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心おきなく隣の人と肩を寄せ合い、国歌を大合唱し、声をからして応援したい。昨年のラグビーワールドカップ(RWC)は本当に幸せな時間だったと思い返す人は多いだろう。過去には戻れないので、新たなスポーツ観戦の楽しみを見つけなくてはいけないが、ハイライト映像などでさらりと見た試合をじっくり見返し、今後を考えるのも前向きな行動だという気がする。
RWC日本大会直後に行われたワールドラグビーアワードの「トライ・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたのは、ニュージーランド代表オールブラックスのTJ・ペレナラのトライだった。プールBのニュージーランド対ナミビア(10月6日)で飛び出したものだ。ペレナラが自陣から抜け出し、倒れながらのオフロードパスでナミビア陣深く入り、最後はブラッド・ウェバーのバックフリップパスで左タッチライン際を駆け抜け、コーナーにぎりぎりでボールを押さえたもの。
「トライ・オブ・ザ・イヤー」に輝いたTJ・ペレナラのトライ
ちなみに、レフリーがトライではないと判定しそうになったとき、「映像を見たほうが良い」とアドバイスしたのは、アシスタントレフリーの久保修平氏だった。ナミビアの懸命のディフェンスの中でトライを量産するオールブラックスの卓越したスキル、スピードは何度でも見る価値がある。
大差の試合が多くなるプール戦だが、プールCのフランス対トンガは予想に反して接戦になった。10月6日、熊本で行われた試合だ。アルゼンチンとアメリカに2勝をあげていたフランスには余裕があり、イングランド、アルゼンチンに健闘むなしく敗れたトンガには意地があった。終盤に追い上げたトンガの奮闘は胸を打つ。
そして、日本代表とサモアの一戦は、まるごと見てほしい。快進撃の中ではどうしてもスルーされがちな試合だからだ。筆者も大会後、日本代表の総括をさまざまなメディアに書いた。序盤で苦しんだロシア戦、番狂わせを起こしたアイルランド戦、決勝トーナメントを決めたスコットランド戦はしっかり書き込むが、限られた文字数ではサモア戦が短くなってしまう。毎度、申し訳ないと思うのだ。
試合は2019年10月5日(土)、愛知県の豊田スタジアムで行われた。ロシア、アイルランドに勝った日本代表としては、最後に控えるスコットランド戦に向けて4トライ以上のボーナス点を獲得して勝ちたい試合だった。一方のサモアは1勝1敗。日本代表は、ボールをキープして攻めたアイルランド戦から一転、キックを多用して戦った。まずは、SO田村優が2本のPGを決めて6-0とする。しかし、試合後に各選手が「サモアは強かった」と語ったようにボール争奪戦などフィジカル面に強みを持つサモアに苦しみ、逆にPGを決められ、6-6の同点となる。
サモアが危険なタックルで退場者(10分間の一時退場)を出すと、前半27分、CTBラファエレ ティモシーが母国サモアからトライを奪う。前半を終え、スコアは、16-9。フィジカルの強いサモアをキックで後ろに走らせ、後半勝負に出る作戦だった日本代表だが、後半もスコアは伸びなかった。後半13分、NO8姫野和樹がトライをあげて、26-12とリードを広げたが、32分には逆にトライを奪われ、26-19という点差に迫られる。
ここまで2トライ。残り時間は10分弱。果たして4トライをあげて勝つことはできるのか。勝ってくれさえすれば良い、そんな思いがよぎったファンは多いだろう。後半35分、WTB福岡堅樹のトライで31-19。残り時間は5分を切っている。瞬く間に試合終了を告げる銅鑼が鳴る。攻め込む日本代表だが、ここで反則を犯してしまう。サモアがボールをタッチに蹴り出せば試合が終わる。しかし、サモアは試合を終わらせなかった。1トライをあげた場合は、7点差以内の負けに与えられるボーナス点を獲得し、決勝トーナメント進出の可能性が残るからだ。
松島幸太朗 サモア戦での劇的トライ
ところが、試合再開のスクラムで、サモアはSHペレ・コウリーが、ボールをまっすぐ投げ入れない「ノットストレート」の反則を犯す。「日本寄りのレフリング」との声もあったが、競技規則には「ボールを投入したチームのフッカー(HO)は、必ずボールに足を当てなければいけない」と決められている。サモアのHOが足に当てられないほど、SHは自チーム側に思い切り放り投げていた。それだけ日本代表のスクラムの押しを警戒していたということだ。最後にチャンスが巡ってきた。スクラムから姫野がサイド攻撃、SH田中史朗が左へパスが出る。WTB松島幸太朗が瞬時の加速でタックラーをかわし、インゴールへ。劇的な4トライ目に豊田スタジアムが揺れた。歓喜の笑顔が広がる。書いているだけで興奮が蘇ってくる。このボーナス点があったから、スコットランド戦は優位な立場になったのだ。さあ、もう一度、あの熱狂のスタジアムに戻ってみよう。
文・村上晃一村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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