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田村優選手(キヤノンイーグルス)
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で活動を制限されてきた国内ラグビーがようやく動き出した。そして、「関東大学対抗戦A」、「関東大学リーグ戦1部」が10月4日に開幕する。昨シーズンは23年ぶりに早稲田大学と明治大学という伝統校が大学選手権決勝で対戦し、新国立競技場に5万7345人の大観衆を集めた。今回は対抗戦の明治大学で1年生からSO(スタンドオフ)として活躍。昨年のラグビーワールドカップ日本大会で日本代表の攻撃を司った田村優選手(キヤノンイーグルス)に、大学時代の思い出、大学ラグビーへの期待などを伺った。
──まずは現在のことを伺いたいのですが、キヤノンイーグルスでは今季キャプテンになりましたね。気持ちの変化などありますか。
「僕が何かするというよりは、各リーダーが積極的に動いてくれています。実は、プレーシーズンからトップリーグで練習するのが初めてなんですよ。これまでは日本代表の活動があって、トップリーグは試合のときだけ参加していました。今年はトップリーグが中断した後も日本代表に参加するために準備をしていました。それがなくなって初めての経験なので難しさはあります」
──沢木敬介さんが監督に就任されました。その影響はどうですか。
「ラグビースタイルも変わってくると思いますが、選手が変わらなきゃいけないし、変わろうとする最中だと思います。上位に進出することも大事ですが、それよりも自分たちのスタイルを貫くことの方が大事だと思っています」
──大学の話を聞かせてください。母校の明治大学は、2018年度は大学選手権で優勝し、2019年度は準優勝と好成績です。後輩たちをどう見ていますか。
「優勝してくれて嬉しかったです。丹羽政彦監督、田中澄憲監督と続いて、着実に力をつけている。明治だけではなく、いま、大学ラグビーは全体的にレベルが上がっていると思います。サンウルブズがスーパーラグビーに参加し、日本代表が結果を出したこともあって、世界のトップレベルと日本ラグビーの距離感が縮まっているというのを感じます」
──昨シーズンの早明戦(2019年12月1日)はテレビ放送の解説もしていましたね。どんな気持ちで解説していたのですか。
「(明治)もっと攻めろ!と思っていました。特に前半は保守的な戦い方でした。後半に一気に差が開きましたが(最終スコアは、36-7で明治の勝利)、最初から攻めていれば、60点くらい獲れると思っていました。今はどの大学も世界との差が見えている分、綺麗に戦おうとするところがある。保守的になるときと、思い切って攻めるときが行き来する。明治にその二面性が見えたので、勢いのあるチームと戦うと危ないと感じました。早稲田も強かったですし、次に戦ったらどっちに転んでもおかしくないと思いましたね」
──大学選手権決勝ではその言葉通り、前半に大量に点を取られましたね。
「前半の明治は綺麗に試合を進めようという感じが見受けられました」
──大正時代から戦っているライバル早稲田大学というのは、ご自身が大学生の時も特別な存在でしたか。
「僕の頃は、明治にあまり力がなくて、特別な思いでなんとか力の差を縮めようとしているところがありました。今の学生は大事な試合の一つではあっても、そこまで意識していないかもしれません。僕らの頃は、早明戦に憧れて入って来る選手が多く、気持ちの昂ぶりがありました。僕も憧れていました。(定期戦としての)早明戦は一年に一回(※12月の第一日曜日)しかないし、みんなの思いが重なってくるというのをすごく感じました」
──そういう試合に向かって緊張感を高めて勝利すると、チームが成長するという面もあそうですね。
「僕らの頃は早稲田が強くてなかなか勝てなかったのですが、目標にみんなで向かっていくと、それだけで成長すると思います」
Youtube動画
明治大学卒・日本代表SO田村優が大学ラグビーを語る!
