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太田格之進(左)と村岡潔監督(右)。
三つ巴のチャンピオン争いで大盛り上がった2023全日本スーパーフォーミュラ選手権の第9戦鈴鹿。日本最速の座をかけ、スタートからゴールまで緊迫した戦いが繰り広げられた1戦は宮田莉朋(VANTELIN TEAM TIOM’S)の初タイトル獲得で幕を閉じた。
ただ、このレースでは“もう1人のヒーロー”も誕生していたことは、多くの方もご存知だろう。ルーキーイヤーの最終戦で初優勝を成し遂げ、鈴鹿大会ではチャンピオン争いのキーパーソンにもなっていた太田格之進(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)だ。
有言実行となった“最終戦で優勝”
スーパーフォーミュラ最終戦。
2022年にスーパーフォーミュラ・ライツでランキング2位を獲得し、翌2023年に国内トップフォーミュラにステップアップ。同時にSUPER GTのGT500クラス参戦も決まり、周囲からの注目度が一層高まるなか、思わぬ事態に見舞われる。太田は、3月初旬に鈴鹿サーキットで行われたSUPER GTのメーカーテスト中、130Rで大クラッシュを喫して負傷。その後に予定されていたスーパーフォーミュラのプレシーズン公式テストを休まざるをえなかった。
スーパーフォーミュラでは、この年からシーズン前のテストが鈴鹿での1回のみとなった。それにより太田は新しく導入されたSF23の車両を経験できないまま、開幕大会を迎えることに。さらに金曜日に予定されていたフリー走行も悪天候でキャンセルとなり、彼にとってSF23初走行が第1戦の公式予選という“ぶっつけ本番”というところからデビューシーズンが始まった。
やはり事前にテストに参加できていなかった影響は少なくなく、前半戦の太田は後方に沈んだ。波乱の展開となった開幕戦は予選17位、決勝15位で終えるも、第2戦富士・第3戦鈴鹿では予選Q1でトラックリミット(走路外走行)を取られ、決勝もポイント圏外でフィニッシュ。毎回レース後に行われる囲み取材「メディアミックスゾーン」では、いつも元気のない太田の姿があった。
「やっぱりダンディライアンって、常に上位にいるイメージが強いと思いますが、前半戦は下位に沈むことが多かったです。それでも(チームメイトの牧野)任祐が引っ張ってくれていたし、僕がQ1敗退して後ろの方を走っているときもある時も、任祐は表彰台に上がったりして、チームの士気は彼がキープしてくれていたっていうところもありました」
「(結果が出ないことに対して)僕自身も悔しかったし、6号車担当のエンジニアやメカニックのみんなに対しても、すごく悔しい思いをさせてしまっていました。常に上位を走っているイメージが強いチームなのに、そのクルマで走る自分が後方で戦っている……そこはプレッシャーになっていました」
レース数を重ねるごとにテンションが下がっていくような雰囲気もあった太田だが、「今はこんな感じですけど、後半戦で調子を上げて最後は勝つんで……見ていてください!」と、この時から毎回のようにコメントをしていた。逆に、それで自らを鼓舞しているようにも感じられた。
そんな中、太田だけでなくチームにとっても転機となったのが、6月下旬に富士スピードウェイで行われた公式テスト。怪我により開幕前のテストを休むことになった太田にとって、初めてSF23の車両で色々なことを試せるチャンスとなり、チームも前半戦で苦戦した原因を究明する絶好の機会となった。
「シーズン前半で積み上げてきたことに対して、シーズン途中のテストで『答え合わせ』ができました。あとはドライバーとしても『もっとこういうふうにやっていきたい』という打診をして、それに対してチームが応えてくれて、色々な準備をしてくれました」
この結果、第6戦富士の予選では、前半戦の不振が嘘だったかのような走りを披露し、3番グリッドを獲得。決勝ではポジションを落とすも6位に入って、スーパーフォーミュラ初入賞を飾った。
第6戦富士の予選後会見で笑顔がこぼれた太田格之進。
もちろん、目指すところは優勝であるため、本人は心の底から喜んでいる様子はなかった。それでも調子を上げていくきっかけになったのは確かなようで、続く第7戦もてぎで自身最上位の2番グリッドを獲得すると、最終大会の1レース目である第8戦鈴鹿で途中終了という形ではあるものの3位初表彰台を獲得。トップ奪取は目の前というところまで迫っていた。
そして、2023シーズンの最終戦である第9戦。予選ではシーズン2度目となる2番グリッドを獲得するも「ポールポジションを獲れたと思った」と記者会見では終始悔しそうな表情をみせた。決勝では、そのリベンジを果たすようなスタートダッシュを決め、リアム・ローソン(TEAM MUGEN)を逆転。そのままレースをリードしていき、見事スーパーフォーミュラ初優勝を果たした。
