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日本ラグビー屈指のインサイドBKである。最後尾のFBでもプレーできるが、10番(SO)、12番(インサイドCTB)でこそ、戦術を司るプレーメイカーとしての高い能力は生きる。2019年のラグビーワールドカップ(RWC)では田村優の控えに甘んじたが、2023年のRWCでは日本代表の正SOとして期待される。所属するパナソニック ワイルドナイツはトップリーグで優勝候補の一角だ。注目選手の一人である松田力也に新シーズンの抱負を聞いた。
松田力也選手
――例年とは違ったプレシーズンだと思います。どんな気持ちでトップリーグ開幕に向かっていますか。
「昨季のトップリーグは中断し、不完全燃焼のままシーズンを終えることになりました。個人的に歯がゆかったし、チームとしても調子が良かったので残念でした。今季はそれ以上の戦いができると思っています。昨季までのパナソニックは、日本代表選手が多いこともあって、1カ月ほどでチームを仕上げて開幕を迎え、シーズンが深まるにつれてチーム力が上がっていく形でした。今年はプレシーズンが長いので、よくコミュニケーションもとれているし、チーム全体が戦い方の理解をして臨めるシーズンだと思います」
――プレースタイルはこれまでと変わりませんか。
「パナソニックの強みはディフェンスから流れを作ることです。そこは変わりません」
――松田選手は今季、どのポジションでのプレーが多くなりそうですか。
「今のところ10番にこだわってやっています。チームにもその気持ちを伝えています。2019年を経験して、今後自分が成長していくには、10番としてのパフォーマンスを上げることが重要だと感じているからです。(ラグビーの)理解度を深めて、チームを勝たせることができる選手にならなければいけないと思っています」
――10番としてレベルアップするために誰かにアドバイスを受けることはありますか。
「FWの選手ですが、堀江翔太さんには経験値をもとにいろいろアドバイスしてもらっています。あとは金沢篤コーチと毎回、練習の前後に話し合いながら取り組んでいます。でも、試合の中で経験していくのがステップアップする一番の近道だと思いますね」
インタビュー動画
松田力也選手インタビュー|ラグビー トップリーグ2021 パナソニックワイルドナイツ
――同じ10番の山沢拓也選手との競争がありますね。
「一緒にチームを強くするために考えて練習しています。タイプが違うので、自分なりの強みを出していきたいです。僕は2019年のRWCを経験したことで、ゲームに対する余裕が持てるようになりました。チームを冷静に引っ張るところを強みにしてやっていきたいです」
――RWCを経験したことで、松田選手にどんな変化がありましたか。
「これまでは自分が試合に出ると、なんとかしようという思いが強くて視野が狭かったと思います。先発でも、リザーブからでも余裕をもって焦らずプレーできていると思いますし、俯瞰して試合が見られるようになりました」
――ラグビー以外で何か新たな趣味はできましたか。
「アウトドア系にはまりそうです。これも堀江さんに教えてもらっているのですが、夏場であればキャンプなど楽しんでいます。堀江さんにはすごく影響を受けていて、ラグビーだけではなく、人としても尊敬できる人ですね」
――今季はイングランドからLOジョージ・クルーズ、ウェールズからCTBハドレー・パークスとヨーロッパの選手が加入しています。チームにどんな影響を与えていますか。
「これまで南半球の選手が多かったのですが、ヨーロッパの選手も違う意味で良い影響を与えてくれています。クルーズはセットプレーをすごく大事にしていますし、ブレイクダウン(ボール争奪局面)の姿勢も毎回の練習で指摘してくれます。パークスは日本のラグビーに馴染むために積極的にコミュニケーションをとって、僕たちに合わしてくれています。すごく真面目です」
――福岡堅樹選手が、最後のシーズンになりますね。
「予備校に通いながら練習していて、練習も来られない時もあります。気持ちよく医学の道に行ってもらうためにも、最後のトップリーグでタイトルを取って送り出してあげるのが一番良いと思っています」
――J SPORTSの注目選手アンケートで、松田選手は「好きな選手」を、ベリック・バーンズと書いていましたね。
「大学の時、日本選手権で対戦しました(2016年1月31日、パナソニック49-15帝京大)。バンジー(バーンズ)がボールを持つと何をするか分からない。見えないプレッシャーがすごかったです。逆に、僕がボールを持った時は、僕が蹴ろうとしたスペースに立っている。頭の中を見られているような感覚がありました。人間的にも尊敬できるし、好きな気持ちは変わらないです」
――今年のトップリーグは3ステージ制ですが、どう感じていますか。
「一発勝負ではなく、長いシーズンをどう戦っていくか。総合力が問われると思います」
――特に意識しているチームはありますか。
