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大野均が初めて日本代表に選出されたのは、2004年のことだ。就任したばかりの萩本光威監督のもと、5月16日、秩父宮ラグビー場で行われたアジア3カ国対抗の韓国代表戦でデビューした。後半の交代出場だった。以来、日本代表に定着し、2014年に日本代表キャップを「82」として、小野澤宏時の保持していた最多キャップ記録「81」を抜いた。
このとき日本代表を率いていたのはエディー・ジョーンズヘッドコーチだ。2012年の就任当初、「キンちゃんは、(年齢的に)2015年のラグビーワールドカップ(RWC)にはいないでしょう」と話していたが、大野はその言葉を励みにして一日一日を積み重ね、日本代表FWの軸として活躍していた。
2014年5月30日、サモア戦は秩父宮ラグビー場で開催された。大野は36歳。キャプテンはリーチ マイケル、SH日和佐篤、SO立川理道のHB団、インサイドCTB田村優、アウトサイドCTB松島幸太朗。大野とLOコンビで先発したのは真壁伸弥。トンプソン ルークはリザーブだった。
サモアは主力が参加しておらず、日本代表が勝って当然の戦いだったが、2015年のRWCに向かって、ジョーンズHCは、セットプレー、ディフェンスをチェックし、田村優のキック戦略も試し、松島を初めてアウトサイドCTBで起用している。着々とチームの底上げを図るプロセスが分かる試合だ。大野は試合後、最多キャップの感想を問われて、それほど感慨はないと話した。そんな数字は引退の時に振り返るものだと思っていたようだ。専門誌ラグビーマガジンのインタビューでは、いま心がけていることは?と問われ、「若い選手にいい影響を与えられるように、グラウンドに出たら常に100%を出すようにしています」とコメントしている。
大野が選んだもう一つの日本代表戦は、2016年6月25日、味の素スタジアムで行われたスコットランド戦だ。2015年のRWCで南アフリカを破って世界を驚かせ、プール戦で3勝という好成績を残した日本代表が、2019年のRWCに向けての強化をスタートさせた時期だ。しかし、ジョーンズHCの後任ジェイミー・ジョセフHCは、ニュージーランドラグビー協会との契約を残しており、このときは、サンウルブズのマーク・ハメットがHC代行を務めた。
SHグレイグ・レイドローキャプテン率いるスコットランドに対し、日本代表はリーチ マイケルが怪我で欠場し、HO堀江翔太がキャプテンを務めた。メンバーには、2015年RWCには参加していなかったLO小瀧尚弘、SH茂野海人、WTB笹倉康誉、FB松田力也らが加わっていた。スコットランドは大野にとって因縁浅からぬ相手だ。大野は2004年秋、日本代表のヨーロッパツアーに参加。エジンバラでスコットランドと戦い、8-100という歴史的大敗を喫した。大野はLOとして先発し、その責任を重く感じていた。
2013年11月9日、大野は再びエジンバラでスコットランドと対戦し、17-42で敗れる。しかし、互角に渡り合った時間は長く、手応えをつかむ戦いだった。2015年のRWCでも日本代表はスコットランドに10-45で敗れたが、大野はこの試合に出場していない。そして迎えた、2016年のスコットランド来日シリーズだった。
6月18日の第1戦は豊田スタジアムで13-26と敗れ、第2戦は、6月25日、東京の味の素スタジアムで行われた。観衆は、34,073人。当時の天皇皇后両陛下が観戦されるなか、日本代表SO田村優のキックオフで試合は始まった。3-6とスコットランドにリードを許した前半19分、日本代表はラインアウトからの攻撃で、SO田村優、CTB立川理道がループ。FB松田力也が抜け出し、連続攻撃からSH茂野海人がトライし逆転。互いに譲らぬ攻防は試合終盤までもつれる。後半35分、16-18で日本代表が2点を追うという手に汗握る展開だった。試合を決定づけたのは、スコットランドSHグレイグ・レイドローの約40mのPGである。前年のRWCでも日本代表の間に立ちはだかったレイドローは、日本代表キラーとも言われた。
悔しい敗戦ではあったが、怪我でリーチを欠き、本来の指揮官も不在の中での惜敗は、日本ラグビーのたしかな地力アップを証明していた。この日も献身的に働いた大野は、のちにしみじみ語っている。「惜しかったですからね」。2004年に比べて、日本代表が強くなったという実感である。しかし、最後のテストマッチになるとは、その時誰も思わなかっただろう。大野はずっと走り続け、RWC日本大会でも雄姿を見せてくれるはず。多くのファンはそう信じていたはずだ。
振り返れば、大野に相応しい最後だったのかもしれない。相手がラグビー界きっての伝統国であるスコットランドであり、天覧試合でもあったのだから。98キャップを積み重ねた鉄人ロックの最後のテストマッチ。もう一度見て、目に焼き付けておきたい。
文:村上晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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