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モータースポーツ コラム 2025年12月23日

角田裕毅、F1レギュラー最後の4日間

モータースポーツコラム by 吉田 知弘
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2025年12月2日の深夜、日本のF1ファンにとっては大きなニュースが飛び込んできた。今季も唯一の日本人ドライバーとしてF1世界選手権に参戦していた角田裕毅が、オラクル・レッドブル・レーシングのレギュラーを今季限りで外れることとなり、来季はリザーブ兼テストドライバーとしてチームに帯同することが発表されたのだ。

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振り返ると、今季の第3戦日本GP直前にレッドブル移籍が発表され、優勝も狙えるトップチームから日本人が参戦するということで、大きな話題となった。しかし、長年レッドブルの最強マシン製作に携わってきたエイドリアン・ニューエイ氏の離脱もあり、中盤戦は苦戦を強いられるレースが続いた。

なかでも角田は、僚友マックス・フェルスタッペンとは異なり、旧型スペックのパーツで前半戦を過ごすなど、なかなか満足に戦えない状況が続く。それでも諦めずに挑み続け、後半のアゼルバイジャンGPやアメリカGPなどでポイントを獲得するが、終盤戦はチームのミスに足を引っ張られることも少なくなく、本人にとっても辛いレースが続いた。

角田が奮闘を続ける一方で、パドックではレッドブルと姉妹チームのビザ・キャッシュアップ・レーシングブルズ・フォーミュラ1チームの来季シートに注目が集まり、角田のレギュラー継続が難しいという噂が流れていた。そして、最終戦アブダビGPを前に、両チームが2026年のドライバーラインナップを発表。そこに角田の名前はなかった。

迎えたF1最終戦アブダビGP。走行前日の4日(木)はメディアデーとなっており、ドライバーたちは記者会見への出席や、各メディアの取材対応をする。

それに合わせて、午前中からお昼のうちにはサーキットに到着しているのが通常だが、角田は15時ごろにパドック入り。すでにFIAプレスカンファレンスが始まっている時間帯だったことを考えると、“かなり遅めのサーキット入り”という表現になるかもしれない。

 

その後、角田も記者向けの囲み取材が16時00分から予定されていたが、ここでも直前になって16時20分から変更とアナウンスされ、その時間になっても角田は現れず。16時30分になってようやく集まった記者の前に登場した。

F1ドライバーはサーキット内では非常に忙しく、取材の時間が前後するということはよくあること。とはいえ、ここまで遅れるというのは少々異例だった。そして、さっそく話題はレギュラーシート喪失ついて、カタールGPからアブダビGPまでの心境をこのように語った。

「(カタールGPの)レース後、ヘルムート(・マルコ)から伝えられました。もちろん、タフな気持ちです。でも、自分でも驚いていることに、翌朝は普通に起きて、いつもと同じ朝食を食べて……普通でした。多分、今回が最後のレースになるという実感が湧いていないんだと思います」

その他のコメントについては、すでに他のメディアで報じられているが、その表情とコメントからは、どこか歯切れが悪さを感じた。発表後に本人がSNSで「まだ終わっていない」と発信していたが、レギュラー喪失を納得していないことはもちろん、その事実を受け入れられていないような様子だった。

角田裕毅のXでの投稿

そんな中で開幕した角田の今季ラストレース。金曜日のフリープラクティス1は、来季F1デビューが決まったレッドブル育成のアービッド・リンドブラッドが走行を担当したため、角田は日が暮れたフリープラクティス2から22号車に乗り込んだ。しかし、マシンのバランスが芳しくなく、17番手タイムで終了。セッション終了後はメディア対応(金曜日は基本的にF1公式の動画インタビューのみ)があるのだが、そこでの表情は険しく、インタビューが終わると足早にレッドブルのピットに戻っていった。

 

今シーズンは不運な場面もあり、なかなか思うような結果を出せなかった角田。リザルトという数字だけを見ると、評価が下がってしまいがちだが、現場での彼は諦めずに努力を続けていたという。

レッドブルのピット内でホンダのパワーユニット管理に携わる折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャーは、人知れず努力を続ける角田の姿を見ていた。

「私が彼(角田)と接する機会といえばミーティングが主です。やはり結果が良くない時、他のドライバーだと機嫌が悪くてあまり喋らないこともあるかもしれませんが、彼は結果が悪くても諦めないというか……粘り強くエンジニアと会話して『どこが悪かったのか』を分析しています。私が今まで見てきたなかでも遅くまで残って話し合っている印象ですね。それをずっと積み重ねてやっていて、(結果が)悪い時もエンジニアと会話して、何とかしようという姿勢が成長につながってきたんじゃないかなと思いますし、他のドライバーと比べて見た時に、そこが彼の強みなのではないかと思います」

そういった粘り強さが今回も実ったのか……FP2の内容を踏まえて角田陣営は大幅なセットアップ変更を決断。土曜日のFP3では改善の兆しがみられ、良いパフォーマンスを見せていたが……上り調子になったタイミングで、またしても彼に不運が襲う。

