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モーター スポーツ コラム 2024年8月16日

松下信治選手(No.8 ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GT #8)「最悪バトルになったとしても絶対に負けないと思っていた」 | SUPER GT 2024 第4戦 富士【SUPERGT あの瞬間】

SUPER GT あの瞬間 by 島村 元子
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表彰台でトロフィーを掲げる野尻選手と松下選手(右)

表彰台でトロフィーを掲げる野尻選手と松下選手(右)

「あのとき、何があったの?」__ レースウィークの出来事、ドライバーに話してもらいたいと思いませんか? タフなレースを終えたドライバーに改めて話を聞く「SUPER GT あの瞬間」。2024年シーズンもレースの舞台裏に着目し、ドライバーの気持ちをコラムでお伝えします!

Honda勢が今シーズンから投入したCIVIC TYPE R-GT。どのチームも初優勝を目指してしのぎを削るなか、ついにNo. 8 ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GT #8が勝利を手にした。しかも、ポール・トゥ・ウィンという最高の形で! 今シーズン、チームを移籍し、旧知のドライバーとコンビを組んで掴んだ勝利を松下信治選手に振り返ってもらう。

── 今シーズンから投入されたシビックで初勝利。ホンダ勢のドライバーならば誰もが真っ先に勝ちたいと思うなかでの優勝でした。改めて今のお気持ち聞かせてください。

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松下信治(以下、松下):まずはホッとしたというのが一番です。第2戦(富士)、第3戦(鈴鹿)……まぁ第1戦(岡山)もそうですが、速さ自体は少し見せられていたものの、それを結果に繋げることができず、今回やっとそれができたかなというところで、すごくホッとしました。

── レース後は、コンビを組む野尻智紀選手ともどもホッとした気持ちとうれしさが入り混じったように見受けられました。

松下:(野尻智紀と)コンビを組んでまだちょっとしか経っていないですが、できることをできていなかったというのが一番悔しいところだったんで……。そう思うと(優勝は)本当にうれしかったですよね。また、8号車に関して言えば結構苦戦してる時間もあり、トラブルも続いたので、チームとしてもやっと結果をデリバリーできたという安堵感が大きいと思います。

── 前回の鈴鹿戦から約2ヶ月のインターバルがありました。レースに向けて、チームではどんな準備をしましたか?

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松下信治選手「最悪バトルになったとしても絶対に負けないと思っていた」 | SUPER GT 2024 第4戦 富士【 #SUPERGT あの瞬間】

松下:2か月もあったので、僕らは細かいミーティングを結構入念に時間をかけてやったんです。クルマのセットアップなどの話ですが、そういうことを定期的にやっていました。だから、常に気持ちがレースにリンクした状態だったという感じです。2ヶ月何もしないと忘れちゃったりするんですけど(笑)、そういう状態ではなく、チームと一緒にやれたのが良かったですね。

── 今大会、朝の公式練習は5番手。前には3台のシビックがいるなどシビック優勢の状態で幕が上がりました。予選でポールポジションを獲るために、どういう対策を立てましたか?

松下:まず、フリー走行(公式練習)で思ったよりも戦力というか、セットアップがしっかり決まっていなかったんで、予選に向けてまた大きなセット変更をしました。ただ、うちの強みは、なんて言えばいいのかなぁ……ギャンブルというのではなくて、今まで1回やったことがあるような、そういう実績があるセットアップに変更ができることなんです。テストのときに1番時計を目指すのではなく、データ取りを重視しているからこそできると思うんですが、そういう“引き出し”があったので、予選に向けてそれができる状態でした。それが良かったのかなと思います。

── Q1は松下選手が担当。今回はどのように順番を決めたのですか?

松下:(GT500クラスの)専有走行を走れるか走れないかっていうのが結構大きくて。前回の富士(第2戦)で僕の予選がちょっとうまくいかなかったんで、その分の補習をするという意味で、僕が専有走行を走らせてもらったんです。専有走行ではクリアな状態で走れるので、そのままニュータイヤでアタックしに行くっていう感じとなり、今回は僕がQ1をやりました。

── バトンをQ2の野尻選手に繋ぎ、結果的に合算タイムでボールポジションを獲得。松下選手は、今回が初ポールだったのですね。

松下:そうです。これまで、(他チーム在籍中の予選で)2位とかいっぱいあったんですが、そのときはタイヤメーカーが結構いて……。“これ、俺がポールだろう!?” とか思ったことも何回かあったんですが(獲れなかった)……。一方、今季からはブリヂストン(タイヤ)さん(を装着するチーム)が多くなって……やっと(ポールポジションを)獲れました。

── 結果的に最高の舞台が整いました。予選で弾みがついたので、チームも気合が入ったと思います。決勝に向け、チームの雰囲気はどうでしたか?