──田村選手は早明戦で何勝何敗ですか。
「1勝3敗ですね。一度だけ勝ったのが大学選手権の出場を逃したシーズンなんです(2008年度、対抗戦6位)。それで、最後に早稲田に勝って(24-22)、シーズンを終えました」
──大学時代は、どんなモチベーションでラグビーに取り組んでいましたか。
「もちろん学生日本一は目指しているのですが、寮生活も楽しみました。みんなで目標に向かってラグビーをするのが楽しかった。生活の中でバランスはとって、ラグビー漬けではなかった気がします。飲んで、食べて、みんなで騒いで、一生懸命練習して、そんな時間を楽しみました」
──明治大学は上下関係が厳しい時代が長かったですね。田村選手の時はどうだったのですか。
「1、2年生の時はありましたね。理不尽なこともありましたけど、先輩に対する気遣いとか、社会に出ても通用する大事なことも学べた気がします」
──印象的な試合はありますか。
「大学4年生の最後(大学選手権準決勝 2011年1月2日)に早稲田に10-74で負けたのですが、あれは衝撃的でした。勝てると思って臨んだので。僕もろっ骨を痛めていて、4年生が次々に怪我で倒れて、ショックを受けました」
──コロナ禍で今年は春からの準備がしっかりできませんよね。
「学生はもどかしいでしょうね。4年生は最後のシーズンで可哀そうに思います。チームメイトと楽しく過ごす時間も削られていると思うし、行動制限もありますし」
──無観客試合も多いですね。
「これは、僕はやったことがないから分からないけど、つまらないですよね。将来を考えれば、人に見られている中でプレーすることに慣れる必要もあると思うんです。緊張感を味わっておかないと、将来に影響するのではないかと少し心配ですね」
──今年の母校のことは何か聞いていますか。
「キャプテンが箸本龍雅君になりましたよね。彼はすごい選手ですね。でも、もっと粗削りなところが欲しいです。今の大学生は、LOとはこういうもの、SOはこんな感じでと、同じようなプレーをしているように見えるんです。でも、トップリーグはみんな大きくて、速くて、強い。スーパーラグビー、テストマッチになったら、さらにレベルが上がります。短所がないということより、長所がずば抜けている方が選ぶ側も選びたくなる。今はいろんな情報を得られるし、日本代表は走るテストでこれくらいの数値を出すとか、こんなスキルができるとか、情報がシェアされています。でも、そうではないところの強さを持っている選手が日本代表になり、トップリーグで活躍している。ここは理解しておかないといけないですね。もちろん、個人プレーに走ってしまうと選ばれづらくなりますけれど」
──田村選手と同じSOの山沢京平選手はどう見ていますか。
「お兄さん(山沢拓也・パナソニックワイルドナイツ)によく似ていますよね。周りの選手をうまく使いながらプレー出来れば、10番として成長すると思います。能力は間違いなく高いですから。でも僕は箸本に注目です。やんちゃそうだし、気も強そうで、体も強い。彼は伸びると思います」
──関東大学対抗戦全体に期待しているところはありますか。
「母校ですが、明治は強いと思います。コーチングもしっかりされているし、キャプテンも素晴らしい。明治に入りたくて入ってくる選手が多いと思うし、層も厚い。それを止めるチームが表れるのかどうかは注目です。帝京の巻き返しも楽しみです」
★まとめ
田村選手は、いつも通り軽やかな口調で大学ラグビーを語ってくれた。トップリーグ中断以降も日本代表戦のためにトレーニングを続け、今はキヤノンイーグルスのキャプテンとしてチームの先頭に立つ。コロナ禍にあっても、その歩みは止まらない。大学生に対して、「大きく育ってほしい、苦手なことがあっていいし、上手くやろうとしすぎないほうがいい」というアドバイスも個性派の田村選手らしい。最後に、明治が関東大学対抗戦、全国大学選手権とも優勝すると予想しますか、と質問してみた。「はい。それをきっかけに同期と飲みたいんで。いい同期会にさせてほしいです(笑)」。
文:村上晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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