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モーター スポーツ コラム 2024年7月25日

東大生レーシングドライバー「新原光太郎選手」の秘密に迫る

モータースポーツコラム by 島村 元子
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東大生レーシングドライバー新原光太郎選手の秘密に迫る!

東大生レーシングドライバー新原光太郎選手の秘密に迫る!

SUPER GTのイベントで併催されているFIA−F4選手権。トップドライバーを目指す若手ドライバーがチャレンジするカテゴリーとして知られるフォーミュラレースだ。ここから巣立ったドライバーは日本国内に留まらず、F1やWEC(世界耐久選手権)など世界を舞台とする戦いに挑んでおり、そのチャンスを自らも掴もうと夢を追いかけるドライバーたちが毎戦切磋琢磨してしのぎを削っている。

今シーズン、2年ぶりのフル参戦でチャンピオンを目指す新原光太郎選手もそのひとり。現在、東京大学の理科一類2年生でありながら、F4に参戦し、さらにはHRS Suzuka(ホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿)も受講中という。日々、どのようにキャンパスライフとモータースポーツ活動を両立させているのか、エネルギッシュな新原選手をクローズアップする。

5歳で始めたカート。親からの反対はなかった

── モータースポーツとの出会いは5歳とのこと。

新原光太郎(以下、新原):父がクルマ好きで、僕は小さい頃から父のクルマ好きに影響されながら育ちました。父の知り合いにカートコースを経営している方がいるのですが、5歳のときにそこでレンタルカートに乗せてもらい、そのときに面白いと興味を惹かれてやり始めました。

── 週末はカート三昧だったのですか?

紫色のレーシングスーツを着て表彰台の真ん中に立つ新原選手(写真:本人提供)

紫色のレーシングスーツを着て表彰台の真ん中に立つ新原選手(写真:本人提供)

新原:平日は学校の友達と公園で遊んだり、もしくはくもん(公文式)とか塾に行ったりしてたんですけど、土・日、祝日は一日中カートコースに入りびたったりして、ずっとカートに乗ってました。

── カートに夢中になるなか、ご両親は何も言われなかったのでしょうか?

新原:反対は一度もされたことがなくて。父は、本当にやるからにはとことんやるというか、最後までやり切るというスタイルの人。僕と同じぐらいか、それ以上のやる気をずっと持ち続けていました。

── 勉強せずに、カートだけやりたいと駄々をこねたことは?

新原:最初は「勉強しなさい」と言われてたことも記憶にはあるんですが、なんていうかそれ(勉強とカートの両立)が当たり前の生活だったので、あんまり不満を言うことはなかったですね。勉強が特段好きだったというわけではないんですけど、平日は勉強をして、土・日はレースをして遊ぶ……みたいな、そういうサイクルができてたんです。特に苦ではなく、楽しくできてました。

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東大生レーシングドライバー「新原光太郎選手」の秘密に迫る

── そのなかで、有名進学校として知られる灘中学校に入学。学校とカート、そして受験のための進学塾とそれぞれどうやってバランスを取っていたのですか?

新原:まず、レーシングカートは毎日できるものではなくて、サッカーみたいに毎晩毎晩ずっと練習し続けることができないスポーツだったので、完全に“日常生活とカート”という形で分けることができていたのが、一番良かったんじゃないかなと思います。カートに行くときはもうカートに集中する。カートに行かないときはカート以外のことに時間を割けるので、そこで結構勉強に時間を割いていた感じです。

── 進学後は学校で運動部に所属したそうですね。その理由は?

新原:中学校1年生から高校3年生までの6年間、ずっとラグビー部でした。理由は、小学校の頃、結構身体が細くて。で、レースでも体力的にいっぱいいっぱいというか結構しんどい面があったので、トレーニングをたくさんしたいなっていう意味も込めて、ラグビー部に入りました。それと、新しいスポーツをやってみたいなっていうこともありました。小学校まではまったくラグビーはしたことがなく、小さい頃は、野球とかサッカーを公園とか地元の団体みたいなところでやらせてもらっていたので、新しいスポーツを始めようと思ってラグビーにしました。

── 他の学生の皆さんは週末も勉強に時間を割くような進学校に通うなか、新原選手は、相変わらず週末はサーキット通い。高校も灘でしたが、勉強の面で時間を確保することの難しさや葛藤はなかったのでしょうか?

