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堤優威選手(No.2 muta Racing GR86 GT)「目の前に勝ちがあったのに、掴み取れなかったのが本当に悔しい」 | SUPERGT 2023 第7戦 オートポリス【SUPER GT あの瞬間】
モータースポーツコラム by 島村 元子堤優威選手(No.2 muta Racing GR86 GT)「目の前に勝ちがあったのに、掴み取れなかったのが本当に悔しい」
レースウィークの出来事をドライバーに振り返ってもらう「SUPER GT あの瞬間」。2023年シーズンも引き続き、どんなドラマがあったのか、その心境などをコラムにしてお届けします!
第6戦SUGOでは、レース序盤に発生したマシントラブルで戦線離脱に甘んじたNo.2 muta Racing GR86 GT。第2戦、第3戦と連続2位表彰台に上がった勢いのままシーズン中盤に臨むも、欲しい結果が得られなかった。いわば“背水の陣”を敷いて迎えたオートポリスでは、予選日の全セッションでクラストップタイムをマーク。あとは、決勝のポールポジションスタートからトップチェッカーを受けるだけだったが、結果はまたしても2位に。その胸中を打ち明けてもらった堤優威選手からは、数え切れないほど“悔しい”という言葉が溢れ出た。
── 予選日は、公式練習、予選Q1、Q2すべてのセッションでクラストップに立ちました。決勝に向けてチームが用意した戦略を教えてください。
堤 優威(以下、堤):シリーズを見据えても非常に大事な一戦いうことで、クルマ的にどんどんアップデートしてきてて、乗りやすくて速いクルマになってきてるんですが、オートポリスに向かう際、やっぱり勝たなきゃいけないっていうところで、『もしかしたら裏目に出ちゃうかもしれないけど、こう(いうセッティングで)行かせてくれ)』と渡邊(信太郎)エンジニアから言われました。実際走ってみると、公式練習、予選Q1、Q2、決勝前のウォームアップまで全部トップタイムで終えるほど非常に好調で。ここでロングを想定した走行もしたんですけど、その時、埼玉さん(No.52 埼玉トヨペットGB GR Supra GT)も速かったんですが、僕らも非常に速くて。『ポール獲れてるから、決勝の450kmはセーフティカーとかなければ絶対勝てるな』と思っていました。
基本的に長いレースでは、僕らGT300規定車両は、レース中に抜くのが結構難しいクルマなので、早めに……(ルール上)5周目以降にピットインできることになってるんですけど、早めにピットに入って、(以降のスティントを)ロング、ロングという作戦をいつも採っていたんですが、オートポリスに限ってはタイヤのライフにちょっと心配なところがあったのと、ポール(ポジションスタート)だったので、大きな賭けに出なくてもいいかなというところで、基本的には3分の1ずつピットに入るセオリーどおりの作戦で走行していこうという作戦でした。
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堤優威選手(No.2 muta Racing GR86 GT)「目の前に勝ちがあったのに、掴み取れなかったのが本当に悔しい」 | #supergt 2023 第7戦【SUPER GT あの瞬間】
── 天気予報とは異なり、実際は決勝日も気温が低い一日になりました。レース中は、タイヤコントロール等のマネージメントの難しさを感じることはありましたか?
堤:日曜日の方が、気温も路温(路面温度)も高くなる予定だったんで、僕らとしては予選での路温であのタイムを出せてた(※1)ので、 決勝は路温が上がれば、さらに有利に展開が広げられると思ってたんですが、想定よりもだいぶ低い気温、なおかつ路温も全然上がらずの状態でした。オートポリスって、日本で一番タイヤに厳しいサーキットなんですが、やっぱり想定していたより低い路温だと、タイヤが温まりきらず、だけど使わなきゃいけないっていうところで、タイヤへの攻撃性が非常に高くなってしまって。結果、自分のタイヤカスが取れない症状(ピックアップ)が出てしまったんです。もうちょっと気温が高ければ、 また違った展開にはなったのかなと思うんですが、そこを含めてちょっと運がなかったかなと思います。
※1:平良が担当した予選Q1は、気温18度/路面温度25度のコンディション。約30分後に実施された予選Q2には堤が出走。気温17度/路面温度22度の中、コースレコード更新となる1分42秒016のタイムをマークし、自身初のポールポジションを手にした。一方、決勝は、気温17度/路面温度25度の下でスタート。気温はほぼ変化なかったが、路面温度は次第に5度ほど低下した。
── ピックアップの症状に見舞われた一方、52号車は1回目のピットインで給油だけ行ない、タイヤ無交換でコース復帰をしました。この戦略をどう受け止めましたか?