松下:緊張感はあんまりなかったように感じます。普通っていう感じでした。ただ、(過去のレースでは決勝で)トラブルが起きてたので、チームメカとかはだいぶ緊張してたと思います。(ミスがあったこれまでのレースを経て)“三度目の正直”(のチャンス)だったので、そういう意味でチームスタッフの気持ちを察してあげたいとも思いましたね。

── シビックでどのチームよりも早く優勝を! という気持ちがあると、松下選手自身は、いつも以上に構えたりプレッシャーを感じずに決勝を迎えることはできたんでしょうか?

松下:全然、構えもしなくて。(野尻)智紀がファーストスティントを行って……ということだったので、もう全然、なんていうんですか安心というか……。(Q2でトップタイムだった野尻が)予選で一番速いし。タイヤとかレースに向けては相性が結構大事ですが、そこもあんまり心配ないタイヤを使ってたので、大丈夫だろうと思ってました。

── というと、野尻選手がQ2を担当した流れでスタートも……ということですか?

松下:うちのチームは(スタートドライバーが)決まってなくて、その場に応じてベストなスティント配分をするんです。今回はポールからスタートだったので、別にスタートでがんばる必要もなかったですし。僕、今までスタートが結構多かったんです。スタートで暴れて抜いてくる、みたいな(笑)。今回はそういう必要がないですし、今回は逆に智紀の方がペースがあったので、ピットストップまでの間にギャップを築くことで、仮にピットで何かしらミスがあったとしても、多少のミスは許されるぐらいまでのマージンがあれば、レースもだいぶラクになるということだったので、こういう選択になりました。

── ここで話が少しレースから逸れますが、旧知の野尻選手のことについてお伺いしたいと思います。まず、初めての出会いはいつですか?

マシンから降りて野尻選手と歓喜する松下選手

マシンから降りて野尻選手と歓喜する松下選手

松下:初めて会ったのを覚えてないぐらい前です。僕、4歳ぐらいでカートを始めたんですが、“クイック羽生”っていう埼玉のカートコースで始めたんです。そこで前から走ってたのが、智紀だったんです。年齢で言うと多分4つぐらい違って……僕のきょうだいの長女が智紀と同い年なんです。(野尻が)上のクラスで走ってたんで、子供のときは4つも年上だと“お兄ちゃん”って感じなんですが、なんか智紀に関しては“お兄ちゃん”じゃなくて、同じような目線で(レースを)やってたんですよね。で、その延長線で今まで来てしまってて。普通、成人して4つも(年齢が)違ったら、“先輩・後輩”みたいになるとは思うんですけど、そういうのはあんまり僕は好きじゃなくて。僕の好き嫌いで決めちゃいいことではないと思うんですが、智紀もそれを受け入れてくれてるんで。結構フランクに友人みたいな感じでやってくれてるっていう感じですね。

── フランクな付き合いということですが、 松下選手にとって野尻選手はどういう人ですか?

松下:“いい人”ですね。人として素晴らしいと思います、本当に。レーシングドライバーのイメージって、結構アグレッシブだったりとか……スピーディ(機敏)なイメージがあると思うんですけど、そういう意味で言うとまったく逆ですね。せかせかしないし、ドンと構えてるという感じですかね。やっぱり器がデカいんでしょうね。だから、僕がこんな感じでいても全然それも気にならないんだろうし。まぁ勝手に俺が言ってるだけですけど、そうなんじゃないかなと予想してます。僕と仲がいい人って、基本的にみんな器が大きい人だと思っているので(笑)。

── 知り合って四半世紀、レースをする上でのメリットはたくさんあると思います。コンビを組んで4戦終わりましたが、逆にデメリットはありましたか?

松下:デメリットというか、やりづらさはないですね。もう何年も智紀がこのチームにいて、(関係を)構築していて……。智紀はエンジニアともSF(スーパーフォーミュラ)でペアを組んでると思うので、そういう意味でも本当に助かっています。新規加入したりすると、チームによっては、まずは“お前がついてこい”、“こっちに合わせろ”みたいな感じの雰囲気があると思うんですが、まったくそれがない。それは多分、智紀が僕にそういう環境を与えようと、チームに対してもそういう風な姿勢でいてくれてるんじゃないかなと勝手に想像しています。

── さて、決勝レース。序盤からリードを築く形でドライバー交代を迎えました。接戦での交代と比べ、ドライバー心理も違ってくるものですか?

松下:(交代時のギャップは)6〜7秒だったと思うんですが、例えば(2位と)2秒差とか1秒差とかだったらひとつのミスもできないし、アウトラップのペースもやっぱり限界以上にリスクを犯さないといけないので、すべてにもう余裕がなくなってきますよね。正確な数字は覚えてないんですけど、今回は(2位との差が)5秒以上あったっていうことだったんで、アウトラップでは“イージー(落ち着いた)”な気持ちで、“よっしゃ、行くか!”みたいな感じでした。(野尻には)すごくありがたいギャップを作ってもらったなと思います。

── レース終盤に向かうなか、2位の100号車との差が縮まり、時には1秒を切るような状況になりました。これには何か理由があったのですか?

