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■SUPER GT第3戦セパン
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吉田広樹(No.52 Green Brave GR Supra GT)
逆転信じ、魅せた怒涛の走り
12年ぶりの開催となったマレーシア・セパンでの一戦。SUPER GT第3戦のGT300クラスに参戦するNo.52 Green Brave GR Supra GTは、レース前半トップを快走するも、ピット作業でのアクシデントが響いてライバルに逆転を許し、わずか0.933秒の差で勝利を逃した。
ポディウムを待つ間、吉田広樹は上気した顔で「一生懸命やってミスしたのはしょうがない。ドライバーだって一生懸命走って(他車と)当たることと一緒だから」ときっぱり言い切った。だが、今シーズン待望の初ポイント、2位表彰台獲得ながら、その表情は険しいままだった。
今回、予選2位から決勝に臨んだNo.52 Green Brave GR Supra GT。スタートドライバーの野中誠太が好スタートを切ると、GT300クラスポールのNo.18 UPGARAGE AMG GT3をオープニングラップの最終コーナーで攻略、瞬く間に10秒近く後続との差を広げた。GT300では16周終了を境にルーティンのピット作業が始まったが、トップを快走する52号車と2番手の18号車は互いを牽制してかそのタイミングを引っ張り、52号車が25周終わりで先にピットへと帰還した。
野中から吉田へとスイッチ。クルマのなかでスタートを待っていた吉田の目の前でタイヤ交換が始まった。ところが、左フロントタイヤのホイールナットが飛び、勢いよく後方のピットへとコロコロ転がっていく。左リヤタイヤを交換し終えたスタッフが、慌てて追いかけていった。「作業するスタッフには『余裕があるから、作業はゆっくりでいいよ。(作業が)2、3秒遅くてもいいからね』ってピット作業に入る前に伝えたんですが……」と吉田。埼玉トヨペットを母体とするこのチームは、サービスエンジニア(店舗メカニック)がタイヤ交換を担う。加えて、今シーズンの52号車は、開幕戦で接触リタイア、第2戦富士でもスタート直後のアクシデントに見舞われており、優勝争いの真っ只中でピット作業を行なうのは、今回が初めてだった。しかも、今シーズンからSUPER GTの現場に関わるスタッフとしては、優勝がかかる重要な作業とあらば、そのプレッシャーたるや計り知れない。それを承知していたから、作業する全スタッフに吉田は声をかけたのだ。
だが、このアクシデントで野中が築いたマージンは瞬く間に消滅、一方の18号車は翌周にピット作業を難なく終え、クラストップでコース復帰を果たす。2台のピットインタイムを比較すると、52号車は15秒近くタイムロスしたことになる。ただ、このときの吉田は冷静だった。「ミスっても、僕が抜き返せばメカ(ニック)の気も安らぐだろうな、と。だからそうしたかったし、どうにか出来ると思っていたんです。それができるくらいクルマもペースがありました」。
眼の前にある勝利を掴むべく、18号車を猛追し続けた。クルマは、セッティングも装着タイヤも申し分ない。ペースにも自信があった。だが、数周にわたって行く手を周回遅れの車両に阻まれ、なかなか18号車との直接対決に至らない。次第に焦燥感が大きくなり、チームとの無線も語気が強まった。それでもなお力を振り絞り、文字どおり”怒涛”の追い上げをみせた。そして2位でチェッカー……1秒にも満たなかったトップとの差が、いっそう悔しさを増長させた。表彰式を終え、すっかり日の暮れた頃、SUPER GT Official Channel(You Tube)の取材でコメントしていたら、レース中の苦い思いがこみ上げ、熱いものが頬を伝ったという。「(優勝の)チャンスを失ったことへの悔しさがどんどん大きくなって……」。
「レースでの悔しさは、レースでしか晴らすことはできない」と吉田。最短でのリベンジ戦は、第4戦富士。今度はノーウェイトでのスプリントレースとなる。「実は、僕と(野中)誠太が”後厄”なんです。加えてエンジニアもチーフメカニックも僕と同い年で。みんなに『お祓いに行け』って言われていたんです。こういうことって気にしない方ですが、今回、ナットが飛んだことで厄が落ちたと思うしかないです(苦笑)」。
今シーズンを迎えるにあたり、チームではシーズン前から新レギュレーションに対応すべく様々な改良に取り掛かり、クルマも進化を遂げている。次こそは、満面の笑みで表彰台に上がり、チームと勝利を分かち合いたい。「今シーズンはまだ結果が残っていませんが、手応えは感じています。次の富士はノーウェイトでのスプリントレースだけに、速さそのものを見せることができるので、そこで勝って自分の力を証明したいですね」。
文:島村元子
島村 元子
日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。
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