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決勝レーススタートまであと6日
伝統のル・マン24時間レースは今年93回目の大会を迎えます。2025年6月14日(土)〜15日(日)に開催される「第93回ル・マン24時間レース」は「J SPORTS」で生中継。FIA WEC(世界耐久選手権)の中で最も重要なこのレースを今年も24時間完全生中継でお届けします。このレースをより楽しんでいただくために、決勝レースがスタートするまでの間に24個のトピックスを取り上げ、今年のル・マンの見どころをご紹介。第19弾は大接戦が続く「激しすぎるスプリント耐久」というテーマです。
8メーカーが参戦する「HYPERCAR」クラス、オレカ07・ギブソンの同一車両で争うワンメイクの「LMP2」クラス、そして昨年から最もポピュラーなGTカー規定のFIA GT3規程を採用した「LMGT3」クラスの3つで構成されるル・マン。そのレースの姿はもはやかつての耐久レースとは全く様相が異なります。
レースのスタートから24時間後のチェッカーまで、ずっとスプリントレースをやり続けているのが今のル・マンなのです。かつて90年代くらいまではファイナルラップになると沿道の観客がコースに入ってきてしまい、まだチェッカーが出ていないのに優勝車は自然にスローダウンし、オフィシャルまでもオフモードとなって祝福する光景がよく見られました。ル・マンのゴールといえばそんな感じだったと覚えている人もいるでしょう。
かつては総合優勝を飾るマシンが2位以降に1周以上の差をつけてフィニッシュを迎えるのは当たり前でした。ですから同じチームのマシンで並んでフィニッシュし、チェッカーフラッグを受ける、通称「デイトナフィニッシュ」が可能でした。今考えるとそれは大らかな時代でありました。
しかし、24時間走った後に決定的な大差ができてしまうということは、逆にいえば、それだけマシンが壊れて当たり前だった、ノントラブルで走り切るというのはほぼ無理ゲーだった、レース終盤ではマシンを労わってスローペースで走らないと最後までもたない可能性があったということです。まさに耐えるレースをするのがル・マンでした。
1991年のマツダ787B優勝時は2位に2周差。2004年のチーム郷(アウディ)優勝時は、同一ラップのマシンは同じアウディだけで3位以下は9周差。アウディ、ポルシェ、トヨタが争ったLMP1激戦時代の2015年は1周差。多数のメーカーが出てきたHYPERCARの2023年でも優勝したフェラーリと同一ラップは直前でガードレールに接触を喫したトヨタだけでした。
それが昨年は総合優勝のフェラーリに対して同一ラップは他に8台。最後の最後までどのチームも気が抜けない接戦だったのです。これが産まれた原因はいくつかありますが、最も大きな要因は「HYPERCAR」クラスは性能調整によってラップタイムにあまり差がないという点です。そしてもう一つは過去に比べてマシンが壊れにくくなったこと。それに加えて、セーフティカーの運用ルールが2023年から大きく変わったことです。
以前はセーフティカーが入るタイミングや場所によっては、追いつけない決定的な差がつくことが多かったのですが、現状の運用ルールではリスタート前に一つの隊列にまとめられます。1周近い差をつけられかけていたマシンが隊列の後ろにつくことで同一周回を維持し、首位との差をラッキーにも詰めることができるのです。
トップのチームには入って欲しくないセーフティカーですが、レース中に何度かセーフティカーが入ることで、ラップダウンにされていない限り、最後まで追い上げるチャンスがあるということです。24時間全力でミスなく、ロスなく走らない限り、優勝はありません。逆にいうと少しずつ差を広げられていても最後に逆転する可能性も残されているという状況です。もはや一瞬たりとも気が抜けない、違う意味で過酷な24時間レースになっているのです。劣勢であっても逆転するチャンスはゼロではない。そのためにはミスとロスを極力減らすこと。壊れないのは当たり前。自分がレースする立場だったら、精神的にキッツイですね(泣)。それが今のル・マンです。
文:辻野ヒロシ
辻野 ヒロシ
1976年 鈴鹿市出身。アメリカ留学後、ラジオDJとして2002年より京都、大阪、名古屋などで活動。並行して2004年から鈴鹿サーキットで場内実況のレースアナウンサーに。
以後、テレビ中継のアナウンサーやリポーターとしても活動し、現在は鈴鹿サーキットの7割以上のレースイベントで実況、MCを行う。ジャーナリストとしてもWEB媒体を中心に執筆。海外のF1グランプリやマカオF3など海外取材も行っている。
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