松下:やっぱり50度近くの路面温度で走ると、タイヤが最後まで持つかっていうことが本当にずっと心配事でした。どのチーム、どのドライバーもそうだと思うんですけど。そういう部分で、(前半スティントで)7秒近くギャップを築いてもらったので、最初は“タイヤセーブ”でずっと走ったんです。そしたら、もう数周のうちに100号車がすぐうしろに来ちゃった。なので、自分が思っていたペースよりもペースを上げなきゃいけなかったというか……。(ペースを)徐々に上げていくつもりが、意外と早めに上げないといけなかった。予想外にペースのいい100号車に追い立てられたという感じでしたね。

── ペースアップし、再び100号車とのギャップを築いて優勝に向かうわけですが、勝利の確信はどのあたりからありましたか?

松下:もう最初から……もし最悪バトルになったとしても絶対に負けないって思ってました。“今回勝つのは8号車だな”ということを、本当に思ってました。クルマの出来も良かったですしね。そういう意味では、迫られたとき含め、全然落ち着いてレースができたかなと思います。

── では、“ファイナルラップだ”と身構えることもなくチェッカーを受け、“やっと勝てた”という受け止め方でしたか?

松下:なので、チェッカーまでは、ガス欠や(クルマのどこかが)壊れることなどそっちの心配だけでした(苦笑)。メカには失礼な話ですが、やっぱり2回、3回と(レース中にトラブルが)起きてるので、もう1回起きるんじゃないかと思ってしまって……。だから、最終ラップもめちゃくちゃゆっくり走って、“ほんと、大丈夫か?”みたいな……ちょっとそういう気持ちにやっぱりなりましたね。

── チームとは、無線でやり取りはしてたのですか?

No. 8 ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GT #8

No. 8 ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GT #8

松下:“ほんとに大丈夫?”みたいな話の無線をして確認しました。“大丈夫だよ”ってチームが言ってくれてたので、“じゃあ大丈夫か”みたいな。でも、やっぱり最後はちょっとゆっくりと走って……いやもう本当に“トラウマレベル”なんで……(苦笑)。最終ラップはそんなストレスがちょっとありました。

── そういう気持ちであれば、トップでチェッカーフラッグを受けても、“やった!”ではなく、“ようやく終わった”、“やっと勝てた”という感じでしたか?

松下:そう、なんか安堵感みたいな……ほんとそのほうが大きかったですね。

── (レース後に車両を停める)パルクフェルメでは、どんな気持ちになりましたか?

松下:勝てるのはわかっていたので、やっと勝てたなという感じでした。勝った瞬間、同時にもう次の鈴鹿(第5戦)のことが頭によぎっていたんです。個人的には、勝ったあとは次、早く勝つっていうのがすごく大事だと思っていて。このチーム、そして智紀という、僕らのこういう(レースへの)姿勢があれば、次の優勝も可能だと信じているので、早くそれを実現したいなっていう……もう早い段階で、そういう風に(気持ちが)切り替わってましたね、

── 今回の優勝でついにシビックが初優勝を達成。関係者はもちろん、称賛の声がたくさんあったのではないですか?

松下:そうですね。チームがすごく喜んでくれました。8号車に関して言えば、僕が(昨年第6戦)SUGOで優勝(Astemo NSX-GT)したときに(再車検で)失格になったんですが、そのとき(8号車が)繰り上げで優勝したと思うんです。それもあって、多分初めて正真正銘……クリーンなレースでの勝利っていう形が今回だったので、多分喜んでくれてたと思います。逆に、僕自身は再車検がトラウマなんで、勝っても車検が終わるまでは、なんか(優勝して)“やったー!”みたいな感じではなかったっていう感じですかね。

── さて、次の鈴鹿戦ではサクセスウェイトが52kgになります。8号車としてはどのようなレースにしていきたいですか?

松下:この前の鈴鹿は、予選もレースも調子は良かったんです(最終的にトラブルに見舞われた)。なので、多少“燃リス”(燃料流量リストリクター調整)と(サクセスウェイトの)重さが加わりますが、自分たちより重い人たちも多いですしね。特に(ランキングトップの)36号車との差が今すごく大きいので、ポイント的にやっぱりもう一度鈴鹿で表彰台に乗らないと追いつけないと思っています。(鈴鹿は)それが多分出来るサーキットじゃないかなと期待しているので、早速準備に取りかかってるところです。

── では、最後に。今一番興味・関心のあることは何か、教えてください。

松下:特にはないんですけど、最近、カートのレースとか出ていて……。やっぱりヘルメットを被ってレースをするので、一応カートでもそれなりに緊張感があるんです。そういうなかに自分を置くっていうのがすごくいいことだなって、最近ハマっています。ハマっているというか、昔からやっていたことですが、特に力を入れてカートのレースにも参戦したり、それ以外にトレーニングも。やっぱり当たり前のことをちゃんとしっかりやるっていうのが大事だなって、改めて最近思っています。

文:島村元子

島村元子

島村 元子

日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。

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