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モーター スポーツ コラム 2025年12月8日

濃密すぎた2日間3レースの“2025 スーパーフォーミュラ最終決戦”

モータースポーツコラム by 吉田 知弘
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鈴鹿サーキットで開催されたスーパーフォーミュラ最終決戦

今年も鈴鹿サーキットでシーズンフィナーレを迎えた2025全日本スーパーフォーミュラ選手権。10月に富士で開催予定だった第10戦が濃霧でキャンセルとなったが、その決勝を最終大会の鈴鹿に組み込み、スーパーフォーミュラでは初めてとなる“2日間で3レース”という異例のかたちで、今季の王座決戦が繰り広げられた。

超過密日程ということで、レースウィーク前はいろいろな意見もあったものの、結果的に3連戦だったことで、チャンピオン争いは予想以上の大激戦に。そして、週末を通して様々なドラマが生まれ、それぞれの想いが交錯した。

今回は変則スケジュールということで、土曜日の午前8時から予選がスタート。さらに土曜午前のうちに第11戦と第12戦の予選2回分を実施するというものだ。比較的コース上でのオーバーテイクが難しい鈴鹿では、予選のポジションが重要となる。ここまでの流れや金曜フリー走行でのドライバーコメントを聞く限りでは、牧野任祐と太田格之進が駆るDOCOMO TEAM DANDELION RACING勢が少し優勢かという印象だった。

しかし、いざ予選が始まると主導権を握ったのは岩佐歩夢(TEAM MUGEN)。金曜日の段階では「まだ足りない」とパフォーマンス面で課題が残っていた様子だが、いざ予選が始まると、僅差の上位陣でライバルより頭ひとつ抜け出る速さをみせ、第11戦・第12戦ともにポールポジションを奪った。さらにチームメイトの野尻智紀も2戦連続で2番グリッドを獲得。注目のダンディライアン2台はトップ3に食い込むことができず。2年連続チャンピオンを狙う坪井翔(VANTELIN TEAM TOM’S)も、第11戦が9番手、第12戦が7番手と苦しい結果になった。

岩佐歩夢(TEAM MUGEN)

ここから、決勝3レースが立て続けに行われていくのだが、今思えば、土曜朝の明暗分かれた結果と、そこで見られた各車のパフォーマンス差が、チャンピオン争いにおけるターニングポイントだったのかもしれない。

第11戦:岩佐の1周目リタイアと野尻の今季初優勝

第12戦の予選終了から2時間30分後、早くも今週末最初の決勝レースが始まった。ダブルポールポジションを奪う走りで、一気に流れを手繰り寄せた岩佐。サーキットは早くも“チャンピオン争いは岩佐優勢”という空気に変わりつつあった。

坪井のポジションを考えると、土曜日の段階でランキング首位が入れ替わる可能性も十分にあったが、その期待がスタートから数十秒後にかき消されることとなる。

1コーナーを2番手で通過した岩佐は逆バンクでイゴール・オオムラ・フラガ(PONOS NAKAJIMA RACING)と接触。バランスを崩してアウト側のバリアにクラッシュした。

「……終わりました」と無線で静かに話す岩佐。チャンピオン争いを考えると、痛すぎる決勝ノーポイントとなってしまった。

その後も、ピットウインドウが開く直前にザック・オサリバン(KONDO RACING)がスピンを喫してセーフティカーが導入されたことで、開幕戦と同じく10周目に全車がピットインするという波乱の展開になっていくが、こういったイレギュラーが起きると強いのが、王者 坪井。スタートで3つポジションを上げると、10周目のピットストップでさらに2ポジションアップを果たし、4位でフィニッシュを果たした。

岩佐がノーポイントに終わったことと、ランキング3番手だった太田もスタートでの出遅れから挽回し5位フィニッシュを果たしたが、第11戦終了時点で坪井のリードは16.5ポイントに広がった。

