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ラグビー コラム 2020年3月23日

ラグビーファンなら必見の名勝負 日本代表が南アフリカを倒した世紀の番狂わせ「ブライトンの衝撃」を見よ。

村上晃一ラグビーコラム by 村上 晃一
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RWC2015 南アフリカに勝利した日本代表

日本ラグビーの名勝負は数多いが、とびきりの一試合をあげるならこれだろう。2015年9月19日、イングランド南東部に位置するリゾート地ブライトンでの「ジャイアント・キリング」は、世界のラグビー史に刻まれ、長く語り継がれることになった。2019年のラグビーワールドカップ(RWC)日本大会でラグビーファンになった皆さんにもぜひおすすめしたい。試合内容の詳細は、実際に確かめていただくとして、試合を楽しむためのいくつかの情報を記しておきたい。

第8回RWCは、イングランドラグビーの聖地トゥイッケナムをメイン会場に開催された。期間は、9月18日~10月31日。4年後の日本大会に向け、日本代表はこの大会でのベスト8進出を目指して強化を図っていた。2012年からは世界的な名将であるエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)が指揮を執り、「世界一」と呼ばれる猛練習で鍛え、緻密な戦略を練り上げた。しかし、過去7大会で1勝21敗2引き分けの日本代表が強豪国に勝つと信じる者はほとんどいなかった。

一次リーグで日本代表はプールBに所属し、南アフリカ、スコットランド、サモア、アメリカの順で対戦することになっていた。南アフリカ(愛称スプリングボクス)は1995年、2007年大会で優勝し、イングランド大会でも優勝候補の一角。過去にRWCで敗れたのは4度しかない。普通に考えれば、同格のサモア、アメリカに確実に勝ち、南アフリカに比べれば力は落ちるスコットランドから勝利をもぎ取って決勝トーナメントに進出すると考える。しかし、エディー・ジョーンズHCは初戦の南アフリカにターゲットを絞り、「ビート・ザ・ボクス」(ボクスに勝つ)と名付け、スプリングボクスに勝つための練習を繰り返した。

オーストラリア代表ヘッドコーチとして2003年大会で準優勝、南アフリカ代表テクニカルアドバイザーとして2007年大会優勝。百戦錬磨のジョーンズHCは事前に数々の仕掛けをしていた。まずは、4年の歳月をかけて日本代表はパスを多用するチームというイメージを浸透させた。そして、弱点とされていたスクラムを徹底的に鍛え上げ、南アフリカ戦の前には「スクラムを押せば勝てる」と宣戦布告する。

9月19日、現地時間の午後4時45分、試合は南アフリカのキックオフで始まった。「最初にきょうの日本代表はいつもと違うと考えさせれば、勝つポジションに入れる」(ジョーンズHC)。その言葉通り、7、8月の国際試合では自陣からでもボールをパスで展開していた日本代表は、一転してキックを多用。南アフリカのカウンター攻撃に対して、2人がかりのダブルタックルでボールを奪い返し、果敢に攻撃を仕掛けた。最初のスクラムでは、ジョーンズHCの言葉に挑発され、スクラムに集中した南アフリカをあざ笑うかのように、あっさりボールを出して大幅に前進。五郎丸歩の先制PGにつなげている。


前半29分、モールを押し込んでリーチ マイケルがトライし、10-7と逆転。このあたりから観客の胸の鼓動が高まっていく。後半28分、22-29の南アフリカ7点リードの場面の日本代表のサインプレーが見事に決まる。ざわつく観客席。つい詳細を書きたくなるが、このあたりで止めておいて、29-32の3点差で迎えた最後のシーンに移りたい。


終了間際、相手の反則でPKを得ると、ヘッドコーチの「PGを狙え」の声を無視して、リーチキャプテンがスクラムを選択した。ラグビーは相手の反則の際、攻撃側にいくつかの選択肢がある。1=PKからすぐに攻める、2=タッチキックを蹴ってラインアウトから攻める、3=スクラムを選択して攻める、4=PG(3点)を狙う、この時は4つあった。ジョーンズHCは手堅く同点にして勝ち点を取ろうとした。しかし、勝つための猛練習を繰り返してきた選手たちは、同点は望まず、勝利にかけたのだ。


決勝トライにつながる一連のプレーにもいくつも見どころがある。まずは、リーチ。一連の攻撃の中で3度もボールを持って突進。最後には右コーナーで密集の下敷きになって、トライの瞬間を見ていない。チームメイトに「トライしたよ!」と言われて「うそでしょ?」と言ったそうだ。アマナキ・レレイ・マフィにロングパスを送ったCTB立川理道は、実は目の怪我で右側が見えづらかった。「左方向へのパスで助かりました」。帰国後、網膜剥離が判明して緊急手術している。


そして立川は2人の選手(トンプソン ルーク、木津武士)を飛ばしてマフィにパスしたのだが、この試合でジョーンズHCは「飛ばしパスは禁止」と指示していた。南アフリカの選手はインターセプトが上手く、パスをカットされて一気にピンチになる可能性があったからだ。最後のトライは、ジョーンズHCの手のひらから選手たちが自由に羽ばたいた瞬間でもあったのだ。トライの瞬間、背後の警備員まではガッツポーズしているのは微笑ましい光景だ。


筆者は、試合を中継したJSPORTSで、スポーツ実況アナウンサーの矢野武さんとともに現地の放送席にいた。「南アフリカ相手に、スクラム組もうぜ! 宣戦布告」(矢野武)の名台詞が生れた。決勝トライの瞬間、矢野さんは「ヤッター!ヤッター!ヤッター!」と叫びつつ筆者に抱き着いた。目からは涙があふれだしていた。筆者も長い解説人生の中で初めて放送中にハンカチで涙をぬぐった。この試合は、1999年大会からRWCの中継をするJSPORTSが初めて放送した日本代表のRWC勝利でもあった。この試合を見た人の数だけ、このような物語があるはずだ。そして、2019年の日本代表が、その物語をさらに深みあるものにしてくれたのである。


文:村上晃一

村上晃一

村上 晃一

ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。

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