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必見! 大野均が自ら選んだ思い出の試合 初めてのラグビーワールドカップでは1試合で6㎏減 2009年度のトップリーグではMVPに輝く
村上晃一ラグビーコラム by 村上 晃一2020年5月18日、大野均は現役引退を表明した。多くのラグビーファンは「お疲れさま」ではなく、「ありがとう」の言葉を送った。日本代表98キャップは日本ラグビー史上最多記録である。しかし、そんな大記録よりも、ひたむきなプレーで多くのファンの心を揺さぶり続けたという意味で彼の右に出る者はいない。そんな大野が自ら印象に残る、必見の5試合を選んだ。本コラムでは、7月7日~9日に放送される3試合を紹介しておきたい。
大野は2004年に日本代表デビューを果たしているが、初めてのラグビーワールドカップ(RWC)出場は2007年のフランス大会である。ニュージーランド代表の英雄だったジョン・カーワンヘッドコーチは、日本代表の試合間隔の短さを考慮し、30名の登録メンバーを2チームに分けた。初戦のオーストラリア代表に臨む若手主体の「チーム・オーストラリア」、第2戦に必勝を期す「チーム・フィジー」である。大野はトンプソンルークとのLOコンビでフィジー戦に先発する。
2007年9月12日、熱狂的ラグビーファンの多いトゥールーズで、日本代表は強豪フィジー代表を追い詰めた。2003年に続いてキャプテンを務めたNO8箕内拓郎、LO大野、トンプソン、SOブライス・ロビンス、プレースキッカーを担ったCTB大西将太郎らが献身的にプレーする。大野はこの試合で6㎏体重が減るほど動き回った。「RWCは力を出し切らせてくれる場所です」。試合後は点滴を受けることになったが、倒れても倒れても起き上がって走る続ける大野の姿がファンに強烈に印象付けられた。日本代表の健闘を称えるスタンディングオベーションが心地よい。
大学からラグビーを始めた大野を一流選手に育てたのは東芝ブレイブルーパスである。東芝は2003年に発足したジャパンラグビートップリーグの創成期に抜群の強さを誇った。2004年度シーズンからはトップリーグ三連覇。2007年度シーズンは王座を奪われ、2008年度はタイトル奪還を誓ったシーズンだった。しかし、シーズン終盤の2009年年明けすぐに部員の不祥事が発覚。部長が辞任し、瀬川智広監督はシーズンいっぱい謹慎となった。
廣瀬俊朗キャプテンは「ラグビーをさせてもらえることへの感謝を忘れず、目の前の試合に集中したい」とコメント。そして、トップリーグ第12節(1月12日)のサントリーサンゴリアス戦を迎える。先の見えない状況の中でチームは固く結束する。大野もFWの軸として激しく前に出た。大野とLOコンビを組むのは、今は亡き渡邉泰憲、大野にラグビーの激しさ身をもって教えた先輩だ。FLスティーブン・ベイツ、SH吉田朋生、SOデイビッド・ヒル、CTB冨岡鉄平ら東芝の黄金時代の選手たちが躍動する。
3試合目は東芝がトップリーグ連覇を達成した2010年1月31日のプレーオフ・ファイナルだ。前シーズンの東芝はトップリーグこそ優勝したものの、部員の不祥事によりシーズン最後の日本選手権を辞退することになった。2009年度の連覇に向け、応援を続ける人々への感謝の気持ちも込めて、選手たちは高い意識でトレーニングに取り組み開幕を迎える。しかし、レギュラーシーズンでは三洋電機ワイルドナイツ(現パナソニックワイルドナイツ)、トヨタ自動車ヴェルブリッツ、サントリーサンゴリアスに敗れてしまう。なんとか3位でたどり着いたプレーオフトーナメントだった。
セミファイナルでは、清宮克幸監督率いるサントリーを気迫あふれるラグビーで破り、トヨタ自動車との激闘を制して勝ち上がった三洋電機と相対する。2年連続となった両者のファイナルは死闘になった。キックオフ直後のラインアウトからは、3分以上連続する攻防があるなど、互いに一歩も譲らない。ボール争奪戦に激しく圧力をかける東芝は、SOヒルの2PGで前半を6-0とリード。ロースコアだが後半の攻防も見応えがある。大野とLOコンビを組むのは望月雄太。PR久保知大、HO湯原祐希、PR櫻井寿貴、FLベイツ、中居智昭、NO8豊田真人。タフな仕事人が揃ういぶし銀のFW陣だ。三洋電機は、霜村誠一キャプテンが欠場し、NO8ホラニ龍コリニアシがキャプテンを務めた。SH田中史朗、SOトニー・ブラウンのHB団は2019年のラグビーワールドカップ日本大会で、コーチと選手という立場で日本代表快進撃を支えた。
そして、大野は、このシーズンのトップリーグMVPに輝く。「あれ、本当に当日まで教えてくれないんですよ。僕、前の日に飲みすぎてちょっと酒が残っていたんですけど、まったく予想外だったので、発表の瞬間に吹き飛びました(笑)」。懐かしい顔ぶれのなかで、大野均が寡黙に走り続ける姿をぜひご覧いただきたい。
文:村上晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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