セッション終盤に予選を想定したアタックシミュレーションのためにピットレーンに出た瞬間、アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)もガレージから勢いよく出てきて、角田車の右サイドポンツーン付近にぶつかった。

マシンのフロアを含め、サイドポンツーン内部の部品もいくつか破損。予選までの短いインターバルで緊急修復。何とか予選Q1までに作業は完了したが、マシンのパフォーマンスで重要な役割を持つフロアは、旧型仕様にせざるを得なくなり、またしても流れが崩れることになった。

状況を考えるとQ1突破は難しいかと思われたが、「1周1周パフォーマンスを出し切ることしか考えていなかった」という角田は、Q1を15番手、Q2を10番手と当落線ギリギリで通過を果たした。

そしてQ3最初のアタックでは、チャンピオンを争うチームメイトの前を走って、スピードを稼がせる援護も完璧にこなした。

ターン5以降の長いストレートではなく、ターン9手前(2本目の全開区間の終盤)でフェルスタッペンを先に行かせて「タイミングが合わなかったのではないか?」と感じた人もいるかもしれないが、折原トラックサイドゼネラルマネージャーに確認すると「位置関係は狙った通りでした」とのこと。こうしてフェルスタッペンは最終的にポールポジションを獲得し、角田はしっかりと役割を果たした。

「FP3での一件で、フロアを古いのに変えなければいけなかったので、それは痛手でした。正直Q3まで行けるとは想像していなかったですけど、1周1周パフォーマンスを出し切ることしか考えていなかったです。その状況で最大限パフォーマンスを発揮して、最後は(Q3)マックスを助けられたので良かったです」

 

それまでは、どこかピリピリした雰囲気だった角田だが、予選を終えてようやく安堵感が出てきたのが印象的だった。

迎えた2025年のF1最終戦。F1の公式SNSでは、決勝前にこのような投稿があった。

10番グリッドの角田は、ハードタイヤでスタートして1ストップで乗り切る作戦を選択。途中、別の戦略を採ったランド・ノリス(マクラーレン)が後方から迫り、チャンピオンを争う僚友フェルスタッペンのためにも抑え込みたいところだったが、タイヤの差もありバックストレートでオーバーテイクを許した。この時の攻防戦でディフェンスラインを複数回変えたとして5秒加算のペナルティが科せられることに。後半はミディアムタイヤで追い上げようとするも、なかなかペースが上がらず、今季最終戦は14位で終えた。

「5秒もペナルティもあり、(タイヤの)オーバーヒートがかなり酷かったので、オーバーテイクがかなり厳しかったです。(ノリスとのバトルでは)最大限抑えようとしましたけど、1回で行かれてしまったので、なかなか上手く行かなかったです」と角田。

決勝レースを終えたドライバーたちは、パルクフェルメでマシンを降りて体重測定を終えると、その足でパドック内のTV Pen(メディアミックスゾーン)に向かう。角田にとっては、F1レギュラー最後のメディア対応となった。いつもと変わらず、淡々と各TV局のインタビューに答えていた。なかには、インタビューを終えた後にガッチリと握手をするインタビュアーや、次のインタビューエリアへ移動する前に最後に一声かけるインタビュアーの姿も。

現場でも、彼がF1レギュラーから外れることを惜しむ人は少なくないということを改めて感じた。

角田のF1参戦もあり、日本でのF1人気は年々上昇。今年4月に鈴鹿サーキットで開催された日本GPでは、3日間合計で26万2000人を動員したほか、夏には映画『F1™︎/エフワン』が公開され、多くの人がF1に興味を持ち、この最終戦も日本でテレビや配信等で観戦していたことだろう。もちろん、アブダビ現地まで足を運ぶ日本のファンもいた。

そんな日本のファンへ、激動の2025シーズンを終えた角田は、このようなメッセージを残した。

「今シーズン、応援ありがとうございました。特に後半戦は、多くの日本国旗を現地で見ることができました。(シーズン中は)なかなか僕が思うような結果と、皆さんが思うような結果を出せなかったと思うんですけど……その“しんどいシーズン”を一緒に戦ってくれたことは感謝しています。これからも応援よろしくお願いします」

 

角田にとっては5年間の締めくくりとなった1戦。レース後は特に感傷的な雰囲気になることはなく「何もないですね。普通です」とのこと。レースを終えた後も、レギュラー最後ということに対しての実感は沸いていない様子だった。

SNSでは“角田裕毅の第二章”を期待する声も多く上がっているが、そう簡単に上手く行かないものF1という世界。レギュラー復帰の可能性はゼロではないが、決して高くもないというのが、現状の噂だ。

それでも……“必ずレギュラーに戻る”と、すでに先を見据えているというか、強い覚悟を持っているような雰囲気が、アブダビGPを終えた角田の表情から、強く感じられた。

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文:吉田 知弘

吉田 知弘

吉田 知弘

幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ

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