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モータースポーツ コラム 2025年12月18日

フェルスタッペンの《秘密兵器》ハンナ・シュミッツに見るF1戦略責任者の仕事

F1コラム by J SPORTS 編集部
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2021年からレッドブルの戦略責任者を務めるハンナ・シュミッツ

2021年からレッドブルの戦略責任者を務めるハンナ・シュミッツ

2025年シーズンも残り2戦となった11月最終週、カタールGPが行われた。レッドブルのマックス・フェルスタッペンが勝利を挙げ、最終戦アブダビGPは、マクラーレンのランド・ノリス、オスカー・ピアストリとの三つ巴の様相を呈することになった。その重要な一戦で存在感を放ったのが、レッドブルの戦略責任者ハンナ・シュミッツだ。

7周目に分かれた明暗

レース7周目、セーフティカーが導入された局面で、シュミッツはフェルスタッペンをピットインさせる決断を下す。マクラーレン勢とは真逆の選択だった。この判断が的中し、フェルスタッペンはレースの主導権を握り、そのまま優勝へとつなげていった。

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レース後、その決断について問われたシュミッツは「周りはみんな“本当にピットインさせるのか?”と何度も確認してきたけれど、私は“絶対にそうするべき”と答えたわ」と振り返り、事前のシミュレーションどおりだったことを明かした。表彰式ではフェルスタッペンとともに表彰台へ。勝敗を分けた判断が、改めて称えられる形となった。

異例のスピードで駆け上がったキャリア

2児の母でもある40歳のシュミッツは、幼い頃からクルマや機械の仕組みに強い関心を示していたという。ケンブリッジ大学で機械工学の修士号を取得後、2009年に学生インターンとしてレッドブルでキャリアをスタートした。シミュレーター業務から経験を積み、わずか2年後にはストラテジストに昇格。2021年から現在の戦略責任者を務めている。

『Daily Mail』によれば、オランダメディア『HLN』は彼女をフェルスタッペンの“秘密兵器”と表現。さらに『The Sun』は、今季限りでレース戦略部門トップのウィル・コートネイがチームを離れる予定であり、後任候補としてシュミッツに大きな期待が寄せられていると報じている。

数々の名判断が築いた信頼

シュミッツの手腕が高く評価されたのは、今回が初めてではない。2021年シーズン最終戦では、当時メルセデスに所属していたルイス・ハミルトンとの激しいタイトル争いの中で、迅速かつ大胆な判断が勝敗を左右し、フェルスタッペンをドライバーズチャンピオンへと導いた。

さらに2022年ハンガリーGPでは、10番グリッドからのスタートとなったフェルスタッペンに対し、当初予定していたハードタイヤを取りやめ、直前でソフトタイヤに切り替える決断を下す。この戦略が奏功し、フェルスタッペンはライバル勢を次々と攻略。困難と見られたレースで勝利をつかみ、ドライバーズ選手権でのリードを広げた。

レッドブル公式サイトの記事によれば、フェルスタッペンは当時、即座に戦略を組み直したシュミッツを「信じられないほど落ち着いていた」と称賛したという。シュミッツ自身も「冷静さを保つことは、ストラテジストにとって最も重要な資質のひとつ」と語っている。

戦略責任者とは何者か

戦略責任者はレース中、チーム代表らと並んでピットウォールに座り、ドライバーが各レースを最速で走り切るための戦略を立案し、実行し、その結果を分析する役割を担う。その仕事はサーキットの外から始まっている。タイヤ性能の予測や膨大なデータを用いて複数のレースシナリオを構築し、フリー走行や予選で得られるデータを基に、想定と現実の差を埋めていく。

そしてレース中は、他チームの動向、天候の変化、セーフティカー導入など、刻々と変わる状況をリアルタイムで把握しながら、最善の一手を瞬時に判断。ドライバーやレースエンジニアへと指示を送る。数値モデルや確率論が土台にある一方で、最終的には現場の経験と直感がものを言う場面も少なくない。

「98%は準備」

F1公式サイトの特集の中で、フェラーリ、ハース、ザウバーでキャリアを積んだルース・バスコムは、戦略の本質をこう語っている。

「戦略という仕事の98%は準備。テレビで映るような高速チェスのような駆け引きは、氷山の一角にすぎません」

「レース前にはあらゆるシナリオを検討し、それをドライバーやチーム全員に分かりやすく伝えます。プランBやプランCが意味するもの、次にどのタイヤを履くのかを、誰もが正確に理解している状態を作るのです」

最終的に2025年の王座はノリスの手に渡り、フェルスタッペンはランキング2位に終わった。だが、カタールGPで見せたシュミッツの判断が色あせることはない。勝利を引き寄せる膨大な準備と揺るがぬ冷静さ。来シーズンは、ピットウォールで戦う戦略責任者たちの存在にも注目したい。

文:J SPORTS編集部

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