堤:52号車のタイヤ無交換は、無線で平良選手から聞きましたが、正直、僕らの中では(その策は)なかった。僕が第2スティントを乗ってる最中に多分タイヤがきつくなってくるんで、そうするとしわ寄せが第3スティントの最後の10周とかに来ちゃうと思うんです。それを考えても、タイヤを替えないという選択肢は元々なかった。もちろん、タイヤのパフォーマンス的にはいけるとは思うんですけど、僕らは替えた方が絶対取り分(マージン)があると思っていたので。予想外の作戦……aprさん(No.31 apr LC500h GT)もそうだと思うんですけど、無交換で行くっていうのはびっくりしましたし、無交換でもタイムが意外と速かったので、ちょっとやられたなと思いながらも頑張って走行してました。
レースでは、平良(響)選手がスタートをうまく決めてくれました。彼が第1スティントで、第2、第3が僕の予定だったんですが、彼のスティントでタイヤのピックアップの問題で(ペースが)上がらずに埼玉さんに抜かれてしまい……正直、そこが想定外だったんです。なぜかと言うと、埼玉さんとはクルマもほぼ一緒で、タイヤも同じメーカー(ブリヂストン)。使ってる(タイヤ)コンパンドも、おそらく同じ。その中で、なぜ僕らがそういうピックアップ問題に悩まされたのかなと思いつつも、想定と違いました。平良選手の無線からも、『タイヤのピックアップがきつい』『(ピックアップが)どうしても取れない』ということで、想定より早くピットインすることになりました。チームは、僕が2番手で受け継いで、ゴールまでになんとかトップを奪還できるような作戦を考えていてくれてはいたんですが……。実際に走り出すと、僕も最初の8周目ぐらいまではいいペースで走れるんですけど、そこからピックアップ問題がやっぱり生まれてきて、本来の速さを発揮できずに、操作がすごい難しい状態で。もちろん、他メーカーのタイヤに比べたら、 全然マシなレベルの範囲なんですけど、“対・埼玉”で見ると、タイムの落ち幅がすごく大きくて、そこをなんとかごまかしながら乗るのがすごい難しかった。
No.2 muta Racing GR86 GT
結果的にピックアップの症状が直らなかったので、第3スティントでは、ちょっと賭けに出て、その週(レースウィーク中)に1回も使ってないコンパウンドのタイヤを使用しました。もしかしたら遅いかもしれないけど、このままピックアップが出ると勝てないという判断をして。僕が、もう1個のタイヤを使おうって決断しました。タイムは速かったんですけど、それでもピックアップ問題が出てしまって……。“タラレバ”なんですが、平良選手の第1スティントと僕の最初の第2スティントで、埼玉さんとの距離をもうちょっとでも縮められてたり、抜かされなければ、もうちょっとラクな展開になっていたとは思うんですよね。52号車とは2回目のピットアウトを終えて、確か20秒か30秒ぐらい差があって。そこから結構な勢いで追いかけて、追いついたんですけど、追いついた頃には僕もやっぱりまたピックアップの症状が出てきて、なかなか抜くに至らず……っていう歯がゆい展開で。作戦的にも、もう目いっぱいでした。
── ライバルに先行されましたが、追い上げる中でまず31号車を抜き、ついに52号車を“ロックオン”しました。どうアプローチすれば、チャンスが巡ってくると思いましたか?