「前半戦のSUGO大会までノーポイントで、後半の富士・もてぎ・鈴鹿2連戦で35.5ポイントを稼いで、ランキングも7位まで上がれました。予選のパフォーマンスに関しては速さを見せられたし、決勝に関しても最後の最後で強さを見せられました。前半戦とは比べ物にならない感じで、正直、こんなシーズンの終わり方ができるとは思っていなかったです」
【涙に込められた“10年ぶりの悲願達成”への想い】
初優勝後喜びを爆発させた太田格之進。
先述でも触れた通り「最後には絶対勝つ」と言い続けてきた太田。そこには“6号車で勝ちたい”という想いが、大きな原動力となっていた。
太田が乗る6号車の担当エンジニアであり、現在はチーム監督も兼任する吉田則光がメインで携わる車両がスーパーフォーミュラで勝利するのは、実に10年ぶり(2013年開幕戦鈴鹿での伊沢拓也以来)だった。
「やっぱり、何年ぶりの勝利とか、初めての快挙とか……そういうシチュエーションは、ドライバーとして燃えるところがあります。だから、10年ぶりの勝利というのは、ずっと狙っていました」
ダンディライアンは、過去に何度も優勝を経験しているチームではあるのだが、直近でみると2019・2020年の山本尚貴や2021年の福住仁嶺は、いずれも5号車での勝利だった。
「やっぱり今まで優勝やチャンピオンを獲って、フィーチャーされることが多かったのは5号車の方でした。だからと言って、僕は6号車が劣っているとは思っていなかったです」
「その中で、6号車を担当しているメカニックの皆さんも、隣(5号車)がチャンピオンや優勝を飾っているのを見て、悔しい思いをしている部分あったと思うんですよ。そういう点で、やっぱり勝ちたいっていう気持ちはすごく大きかったですね」
そう語る太田。実はシーズンの最初に吉田エンジニアと「10年ぶりに勝てたら面白いよね」という話をしていたという。
「吉田さんは普段から『勝とうぜ!』という意気込みを表に出す人ではないですけど、工場に行くとクルマを調整する緻密さというかプロフェッショナルな部分を、普段からすごく感じていました。(勝ちたい想いを)表には出さないけど、裏ではしっかりとやっているんだなというのを感じられました」
初優勝のチェッカーフラッグを受けたあと、中継映像では涙ながらに感謝を伝える太田の声が印象に残っているファンも多いだろう。
実は、公式アプリ『SFgo』で公開されている交信内容の続きを聞くと、その後に太田は「吉田さん!おめでとう!」と叫んでいた。それに対し吉田エンジニアも「ありがとう!」と答えていたのだが……そのやり取りの裏には、このようなストーリーがあったのだ。
そして、太田には感謝の気持ちを伝えたい人が、もう1人いる。2023年のSUPER GTではチームメイトであり、スーパーフォーミュラではTCS NAKAJIMA RACINGの監督を務める伊沢拓也だ。
「GTでチームメイトとなる前は、伊沢さんと喋ったことがほとんどなかったんです。どちらかというとクールな人という印象だったので、2023シーズンにコンビを組むことが決まったときは『上手くやっていけるのかな?』と、正直不安もありました」
「でも、(伊沢さんは)本当にいろんなことを教えてくれました。もちろん(SFではチームが違うので)勝負に直接関わるようなコアなところは、お互いに濁して話していましたけど、ダンディライアンというチームのことや、吉田さんとどうやっていくと良いかというところをたくさん教えてくれました。それによって、僕も吉田さんとのチームワークみたいな部分も深められて、シーズンを進めることができたと思います」
スーパーフォーミュラ最終戦の翌週に行われたSUPER GTの最終戦では、レース終盤にGT300車両と接触しリタイアとなってしまった太田。その後の取材やSNSでも「最後にチェッカーまでクルマを運ぶことができず申し訳なかったです」とコメントしていた。
すでに2024年の体制が発表され、太田はAstemo REAL RACINGへの移籍が決定している。色んなことを教えてもらった大先輩とともに、最後は結果を残したいという想いが、この当時は強かったことのだろう。
太田にとっては怪我の影響で“出遅れ”が否めなかった2023シーズン。それでも、周りの人たちに助けられ、着実に成長を遂げ、最後にはスーパーフォーミュラで目標としていた結果を残した。
2024年もスーパーフォーミュラではダンディライアンの6号車でドライブすることが決まっている太田。オフシーズンの公式テストではクラッシュを喫する場面があったものの、各セッションで速さを見せていたのが印象的だった。
鈴鹿での初優勝直後に無線で、太田は「来年(2024年)は絶対チャンピオン争いをしましょう!」と力強く話していた。2023年の「最後には勝ちます!」という有言実行に続き……2024年シーズンも何かやってくれそうな予感がしている。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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