新原:中学、高校が私立だったので、勉強の出席面で言うと、スポーツに力を入れることに対して結構理解をしていただき、出席日数で学校から詰められるということもなかったのですが、勉強内容の進度では別に配慮はなかったですね。そういう面では、レースに行って帰ってきたら、(授業で)全然違う範囲をやってるっていうのはよくあったので、そこが一番しんどかったです。でも進度での焦りは感じなかったですね。レースから帰ってきて、学校のことに集中して時間を割けば結構追いつけていたので、そこに対しての焦りはなかったし、勉強面で特に遅れてしまって「もう諦めよう」って投げたことはあまりないです。やるって決めたことを途中で曲げないっていうのは、他の人より強いかもしれないですね。「勉強もやる」と最初から父親から教えられて育ったので、なんかそれが当たり前のようなことになったのが一番大きいと思います。

“二兎を追うもの”立場として

── 世間では、“二兎を追うものは一兎をも得ず”などと言いますが、新原選手のなかでは、これが“当たり前”だったようですね。

新原:いいえ。僕自身も両立するのが難しくて、レースを息抜きにして勉強をがんばるっていうのはがんばれるんですけど、問題なのが、レースウィークから帰ってきた後、それまでずっと勉強する習慣がついてたものがレースウィークですべて飛んでいくことでした。レースから帰ってきて、もう一回勉強する習慣を作るというかもう一回勉強(するモード)に入るということが一番大変でしたね。

── 今も学業とレースの両立を続けており、まだ道半ばだと思いますが、両立をがんばって続けてきたからこそ得られたメリットはなんだと思いますか?

新原:勉強とかそういうことに関してだけじゃなくて、切り替えがうまくなったんじゃないかなと思います。レースから帰ってきて勉強にシフトするタイミングとかであったり、勉強をしたいときに、完全に一気に切り替えができるっていうのは、一番大きなメリットじゃないかなと思います。

── どうやら、多くの人たちが過ごすであろう“ぐうたらな時間”は、新原選手の中にはないようですね。

新原:いやいやいや(苦笑)。僕もそういう時間が結構あるタイプだったので、そういう時間をなるべく削ろうというか、やり方をいろいろ考えたりしながら、やりくりができるようになったことが一番大きかったと思います。

── 2023年には、現役で東京大学に入学。その年は、ホンダ・レーシングスクール(HRS)に入校しました。そして今年はFIA−F4とHRSの両方に参加しています。その理由は?

新原:僕自身は去年のHONDAのスクール(HRS)を受けていて、去年はもうなんていうか、本当に人生をかけて決める(スカラシップを獲る)つもりで行ったんですけど、ギリギリ届かず敗退してしまって。で、今年も挑戦する機会をホンダからいただきました。 それでスクールに今年も挑戦することを決めたんです。一方、今年からFIA−F4(の車両)が変わったので、もし今年(F4に)乗ってなかったら、来年以降、不利になるだろうなっていう気持ちが強かった。そこにチーム(HYDRANGEA Kageyama Racing)の方にお声をかけていただいたのが決め手になりました。

── では、今年こそHRSでスカラシップを獲るとことに目標を置いているのですね。

新原:はい、そうです。今、一番の目標としては、HONDAのスカラシップを獲って、ワークス系のチームの中にどんどん入っていくことです。そのためにF4でも成績を残さないと上には上がれないので、大事なことが両方に分かれてるかなと思います。

── レースは週末、一方でHRSは平日に開催。大学の授業に影響はないのですか? どう対処しているのでしょうか?

新原:HONDAのスクールが毎回平日にあるんです。また、レースウィークも水曜移動で木、金……となるので、ほんと平日にレースが被ることが多くて、単位の出席日数も結構危ないものがあったりしたんですけども、今のところは、出席日数でひとつかふたつ落とした程度で済んでるので、それを受け直しているという形です。試験前に結構詰め込んで、どうにか帳尻を合わせてる感じはありますね。試験でどうにかなるものだったらいいんですけど、出席日数がある授業だと、僕だけではどうしようもないことなので……。

── 教授に直談判、みたいなのでもダメですか?

新原:毎回、学期が始まるごとに、初めに教授全員にメールを送るところから始まります。了承を得られる先生と得られない先生がいるので、得られない先生の授業は、もう単位がダメ(取れない)という感じです。こういうレースに参戦してがんばっている、という資料を作ってお願いはしてみるんですけども、それでダメな時はもう諦めてますね(苦笑)。

── 今、“学業とスポーツ”のように、やりたいことを両立させて挑戦してる人が増えています。一方、これからそういうことをやりたいと考えてる人たちもいると思うのですが、新原選手からそういう人たちに向けて、何かメッセージとして伝えられることはありますか?

新原:僕は、“メインはレース”と思ってずっと生きてきました。そのなかで、勉強は自分のできる範囲でがんばった結果なので、やっぱり自分のしたいことを第一に優先にするのが一番大事なんじゃないかなと思います。勉強の方もできる範囲でががんばって、運良く合格はできましたが、まず、レースを第一に本当に力を入れてがんばって、残りの力は勉強に割くという形でした。やっぱりレースに時間をうまう割けていないと後で後悔すると思っていたので。なので、そういう人たち(両立を目指す人たち)には、まずスポーツをやりたいのなら、そちらを第一にがんばってほしいなと思います。

── 一方、学業での目標は?