堤:(2号車と52号車は)同じ特性のクルマなので、速いところが基本一緒なんですよ。また、ダウンフォースというか、空力を使ってる部分もあるので、前にクルマがいると空力が抜けて……アンダーステアになって曲がらなかったりして、またさらに自分のクルマのポテンシャルを発揮できないことになってしまうんです。周回遅れだったり、GT500クラス車両が絡んで、なんとかうまくツキが生まれないかなとずっと思ってました。攻め続けながらプレッシャーも与えながら、なんか他の要因を常に伺ってましたね。もう、それしかなかったです。基本的に、(52号車を)抜くまでの速度差が生まれなかった。うしろに付くと、やっぱり同じ速度でしかコーナーを曲がれない。なかなか抜くに至らず、非常に歯がゆすぎる展開でした。逆にプレッシャーを与え続けながら、多分20周ぐらい吉田(広樹)さんにずっとプレッシャーを与え続けたんですけど、それでもミスをしなかった吉田さんも非常にすごいなって思いますし、ドライバー、チーム含めて、最後まで気が緩められない展開で、どっちのチームも非常に頑張ったかなって思います。
── 戦績としては、平良選手との新コンビで2位表彰台が3回。決して悪くはないけれど、“てっぺん”(優勝)が遠い。気持ちとしては複雑ですね。
堤:開幕戦の岡山と前回のSUGOは、マシントラブルで止まっちゃって。そういうところも非常にもったいない部分です。最初の2位(第2戦富士)は、平良選手が、SUPER GTに今年からレギュラー参戦というところで、GT500クラス車両の行かせ方とか、若干まだマシンにも慣れてなかったですし、(サクセスウェイトを搭載して)重い状態でのマシンの動かし方だったりとか、まだ不慣れだった状況の中、ああいう展開(※2)になってしまったんで。正直、今の平良選手だったら抜かれてないと思うんですけどね。第3戦の鈴鹿の2番では、トップがBMW(No.7 Studie BMW M4)だったんですが、赤旗が出ずに最後までレースがちゃんと続いていれば、絶対勝てたレースでした。速さは非常に示せてると思うんですけど、そういった意味では、非常にツイてない部分が多かったですね。僕自身もミスがあったり、あとチームとしてもミスがあったり……。もちろんそのミス(から学んだことを)を次に活かして、しっかりミスしないように考えてはきてるので、チームとしては強くはなってるんですが、SUPER GTで優勝するっていうのは、速さだけではないんだなと改めて思いました。ちょっと“運的要素”が大きい気がします(苦笑)。
※2:GT500クラス車両にラインを譲る中、失速。その後、後続車に逆転を許して2位に。
── 結果として、今大会はミスもなく、力を出し尽くしての2位。だからこそ余計に悔しさが大きかったと思います。気持ちの切り替えが難しかったのでは?
堤:今までの2位って、ちょっとしょうがない部分とかがあったんですけど、今回の2位に関しては、週末を通してずーっとトップできてたし、ドライバーふたりもチームも自信がありました。もうシリーズチャンピオンを考えても、勝つしかないっていうところだったし、決勝まではもう完璧なレース運びができていたし。ただ、展開がちょっと恵まれなかった。最後の僕のステントでも、目の前に1位がある状況になって、自分の力で掴み取れる可能性がずっとあったので、もうそこが非常に悔しいです。あと、(52号車と)コンマ2秒とかまで詰めた時もあったし、基本的にずっと1秒以内のバトルだったんで、もうそこで行ききれなかったことが、チームに対して非常に申し訳ないです。目の前に勝ちがあったのに、掴み取れなかったのがもう本当に悔しい。もう今までの2位とは比べ物にならないぐらい、悔しかったです。
レース終わった後は、平良選手とすごい悔しい気持ちで、正直、表彰台にも行きたくないぐらいだったんです。でも、表彰式のシャンパンファイトで(優勝した)吉田さんにめっちゃかけて……。その時ぐらいから、もう終わったことだし、抜けなかった自分たちも悪いし、まず(52号車に)抜かされちゃったことも……あれ(52号車の戦略)を防ぐというのは難しいんですけど、それを見通せなかった僕らチーム全体としての甘さが出ちゃったのかなというところもあります。非常に悔しいですけど、最終戦でポールポジションを獲って、優勝すれば……(加えて)埼玉さんがノーポイントであれば、チャンピオンになれるので。その希望がある唯一のチーム……20何チームある中で、僕らしか(逆転)チャンピオンになれる可能性がないので、そういった意味で言うと悔しかったものの、表彰式が終わった後ぐらいから、なんでこうなったかっていう原因と、次のレースはどうしたいっていうことを、もうエンジニアさんに話をしてました。その日中には(悔しさは)吹っ切れてないんですけど、(気持ちを)切り替えたという感じではありました。ただ、次の日、鈴鹿で86(ハチロク)の走行があって、それこそ平良選手とまた一緒で(笑)。朝、会った時も、『やっぱり悲しいよね』っていう話はしましたね。今でも、すごい悔しい気持ちもありますけど、ずっと引きずっててもしょうがない。最終戦に向けて、自分たちがやるべきことをしっかりやろうかなという思いにはなっています。
── チームとしては、去年は大ベテランの加藤寛規選手とコンビを組み、今年はルーキーの平良選手と新コンビを結成。その中で、自身もスキルアップする機会も多いと思います。平良選手とは普段からどういうお付き合いをしていますか?