早ければ代替えの第10戦でチャンピオンが決まる計算にはなるが、坪井は「(予選が終わった段階では)チャンピオンシップは終わったなと思っていました。そこから考えると、この決勝結果で“首の皮一枚繋がった”という意味ではポジティブです」とコメント。数字上は王手をかけていたものの、状況的には優勢というわけではなさそうだった。

そして、この第11戦で最大のトピックとなったのが、野尻の今季初優勝だ。2021年と2022年にチャンピオンを獲得し、その後も毎年チャンピオン争いに絡んできた。今年もコンスタントにポイントを積み重ね、最終大会前の時点で逆転王座の可能性は残していたが、ポイント差を考えると現実的ではない状況。そんな中、「とにかく1勝はしたい」と後半戦は常々語っていた。

今回はスタートでトップを奪い、それ以降はしっかりとレースをコントロール。最後までトップを守り切ってチェッカーを受け、“速く・強い”野尻が帰ってきた瞬間だった。

今シーズン初勝利を挙げた野尻智紀(TEAM MUGEN)

「ようやく勝てたよ〜! 俺のせいで部長(田口顕人エンジニア)勝たせてあげられないかと思ったよ。よかったよ、皆さんありがとうございます」とチェッカーの無線で語った野尻。

今年は担当エンジニアが代わったなか、勝利を飾れなかったことに野尻も責任感を感じていたのだろう。パルクフェルメでは満面の笑みとともに、どこか安堵した表情が印象的だった。

第10戦(代替):フラガ、気迫の初優勝と、優勝のチャンスを逃した牧野

いよいよチャンピオンが決まる日曜日。まずは濃霧でキャンセルとなった第10戦代替レースが行われた。予選は10月の富士大会での結果をそのまま採用し、牧野がポールポジションで、フラガが2番グリッドにつけるという最前列の顔ぶれ。今回は19周で途中のタイヤ交換義務がないスプリントフォーマットということで、全員がスタートでの順位変動を狙っていたが、まさにそこで決着がついた。

1コーナー手前では牧野が先頭をキープしていたが、フラガが諦めずにアウト側から並びかけ、1コーナーを過ぎたところで逆転しトップに浮上した

前日の第11戦でも、野尻に競り負けて2位に終わり、相当悔しい表情をみせていたフラガ。1周目の岩佐との接触についても、おそらく本人のなかでモヤモヤした気持ちが少なからずあったのかもしれないが、「勝ちたい!」という気迫は全く薄れておらず、それが第10戦でのトップ浮上の原動力となった。

前日のリベンジを果たし、念願の初優勝を果たしたフラガ。「スタートで牧野選手に並べなかったなと思ったんですけど、何があるのか分からないので、諦めずに1コーナーで飛び込んで行って、とりあえず行ける場所から飛び込んでみたんですけど、それが以外とうまくいって、前に出ることができました。嬉しかったです。感謝や嬉しさや、いろんな感情が混ざっていましたけど、むちゃくちゃ嬉しかったです。(ウイニングランでは)めっちゃ泣きました!」と、初優勝の喜びを語っていた。

イゴール・オオムラ・フラガ(PONOS NAKAJIMA RACING)

一方、トップを守りきれなかった牧野は、レース直後の公式映像インタビューで言葉を詰まらせる。
タラレバだが、仮に第10戦で勝っていれば、自力での逆転チャンピオンの可能性が出てきていた。それだけに、逃した5ポイントはあまりにも大き過ぎたのかもしれない。その意味を誰よりもわかっているだけに、その悔しさが表情に出ていた。

第12戦:勝った者、負けた者の想いが交錯した第12戦

代替の第10戦が終わり、4人がタイトルの可能性を残すという、スーパーフォーミュラ史上でも稀に見る大混戦となった。

坪井:116.5ポイント
牧野:107ポイント
太田:107ポイント
岩佐:104ポイント

ポイント的には、依然として坪井が有利ではあるが、最終戦のグリッド順は奇しくもこの中で獲得ポイントが最も低い岩佐がポールポジション、太田と牧野が4・5番手に並び、首位の坪井が7番手とポイント順とは逆のグリッドポジションからスタート。

