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コロナ禍でさまざまな制限があるなか、選手たちの奮闘に胸を打たれた。白熱の僅差勝負、劇的逆転劇、観る者の心を躍らせた個人技の数々。「ジャパンラグビー トップリーグ」という名称では最後になった日本最高峰リーグは面白かった。楽しかった。トップリーグロスの皆さんは多いのではないか。今一度、2021シーズンを振り返ってみたい。
PCR検査の陽性者が複数出たことで、当初1月16日開幕だった日程が1カ月遅れ、2ステージ+プレーオフだったフォーマットは、1ステージ+プレーオフに短縮された。予定されていた4節までの試合がリーグ後半に回ったことは順位争いに少なからず影響があった。
たとえば、大久保直弥ヘッドコーチが新しく就任したヤマハ発動機ジュビロは開幕戦の神戸製鋼コベルコスティーラーズ戦に必勝を期して準備していたが肩透かしをくらった。東芝ブレイブルーパスは、第1節トヨタ自動車ヴェルブリッツ、第2節クボタスピアーズと今季好調のチームに連敗したことで勢いに乗れなかった。沢木敬介監督就任で期待されたキヤノンイーグルスも、NTTドコモレッドハリケーンズ、神戸製鋼コベルコスティーラーズ、パナソニックワイルドナイツと3節まで3連敗。調子を上げてからこの3チームと戦っていたらどうだったか。結果論だが、想像をめぐらせてみたくなる。
TJ・ペレナラ
序盤を盛り上げたのは、なんといってもNTTドコモの快進撃だ。これまでトップリーグで11位以上に行ったことないチームが、キヤノンイーグルス、NECグリーンロケッツ、リコーブラックラムズに3連勝スタート。リコー戦での終了間際のTJ・ペレナラの決勝トライは、試合を中継したJ SPORTSが実施したツイッター投票で「最も印象的なシーン」に選ばれた。その後も、パナソニック、神戸製鋼という強豪と好勝負をしている。
印象的な試合をひとつだけあげるのは難しいが、第2節でリコーがヤマハ発動機を破った試合は、リコーSOアイザック・ルーカスのスピードある突破、ルーキーのFBメイン平、HO武井日向のトライなど若い選手の活躍が目を引いた。ヤマハ発動機の終盤の怒涛の追い上げも凄まじかった。最終的に最多トライゲッターとなるWTBマロ・ツイタマの決定力、NO8クワッガ・スミスのタフなプレーも印象的だ。
第5節(3月27日)のトヨタ自動車対サントリーは、千両役者ボーデン・バレットの決勝PGで勝敗が決した。翌日の日野レッドドルフィンズ対NTTドコモは雨中の死闘も最後まで試合がもつれた。ドコモのWTBマカゾレ・マピンピの快走は南アフリカ代表の力を示したシーン。第6節(4月4日)は、神戸製鋼とパナソニックの全勝対決が実現したが、雨のコンディションで互いにミスが多く、13-13の引き分け。晴れていたらどうだったろう。第7節(4月11日)、クボタを下したトヨタ自動車の最後のワンチャンスを生かしてのWTB高橋汰地のトライは、今季のハイライトの一つだ。
どのチームもフィジカル、フィットネスというベースが高まり、スクラム、ラインアウトのセットプレーでも大きな差が無くなった。特にスクラムは日本代表の影響もあって時間をかけて強化するチームが増えた。接戦が多くなった要因だろう。
プレーオフトーナメント 準々決勝 クボタ vs. 神戸製鋼
プレーオフトーナメントは、トップリーグの16チームに、トップチャレンジの上位4チームも交えての20チームによるノックアウト方式の戦いとなった。トップチャレンジで初戦を突破したのは近鉄ライナーズのみだったが、他チームも健闘した。プレーオフで強烈なインパクトだったのは、準々決勝(5月9日)のクボタ対神戸製鋼だろう。クボタは前半29分にSOバーナード・フォーリーがレッドカードを受け、14人になりながらボールキープに徹して勝ちきった。HOマルコム・マークス、FLピーター・ラブスカフニを軸にした強力FWは粘り強かった。キャプテン立川理道の冷静なゲーム運びも光った。チームの底力がついたことを証明する戦いだった。この結果、神戸製鋼のリーグ無敗記録は「24」で途絶えた。
準決勝は2試合とも東大阪市花園ラグビー場で行われ、5月15日は、パナソニックがトヨタ自動車を48-21で下した。キックオフ直後の福岡堅樹のトライに驚かされたが、もっとも観る者を驚かせたのはトヨタ自動車WTB高橋汰地の前半16分のトライだ。福岡を鋭角的なステップでかわすと、CTBディラン・ライリーのタックルを弾き飛ばし、FB野口竜司のタックルを振り切って右コーナーに飛び込んだのだ。トップリーグを代表する才能を次々かわし、日本代表入りへ猛アピールのトライだった。翌日の準決勝では、アタッキングラグビーのサントリーが、SH流大、SOボーデン・バレットを軸にキックでクボタの強力FWを後ろに走らせ、26-9で勝利した。ボールをキープして動かし続けるのではなく、ボールを手放しながらの戦いでも勝つサントリーの懐の深さを見せた。
MVP福岡堅樹(パナソニック)
決勝戦はパナソニックとサントリーという攻守にバランスの取れたチーム同士の戦いになったが、パナソニックの堅守速攻の強みが存分に発揮された。最終スコアは、31-26と競ったが、内容は快勝だった。パナソニックは、2016年度、2017年度のファイナルでサントリーに惜敗している。特に2017年度は最後に逆転できるチャンスを得ながら、ラインアウトの凡ミスで優勝を逃した。その悔しさがあったからこそ、ディテールを丁寧に積み上げてきた。負けから学んだ4シーズンぶりの優勝だった。MVPは、当然のごとく福岡堅樹。新人賞は2人で、中止になった昨季の活躍で竹山晃暉(パナソニック)、今季全試合にフル出場した金秀隆(クボタ)が選出された。過去、多くの新人賞選手が日本代表入りしている。2人の今後にも大いに期待したい。
18年にわたって日本ラグビーのけん引したトップリーグが終わり、来季は新リーグが始まる。トップリーグとチームの顔ぶれは変わらないが、今季限りで多くの選手が引退した。五郎丸歩(ヤマハ発動機)、北川俊澄(日野)ほか長らく日本ラグビーの顔として活躍した選手が去るのは寂しいものだ。だが、五郎丸の佐賀工業高校の先輩であり、北川の関東学院大学の先輩である久富雄一(日野)は現役を続行する。「引退するタイミングを完全に逸しました」。8月で43歳のトップリーグ最年長選手が、新リーグでも息子のような選手達と戦うのだ。それもまた新リーグの楽しみの一つである。
文:村上晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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