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2021年1月15日、2022年に開幕予定のラグビー新リーグのフォーマットが発表された。参加するのは25チーム。最上位のディビジョン1は12チーム、ディビジョン2は7チーム、ディビジョン3は6チームで行われる。このディビジョン分けは、参加を表明している25チームを順位付けして決められる。今季のトップリーグの順位だけではなく、各チームの事業運営能力など総合的な審査をする。新リーグは、完全なプロ化ではなく、企業チーム、プロチームが混在するハイブリッド型だ。また、ホスト&ビジターという言葉を定着させ、ホストチームが試合を運営し、チケット代などの収益を得る形となる。競技力、運営力ともにレベルを上げ、社会に必要なスポーツとなり、日本ラグビーを大きく発展させる可能性のある新リーグについて、新リーグ法人準備室長の谷口真由美さんに話を伺った。
新リーグ法人準備室長 谷口真由美さん
──注目のディビジョン分けは、12チーム、7チーム、6チームということになりましたね。最上位のディビジョン1を12チームにした理由を聞かせてください。
「複眼的な視点で12チームになりました。その中で、どなたでも分かりやすいのは拮抗した試合が多くなるチーム数ということだと思います。直近のトップリーグの得点を分析すると、8~12チームだと大差の試合が少なくなります。14チームにすると30点差以上の試合が増えます。新リーグは事業として成り立たせないといけません。チケットの売り上げがホストチームの収入になります。試合数は多いほうがいい。段階的なステップを踏んでいく中で最初の3年は12チームが適当だという判断です」
──事業運営能力の審査というのは、具体的にはどこを見るのですか。
「参加25チームについて、新リーグ審査委員会で審査を進めています。新リーグの目的として、事業力、社会力を実装したチームで運営したいということがあります。競技力だけではない座標軸を入れていますので、審査される側も初めての経験で戸惑いもあるでしょう。なぜ、それをするのかといえば、事業としてリーグを成立させなくてはならないからです。参入要件として、1万5000人収容規模のスタジアムを確保してほしいという話をしているように、まずは事業をするフィールドを持っているかどうか、その上でチケットを売る体制、一般向けのファンクラブの開設、SNSの活用、発信の工夫、COVID-19のなかでの対策などの事業運営力を審査します」
──新リーグが始まると、スタジアムでの試合運営はホストチームが担うことになるのですね。
「そうなりますね。あるチームの若いスタッフの方が、『これまでは、会場に行けば試合ができると思っていました。こんなにたくさんやることがあるのですね』とおっしゃっていました。その言葉を嬉しく聞きました。これまで運営を担っていた皆さんのご苦労が分かれば、会場での目線も変わってくると思います」
──ファンの人たちができることはありますか。
「記者会見で、ファンの皆さんがチームを応援してくださることが事業運営力に直結します、と申し上げました。魅力的なファンクラブを作っていくことが大事だと思いますが、ぜひファンの皆さんに各チームを応援していただきたいです。新リーグはファンの皆様に支えていただかないと成功しません。チームとファンの皆さんがどれだけつながることができるかも大きなポイントです」
──Jリーグ、Bリーグの関係者に意見を聞くこともあるのですか。
「はい、お話を伺っています。川渕三郎さんはJリーグ、Bリーグ両方の立ち上げにかかわられましたが、ラグビーの新リーグのことも心配してくださって、アドバイスもいただいています。私が迷ったときに川渕さんがおっしゃるのが、『大義を忘れるな』ということです。なんのために新リーグを立ち上げるのか、そこに立ち返りなさい、リーダーがぶれではいけない、と言われます。Jリーグの村井満チェアマンも、『フットボールの兄弟として、頑張ってほしい』と言ってくださっています」
──立ち上げるシチュエーションは、Jリーグ、Bリーグとは違いますね。
「そうなんです。Jリーグは危機感を持って企業からの独立を目指した。Bリーグは分裂していたものを一つにするミッションがあった。ラグビーも危機感はありますが、ラグビーワールドカップ(RWC)で日本中が盛り上がり、本当に改革が必要なのか問われる状況です。いま、なぜそれをするのかといえば、競技人口が10万人を割っているという現状があります。少子高齢化のなかでこのまま放っておけば競技人口は下がり続けます。RWC後、ファンの皆さんの期待感も高まり、トップリーグの開幕を楽しみに待ってくださっています。この雰囲気の中では、今のままで良いのではないかと思ってしまいがちです。しかし、改革は力があるときにしなければいけません。私はトップリーグの平均観客数と、競技人口の数字をデスクに貼って、現実を忘れないようにしています」
──競技人口が減っていくのが、もっとも怖いことですね。
「競技人口が少なくなると、ラグビーのマーケットが縮小し、ラグビー用具がいつでもどこでも買えなくなる可能性があります。多くの子供たちがやりたいと思い、すぐに始められるスポーツにならないと長続きしません。普及面も各チームの皆さんにお願いしていますが、富士山のようにすそ野を広げないとラグビーは発展しませんし、日本代表が強くあり続けるのは難しいと思います」
──社会課題の解決という目標についても具体的に教えてください。
「昨年のトップリーグで、SDGsマッチを開催しました。SDGsも一つの手法ですが、もっと分かりやすく言えば、その地域にラグビーチームがあることで子供のいじめが減ったというようなことです。いまも各チームは地域に貢献されていますが、たとえばアカデミーに近所の子供達が来て、憧れのラグビー選手から『いじめなんてカッコ悪いことするなよ』と言われたら、勇気を出していじめはダメだと言えるお子さんが出てくるかもしれません。ラグビーの持つ価値は社会を変える力があると私は思っています。ホストエリアには、それぞれに違った地域課題があるでしょう。地域課題の解決は、顔の見える関係を作ることだと言われます。ラグビー選手と子供たちが顔見知りの関係にあるのはとても良いことだと思います。地域の皆さんに気軽に声をかけてもらえるような、愛されるチームになっていくといいですね」
──新リーグの名称はどのように決めるのですか。
「ファンの皆さんと一緒に作りあげることができないか、決め方も検討しているところです。最後のトップリーグのコンセプトは、His Story,HISTORY.です。彼の物語から、誰の物語にしなくてはいけないか、そこがキーポイントだと思います。ストーリーは続くということです」
──最終的なリーグのイメージはどんなものですか。
「コロナ禍で先が見えない状況です。これまでのスポーツの在り方で行けるのかどうかも分かりません。状況を見極めつつ、最適な解を探しながら運営していくことになります。30年後も皆さんに愛されるリーグ、チームとして発展し続けていたい。日本代表が世界一になるために、国内リーグがどんな役割を果たすのかも大事です。段階的にステップを踏まなければいけないときが来ると思います」
──改めて、新リーグの大義とは何ですか。
「私はラグビー界の構造改革の第一歩だと思っています。そして、ラグビーがこれまで以上に社会的に意義のあるスポーツだと言われるための第一歩です。公共施設をなぜスポーツが優先的に使わせてもらえるのか。我々は社会に何か返せるものがあるのか。そういうことを常に考えなければ傲慢なスポーツになりかねません。社会的意義については考え続けなければいけないと思います」
いつも通り、元気いっぱいの谷口室長のインタビューだった。新リーグはまだ未確定の要素が多いが、社会的意義のあるスポーツにという考え方は多くの共感を得るものだろう。競技人口9万人台は、ラグビーワールドカップを開催した国として、人口が1億人を超える国として少なすぎる。なぜ戦うのか、なぜラグビーをするのか、自問自答しながら、関係者とファンが心を一つにして魅力あるリーグを作っていってほしい。
文:村上晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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