日には、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズと戦います。ジョセフHCご自身は、ライオンズとどんな思い出がありますか。
「イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドから集まったベストチームですから、彼ら自身が誇りを持っているし、ニュージーランドでプレーしても大きなサポートを受けるチームです。彼らの歴史がプラスアルファされながら成り立っているチームですね。日本代表がライオンズと戦うのは初めてだし、素晴らしい機会になります」
──ジョセフHCは戦ったことはありますか。
「5回対戦しました。1993年のライオンズのニュージーランド遠征のときです。私はマオリ・オールブラックス、オタゴ州代表、そしてオールブラックスのテストマッチ3試合に出場しました。当然ながら勝てないと思われていたオタゴ州代表で勝利したのはとても良い思い出です(スコアは、37-24)。マオリ・オールブラックスのときは、ハーフタイムで20点リードしていましたが負けました。オールブラックスは、2勝1敗です。思い出深いですね」
──今回のライオンズのメンバーを見て、どう感じましたか。
「キャプテンのアラン=ウィン・ジョーンズ(ウェールズ代表148キャップ)はじめ、とても強く、経験豊富なメンバーですね。ウォーレン・ガットランドヘッドコーチ始め、コーチングスタッフも経験豊富です。我々にとって大きなチャレンジだし、エキサイティングなチャレンジです。RWC2023に向かってのスタート地点として素晴らしい試合になるでしょうし、良い経験になると思います」
──ガットランドHCは日本代表に対してどんな攻撃を仕掛けてくると思いますか。
「セットピース(スクラム)を軸に攻撃を仕掛けてくると思います。彼らも私たち同様、時間がありません。彼らの強みを生かしてプレーしてくるでしょう。スクラムでペナルティーを誘ったり、モールで圧力をかけてきたり、陣地を進め、22mラインの中に入ったところでいろいろなアタックを仕掛けてくるでしょう」
ジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチ
──日本代表はどの部分でライオンズに優っていきたいと考えていますか。
「強豪国と戦うときはいつもそうですが、サイズ、フィジカリティー、経験の差があり、こちらが先手を取って仕掛けなければいけません。自分達でチャンスを作り出し、スキを与えないこと。そうすればチャンスが来るでしょう。勝つとしたら大きな差は開かないということは過去にも証明されています。どうプレーするか、まだコーチ陣と話していませんが、最初のフォーカスはチームを結束させることです。そして、明確なゲームプランを選手に落とし込んでいきたいと思います」
──ライオンズ戦の前にサンウルブズと戦いますが、どんな試合をしたいですか。
「これまで長い間活動できなかったチームが、10日間の合宿で試合をするというのは通常はあり得ないことです。キャンプで落とし込んだことが、試合で見られるかどうかの確認と、選手に違うポジションをプレーさせて試してみたいと考えています」
──福岡堅樹が最後のトップリーグで卓越したパフォーマンスを見せました。引き止めたくなったのではないですか。ポスト福岡のことはどう考えていますか。
「非常に質の高いプレーヤーで、人間的にも素晴らしい。大きな財産を失いましたが、彼の判断を尊重し、応援しています。候補選手にはいろいろなタイプがいます。大きなサイズのチームと戦う時は、違うタイプの選手も選ばなくてはいけない。シオサイア・フィフィタは身体も大きい、スキルセットもある。福岡、松島とは違うタイプの選手です。他にも若い選手がたくさんいます。そういう選手も見ていきたいと思っています」
ジェイミー・ジョセフHC 独占インタビュー
新生JAPAN始動!
当初選出された36名のうちWTB江見翔太(サントリーサンゴリアス)が怪我のため離脱。トップリーグで活躍したWTB高橋汰地※(トヨタ自動車ヴェルブリッツ)が緊急招集された。ポスト福岡の競争はますます激しくなりそうだ。少し頬のこけた感のあるジョセフHCは、5月30日の記者会見の際、報道陣にこのことについて質問され、「僕は日本食が大好きなので、NZにいる間に痩せてしまいました。日本食を食べて、また体重は戻るでしょう」と笑顔で語った。RWC2019で日本代表をベスト8に導いたヘッドコーチは短期間でどこまでチームをまとめ上げることができるのか、その手腕に注目である。
※「高」は、はしごだか
文:村上 晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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