チャンピオンをかけた今季最終戦は、頂点をかけた意地がぶつかりあい、それぞれの想いが垣間見えるレース展開に。坪井は有利ではない状況下で少しでもきっかけを作ろうと、スタートでアグレッシブに攻めていき、いつもとは異なる早めのピットストップで展開を動かしていく。

ピットアウト直後には先にタイヤ交換を済ませていた野尻と激しい攻防戦を展開。岩佐のチャンピオン獲得のために前に出たい野尻と、2連覇のためになんとしてもポジションを死守したい坪井の想いが走りとなって現れた瞬間だった。

ただ、坪井の連覇は叶わず、レースを支配したのはポールポジションスタートの岩佐。特にレース後半は佐藤から追われる展開となったが、最後までトップを守りきり今季2勝目。太田が3位、牧野が5位、坪井が8位となり、大逆転でシリーズチャンピオンに輝いた。

チェッカー直後は、とにかく喜びを爆発させていた岩佐。今季は開幕戦から速さを見せながらも、トラブルに見舞われるレースも少なくなく、どちらかというとポイントを取りこぼしている印象が大きかった。しかし、その一方でフィニッシュしたレースのほとんどが表彰台圏内と常に上位にいる印象だった。

「嬉しいですね。本当に、今までアップダウンが激しくて……今シーズン自体もそうでしたし、昨年から勝てなくて、自分たちの力を結果として示してこられなかったので、本当に最後にこうして形にできたのは本当に嬉しいです」と、公式映像のインタビューに答えながらチャンピオン獲得という事実を噛み締めていた印象だった。

勝者が喜びの涙を流す一方、敗者の悔し涙もパルクフェルメでは見られた。なかでも一際悔しさを露わにしていたのが太田。パルクフェルメではヘルメットをかぶったまま、拳を握りしめて号泣していた。

太田格之進(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)

前日の第11戦決勝では、スタートで大きく順位を下げるも怒涛の追い上げをみせて5位フィニッシュとチャンピオン獲得に向けて気迫溢れる走りを披露。最終戦も最後の最後まで諦めずに岩佐を追いかけ続けたが、わずかに届かず3位に終わった。

「クルマや戦略もやれるだけやったなという感じです。ただ、今年1年通して、TEAM MUGEN岩佐のパッケージが強かった。そこに負けたなという感じです」と、負けを認めつつも、それを受け入れたくないという様子だった。

そして、2連覇を逃した坪井もレース直後の無線で「もっと実力を付けろってことですね、また来年がんばりましょう」と、また決意を新たにしている様子だった。

終わってみれば、想像以上に激戦となった2025年のスーパーフォーミュラ王座争い。奇しくも変則3連戦だったことも、より激戦な展開を生んだ要因のひとつにもなったが、改めて感じることは、本当に誰が勝ってもおかしくない僅差のシーズンだったことは間違いない。

そのなかで、勝者と敗者が生まれるのがレースの世界。こういうレースを見て毎回思うのが、“勝つと負けるは紙一重”ということ。その中で今年は岩佐が頂点の座を掴んだ。

そして、早くも2026シーズンに向けてスーパーフォーミュラをはじめ、各モータースポーツは動き出す。岩佐はF1最終戦アブダビGPでレーシングブルズのFP1走行を担当するなど、着実にF1参戦に近づき始めている。そのライバルたちも、2026年はそれぞれの挑戦が待っていることだろう。

個人的には、来年のそれぞれの活躍が楽しみになるような、今季のスーパーフォーミュラ最終大会だった。

文:吉田 知弘

吉田 知弘

吉田 知弘

幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ

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