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もう一試合は、午後4時、秩父宮ラグビー場でキックオフされた。王者サントリーサンゴリアスと、ヤマハ発動機ジュビロの一戦は、互いに持ち味を出し合い、「死闘」と呼びたくなるタフな攻防だった。キックオフなサントリーSOマット・ギタウが蹴り込む。これをキャッチしたヤマハ発動機は、キックを使わず、約1分20秒攻め続けた。挑戦者として攻める姿勢を明確に示したのだ。しかし、ヤマハ発動機のFLクワッガ・スミスがタッチラインを割った直後、サントリーは素早くラインアウトにボールを入れると、ギタウがディフェンスを突破し、WTB尾崎晟也が巧みなステップワークで先制トライを奪う。息つく暇もないスピーディーな攻防はこの後も続いた。
13分、ヤマハ発動機はゴール前のラインアウトからモールを押し込んでHO日野剛志がトライ。得意の形でトライしたヤマハ発動機は、18分にも、ラインアウトからWTBシオネ・トゥイプロトゥがタックルを振り切って抜け出し、最後は日本代表LO大戸裕矢がトライし、7-12と逆転に成功する。前半はヤマハ発動機がボールをキープすることで主導権を握ったが、後半に入るとサントリーもボールをキープして攻める時間を多くし、流を変えた。
後半7分、サントリーは相手ゴール前のラインアウトから左オープンに展開し、ギタウのパスを受けた尾崎がトライして、20-22とする。この直後、ヤマハ発動機がトライチャンスを迎えるがゴール直前でCTBタヒトゥアがボールをこぼしてチャンスを逸した。ここでトライが決まれば勝てたかもしれないが、何度もあくなき突進を続けた選手を一つのミスでは責められないだろう。
拮抗した展開が続いた後半30分、サントリーは、ヤマハ発動機のゴールに迫ると、ギタウ、CTB梶村祐介、FLツイ ヘンドリック、尾崎とパスをつなぎ、最後は4人のディフェンダーに囲まれながら尾崎がトライし、25-22と逆転した。疲れの見えるヤマハ発動機だが、ここからが粘り強かった。34分にはサントリーボールのスクラムを猛プッシュしてターンオーバー。このあと、30フェーズ以上の連続攻撃を仕掛けた。しかし、疲れもあってテンポは遅く、一糸乱れぬディフェンスを続けるサントリーを前に22mライン内へ侵入できない。ところが、ボール争奪戦でサントリーのツイが相手ボールを奪おうとした際、立っていなかったという紙一重の反則。ヤマハ発動機のFB五郎丸歩がPGを決め、25-25の同点で80分が終了した。
今大会のトーナメントは、サドンデスの延長戦となる。なんらかのスコアがあればその時点で試合終了である。キックオフ直後からボールをつないで攻め続けたヤマハ発動機だが、少しずつ前進して迎えた3分、SO清原祥が、サントリー陣22m付近にボールを高く蹴り上げる。しかし、ボールはやや長かった。余裕を持ってボールをキャッチしたサントリーFB松島幸太朗がカウンターアタック。キレのあるステップを疲労のたまったヤマハのディフェンダーを次々にかわして相手陣へ。松島は相手陣に入るとPR垣永真之介にパス。ここにヤマハ発動機のFLクワッガ・スミスがタックルし、ボールを奪いに行ったが、タックラーをいったん離す義務を怠ったとしてペナルティー。40m以上のPGをギタウが狙うことになり、見事に成功、死闘の幕が閉じた。互いに攻め合い、プレーの途切れることの少ない好試合だった。
「レベルの高い良いゲームだったと思います。きょうのキーワードは我慢、それを選手たちが体現してくれました」。勝ったサントリーの沢木敬介監督の目は、潤んでいたように見えた。「神戸にはダン・カーターがいますが、サントリーにはマット・ギタウがいます」。クールに見えてサービス精神旺盛な指揮官は決勝戦へ期待感膨らむコメントをした。ニュージーランド代表112キャップのカーターと、オーストラリア代表103キャップのギタウ。2人のプレーメイカー対決は決勝戦最大の見どころとなる。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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