「ファーストステージ2戦目の神戸製鋼コベルコスティーラーズが個人的に楽しみです。対戦が楽しみな選手は、同じSOのアーロン・クルーデンですけど、ベン・スミス、日本代表の選手(山中亮平、ラファエレ ティモシー、アタアタ モエラキオラ)もいます。FWにも元ニュージーランド代表のLOブロディ・レタリックほか、力のある選手がたくさんいます。簡単に勝たせてくれる相手ではないですね」
――日本代表選手と戦うのはやはり楽しみですか。
「去年のRWCが終わった後にトップリーグも違った気持ちで戦えたし、コロナ期間を経て、みんながどう成長しているのかも楽しみです」
――代表選手同士で連絡を取り合うことはあるのですか。
「一番連絡とっているのは、松島幸太朗選手です。フランスでの試合後、アドレナリンが出てよく眠れないらしくて、フランス時間の朝4時とか5時に連絡が来ますね。松のほうが、日本の様子を気にしているところがあると思います」
――逆にフランスのラグビー事情も質問するのですか。
「めっちゃ気になりますからね。日本代表クラスのBKであれば、スキルレベルは通用すると松は言っていました。フィジカルが強いので、そこをどうするか。フランスでやりたいなら、コミュニケーションが大事で、英語だけでは十分ではなくフランス語も少しできないと9番や10番は難しいのではないかとか、そんな話はしています」
――松田選手もフランスでプレーしてみたいのですね。
「フランスに限らず、チャンスがあれば海外に出てプレーしたいと思っています。こういう情報は助かりますね」
――英語の勉強もしていますか。
「ラグビーでのコミュニケーションがどれだけとれるかということだと思うし、パナソニックには外国人選手も多くて、プレーについては通訳を入れずに話していますし、ちょっとずつですが成長できていると思います」
――トップリーグには海外の代表選手がたくさん加入しています。神戸製鋼以外の選手で誰か対戦を楽しみにしている選手はいますか。
「ボーデン・バレット(サントリーサンゴリアス)ですね。一度も対戦したことがないので、同じグラウンドに立った時にどんな感じを受けるのか、楽しみです」
――トップリーグが終わると、6月にブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズと日本代表の対戦が決まりました。最初に聞いたとき、どう思いましたか。
「率直にすごいなと思ったし、ライオンズとプレーしたいという気持ちが強くなりました。対戦相手が決まり、それがライオンズとなればみんな日本代表に入りたいと思うだろうし、おのずとプレーの本気度も増すと思います」
――ライオンズのことは、知っていましたか。
「幼いころに見た赤のジャージは憶えていますけど、よく見るようになったのは大学に行ってからです。それぞれ強い4チーム(イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランド)の代表です。まさかそのチームと日本代表が対戦する日が来るとは思っていなかったので名誉なことだと思います。今後の財産につながる良い試合ができるのではないでしょうか」
――RWC2023年のプール分けが決まりました。イングランド、アルゼンチンと同じプールDになりました。率直な感想は。
「すごく強いチームの中に入りましたね。ただ、どのプールも相手が強いのは変わりません。しっかり準備をして戦うしかない。3年後は(チーム事情も)どんどん変わっていきます。アルゼンチンはいま調子がいいですけど、どうなるか分からない。イングランドもそうです。それぞれの準備次第で変わります。対戦相手が決まったことで、どういう準備をすべきか分かりやすくなった。明確な目標があるのはすごくいいです」
――2023年はベスト8以上が目標になりますね。
「そこはみんなぶれていないと思います。簡単ではないし、みんながハードワークして、努力しないといけないですね」
――ファンの皆さんに今年のワイルドナイツの注目点のメッセージをお願いします。
「見ていて楽しいラグビーをします。優勝から遠ざかっているので、結果でも一緒に喜んでもらえるシーズンにしたいですね。コロナがどうなるか分かりませんが、環境が整えばスタジアムで見ていただきたいです。コロナで沈んでいる日本の空気感を、新しいエネルギーになるような空気感に、ラグビーから変えていけたらいいなと思います」
堂々とした受け答えは試合での度胸あるプレーぶりと変わらない。時折り見せる屈託のない笑顔はいつも自然体だ。26歳の松田力也はこれから選手としての円熟期を迎える。10番として勝負するのは、2023年のRWCを見据えてのこと。その前にトップリーグ2021で実力を発揮し、ワイルドナイツを優勝に導けるか。
文:村上晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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