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【ハイライト動画あり】これぞ、ラグビー王国のエンターテインメントラグビー。 コロナ禍以降初のプロラグビーは、2万2000人の観衆を前に、 地元ハイランダーズが劇的勝利
村上晃一ラグビーコラム by 村上 晃一ラグビー王国ニュージーランド(NZ)の5チームによるスーパーラグビー「アオテアロア」は、6月13日、NZ南島ダニーデンのフォーサイスバー・スタジアムで幕を開けた。観衆は約2万2000人。満席ではなかったが、ダニーデンの人口は約13万人だ。スーパーラグビーでは異例の大観衆である。新型コロナウイルス禍でラグビーが見られなくなり、日常生活もさまざまな制限を受けてきたが、NZは国民一丸となってこの難局を乗り越え、6月8日には感染者がゼロになった。これを受けて観客を入れての試合が実現。心から再開を喜ぶファンの笑顔が観客席に広がった。歌い、踊り、叫ぶ。NZだからこその光景だった。
ホームで開幕戦を迎えたハイランダーズは、試合直前になって先発SOジョシュ・イオアネが怪我で欠場することになり、FBミッチ・ハントがSOへ移動。リザーブだったヴィリモニ・コロイが先発FBに入り、メンバー外だったSOブリン・ガットランドがメンバー入りとなった。ブリンはチーフスのウォーレン・ガットランドヘッドコーチを父に持つ。しかし、この時点で相手指揮官の息子登場が劇的結末の伏線になると予想した人はいなかっただろう。
試合はハイランダーズSOミッチ・ハントのキックオフで始まった。チーフスCTBクイン・トゥパエアがキャッチして突進。激しい攻防が始まる。3分、ハイランダーズがハントのPGで先制すると、チーフスは8分、13分とFBダミアン・マッケンジーがPGを決めて、3-6と逆転。この直後のキックオフで攻撃を仕掛けたチーフスはCTBアントン・レイナートブラウンがボールを放さない反則をとられる。
「アオテアロア」は、ブレイクダウン(ボール争奪戦)での攻防を観客から見てクリアにするレフリングが徹底されている。倒れた選手はすぐにボールを放し、倒した側もすぐに体を開いて、スピーディーにボールを動かすのだ。密集に横から参加するなどのオフサイドも厳しく判定されるため、この試合では序盤から同じような反則が相次いだ。
レイナートブラウンの反則で得たPKからタッチキックで前進したハイランダーズは、ラインアウトからモールを押し込み、16分、HOアッシュ・ディクソンがトライをあげる。21分、再びチーフスの反則で得たPKからタッチキックをし、ラインアウトからの攻撃でチャンスを作る。目まぐるしい攻防の末、SHアーロン・スミスのフラットなパスに斜めに走り込んだCTBロブ・トンプソンが抜け出し、最後はCTBパテレシオ・トムキンソンがトライをあげた。パスのスピードと急角度の走り込みにしびれるシーンだった。
これでハイランダーズが15-6とリードを広げたが、チーフスも素早いパス回しからWTBショーン・ワイヌイがトライを返し、マッケンジーがPGを追加。15-16と逆転する。ハイランダーズは前半31分にFBヴィリアミ・コロイ、後半21分にチョナ・ナレキと2人のシンビン(10分間の一時退場)を出しながらも粘ってリードを保った。しかし、反則の多さで流れが悪くなり、自陣で戦うことが増えていく。31分には途中出場のチーフスSOアーロン・クルーデン、マッケンジー、レイナートブラウンというオールブラックス・トリオの巧みなパスつなぎにディフェンスを崩されてトライを許し、25-24と1点差に迫られる。
残り5分の攻防は長く語り継がれることになるだろう。まずは、チーフスのボールハンター、FLラクラン・ボシャーがハーフウェーライン付近でジャッカル。ハイランダーズの反則を誘い、PKからのタッチキックでラインアウトを獲得。連続攻撃を仕掛け、マッケンジーが狙いすまして約20mのドロップゴールを決める。後半37分、スコアは25-27とひっくり返った。絵にかいたような逆転劇だった。千両役者の一蹴りで勝負ありかと思われたのだが、直後のキックオフで、ボールを確保したはずのチーフスからハイランダーズ側にボールがこぼれる。チーフスから今季移籍のハイランダーズPRジェフ・スウェイツがボールに絡んだのだ。
ここからハイランダーズはFW陣を中心に丁寧にボールを運ぶ。勝利へのお膳立てである。23番を背負った選手が、10mほど下がった位置でボールを待ち受ける。コロイの交代で後半20分に投入されていたブリン・ガットランドだった。ゴールポストまでの距離は約35m。アーロン・スミスからガットランドへパスが送られると、チーフスのSHブラッド・ウェバーが猛然とプレッシャーをかけた。しかし、僅かに届かず、ガットランドがボールをワンバウンドさせて右足を振り抜くと、ボールはスライスしながらゴールポストに吸い込まれた。劇的な逆転ドロップゴールにスタジアムが揺れる。その後はボールをキープしたハイランダーズが逃げ切り、開幕戦を白星で飾った。
父が率いるチームに対し、息子が逆転のドロップゴールを決めて見せる。なんという幕切れだろう。前半は思い通りに先行したハイランダーズだが後半は反則が増え、守る時間が長くなった。まさに我慢の勝利だった。ブレイクダウンでの判定に慣れない選手が多く、公式サイトのスタッツでは反則数は両チーム合わせて28。しかし、簡単なミスは少なく、ボールが停滞することは少なかった。早め早めの笛はゲーム展開をスムーズにしていた。各選手のゲーム勘、フィットネスもすぐに戻るはずだ。次節からも観客を楽しませる攻防が見られるのは間違いなさそうだ。
文:村上晃一
【中村亮土選手ゲスト解説】スーパーラグビー2020 アオテアロア 第1節
ハイランダーズ vs. チーフス ハイライト
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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