堤:自分がエースドライバーになって後輩を迎えると、ルーキーとして何を気をつけたらいいとか、自分自身が経験した部分が非常にわかります。たとえば、予選の時は(車重が)軽いんですけど、決勝だとガソリンを満タンに積むので、その時のクルマの動かし方だったり、GT500クラス車両の行かせ方や他車を抜くタイミングだったり、そういうところは自分が経験したことなんで、平良選手に教えやすいし、改めて教えることによって自分もまた気をつけようっていう気持ちにもなります。平良選手も非常に速い選手なので、しっかり吸収してくれて、どんどん成長してるのが見ててうれしいです。
平良選手のことは、“しまんちゅクン”って呼んでるぐらい可愛がってるというか(笑)。今年、僕も(平良同様)GR86/BRZ CUPだったりスーパーフォーミュラ・ライツに参戦していて、スーパー耐久もクラスこそ別なんですけど、(SUPER GT含めて)4カテゴリーで全部ともに行動……というか一緒の現場にいるので、喋る機会がたくさんあります。スーパーフォーミュラ・ライツの方では、彼の方が(先に参戦して)先輩だったんで、平良選手が走らせ方を教えてくれたし、GR86/BRZ CUPでは、僕がタイヤの内圧とかを教えて……1回ポール獲られてちょっと悔しかったんですけど、教えあったりとか、“持ちつ持たれつ”というか、いい関係かなって思います。彼は、トヨタの期待の新星だと思うんで、彼に勝つことで僕自身も速さがあるっていうのをアピールできるかなと思います。非常にお互い負けず嫌いなんで、タイムも気にするし、本当いい関係かなと思います。プライベートでもサウナに行ったり、ご飯も行ったりします。彼は沖縄出身ということで、ゆったりしてるんですけど、非常に可愛らしいところもあったりとか、素直なんで、一緒にいて楽しいですね。
相方の平良選手と堤選手(右)
── いよいよ最終戦を迎えます、ランキングトップ52号車とは20点差。逆転王座をかけて、どう戦いますか?
堤:チャンピオンを獲るには、非常難しい立場……本当、確率で言うと1%あるのかなっていうぐらいだと思うんです。今シーズン、速さがあるのに勝てていないことが2〜3回あって、非常に悔しいシーズンなので、まずは、自分たちが全力を尽くして優勝すること。なおかつ、予選日もしっかりポールを獲れるように、この前の予選タイムで言うと、結構いいところまで行けるかなと思うので、しっかりボール(ポジション)を狙い、なおかつ優勝して、その先にシリーズチャンピオンがついてくれば非常にうれしいですね。とりあえず、あまり考えずに、もう自分たちができる最大のパフォーマンスをして、結果を求めるだけですね。
── では、最後にこの企画恒例である「24時間以内のちょっとした幸せ」を教えてください!
堤:幸せ……なんだろうなぁ。うれしいっていうか、個人的になんですけど、非常に今シーズンずっと忙しくて、SUPER GTのオートポリス戦が終わった次の日も鈴鹿に移動して、テストがあったりする中で、そのテストの次の日が休みだったんです。そこで、ゆっくり寝られたこと……たくさん寝られたんです! 僕、ほんと、睡眠大好きなんですけど、もう、朝の時間を気にせず寝られたっていうのが、僕にとって最高の幸せでしたね。朝、忙しいと……特にサーキット(に行く時)だと朝が非常に早いので、時間気にせず10時間とか寝られたので、もう非常に最高な至福の時でした。
文:島村元子
島村 元子
日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。
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