新原:レースをしてるのは、クルマに乗ってるのが好き、速いクルマに乗るのも好き、そして、コースを走ってるのが好きというスポーツ選手として魅力を感じているのから。レースではスポーツ選手を目指しているのですが、勉強面では、生計を立てるために勉強してるというか、生活していくためにスポーツ選手とは別のキャリアを積みたいなと思っています。父が経営者ということもあり、最近は経営に結構興味があって、簿記や公認会計士、そういう勉強に興味がありますね。最終目標は経営者、という目標があるんです。ただ、そんな簡単にうまくいくと思ってないので、コンサル業とか学歴をうまく使った仕事をして、何年か実績を積んで経営者をしたいなとは思ってます。

理系(理科一類)に入ったのは、小学校のときから理系科目がずっと得意だから。逆に、文系科目があんまり得意じゃなかったので理系に入ったんです。でも、将来は研究者になりたいかと言われると、そういう職業はあまり目指してなくて。どちらかと言えば、経営者とかそういうことに興味があるので、“文転”(理系から文系課程の専攻に変更)をしようかなと考えてます。東大のシステムが結構他の大学とは違い、3年生から学部を決めるシステムなんです。僕はまだ理学部でも工学部でもなくて、ただ“理一”(理科一類)なんです。だから、今から経済学部に行くことも可能なので、そこを考えてます。留年してなければ(笑)、3年生で学部が決まり、振り分けられるので、違う学部になってると思います。

──では、もうひとつのモータースポーツにおける、この先の具体的なビジョンは?

新原:今、HONDAのスクールを受けているので、そのHONDAのスクールの結果がどう出るか次第です。本当に、今、枝別れの根元にいる状態です。ほんとに先がいろいろ分かれてて、上に登り詰めたいっていう気持ちはあるんですけど、どこの上を目指すかがまだ決まってない状況なので、なんとも言えないですね。

手応えを掴んだF4。目指すは表彰台の真ん中

── 直近のレースであるFIA−F4鈴鹿の第3戦では、予選4番手から激しいバトルを制して3位入賞。初めて表彰台に上がりました。スタートダッシュが成功した形ですが、もともと得意なのですか?

第3戦鈴鹿でF4初表彰台を獲得(写真:本人提供)

第3戦鈴鹿でF4初表彰台を獲得(写真:本人提供)

新原:最近だんだんと上達してきて、まだ人並みにできるかなぐらいのレベルだとは思うんですけど。ただ、(スタートに)大きな自信を持ってるかと言われると、まだそこまでは(苦笑)。

── チームにとっても久々の表彰台だったそうですね。

新原:チームの皆さんの方が僕より喜んでくださって、本当に嬉しかったです。

── 一方、開幕戦の富士ではポールポジションを獲得。自身で成長、手応えみたいものを感じたのではないですか?

新原:はい。スタートが前よりも確実にはうまくなっていると思います。今年のF4は結構スタートが難しくてミスしやすくなってるクラッチとエンジンなのですが、ミスをせずに普通のスタートを切れば、ちょっとミスした人を抜けるっていう感じですかね。

── チームマネージャーからは、“東大生”のイメージとはかけ離れていると伺いました。いわゆる“インテリ、ガリ勉”みたいな感じはしないとおっしゃっていましたが、チームの皆さんとどのようなお付き合いができていますか?

新原:チームの方とは結構仲良くしていただいています。チームテントにはいろんなスポンサーの方も来てくださるし、本当にチーム全体で仲良く楽しくやれてるなっていう感覚ですね。

── 監督の影山正彦さんはフォーミュラはじめキャリア豊富なドライバーであり、今なおレースに出ておられる大先輩。新原選手にとってどんな存在ですか?

新原:過去の戦績というか、レース自体も見たことがあります。レース後は、ご挨拶をかねてGTチームのピットに伺って、いろいろと教えていただいてます。影山正彦選手という憧れの選手のもとでレースでき、環境としてはまったく不服もないし、相手のチームと比べて遜色ない状態でできているなとは感じています。

── F4における今年の目標は?

新原:まず、F4自体の目標で言うと、初優勝を目指しつつ、年間ではシリーズチャンピオンを戦える位置にずっといれたらなとは思っています。

── 5歳でカートを始め、もう15年近く。プロドライバーを目指す新原選手の心の支えになっているものは何なのでしょうか?

新原:僕自身、クルマに乗るのが大好きなんです。本当にカートを始めた理由もクルマ……カートに乗るのが大好きっていう理由で始めたので、やっぱり好きというその気持ちが一番大きいんじゃないかなと思います。

文:島村元子

島村元子

島村 元子

日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。

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