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モーター スポーツ コラム 2023年5月19日

【SUPER GT あの瞬間】名取鉄平選手(No.56 リアライズ日産メカニックチャレンジGT-R)「上位を狙える確信はあったし、すばらしいセッティングのおかげで勝てた」 | 2023 SUPER GT 第2戦 富士

SUPER GT あの瞬間 by 島村 元子
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近藤監督・JP選手と勝利を喜ぶ名取選手(左)

近藤監督・JP選手と勝利を喜ぶ名取選手(左)

レースウィークの出来事をドライバーに振り返ってもらう「SUPER GT あの瞬間」。2023年シーズンも引き続き、どんなドラマがあったのか、その心境などをコラムにしてお届けします!

今シーズン、GT300クラスのディフェンディングチャンピオンチームに招聘された名取鉄平選手。1年のブランクを経て、再びSUPER GTフル参戦に臨んでいる。富士では公式練習の時点からいい流れに沿ってメニューを消化すると、決勝もポールポジションスタートからのレースを引き継ぎ、終盤には鮮やかなオーバーテイクを披露。トップを奪還し、そのまま後続の猛追を振り切ってシーズン初優勝を遂げた。記念すべき自身初勝利を果たし、勢いに乗る名取選手に話を訊いた。

──今シーズン参戦2戦目にして自身GT300クラス初優勝。決勝は4万人を超えるお客さんが現地で観戦しましたが、表彰台から見えた景色はいかがでしたか?

名取鉄平(以下、名取):僕自身、行動制限がないゴールデンウィークの富士戦が初めてで。(レースウィーク中は)ピットを歩いていてもすごい人の数で、そのなかでレースしてすごく楽しかったのもありますし、表彰台に立って(スタンド席を)見てもすごい観客の人がいてくれて、なんかいいなと思いましたね。今年から日産系チームで活動させていただいていますが、ニッサン応援団さんの“熱量”がもう本当にすごくて……。背中を押してくれますし、表彰台に立ったときもすごい声援をいただいて。本当にうれしくて、今でも鮮明に覚えています。レースが終わったあとも、ピットロードでチームの記念撮影をしていたんですが、結構遅い時間でもニッサン応援団の人たちが待ってくれて声もかけてくださって、本当に暖かいな、いいなと思いましたね。

──正式に日産からチーム加入の発表があったのは今年2月。どのような1年にしようと思いましたか?

名取:(KONDO RACINGは2022年シリーズの)チャンピオンチームなので優勝はマストですし、(チームとして)2年連続でチャンピオンを獲りたいという気持ちもありました。また、個人的には(レースの)結果がすべてGT500のステップアップに繋がると思っています。実は、去年から日産/NISMOで活動させてもらっていますが、僕は去年一年、レースをする場所がなくて、いろいろ苦しい思いをしたんです。でも、僕のパフォーマンスが落ちないように僕のことを一生懸命考えていただいて、走れる場を提供してくださったのも日産/NISMOなので、恩返しをしたいという気持ちもあります。そういった意味も含めて、結果を出すことが一番の恩返しになると思っていたので、とりあえず一勝できたことはすごいうれしいですね。

──開幕戦では思うような結果を残せず、なんとなく重苦しい空気に包まれました。およそ2週間後に第2戦富士を迎えたわけですが、チームは短時間で気持ちを切り替えて見事な働きを見せました。その様子から何か感じたことはありましたか?

名取:(開幕戦の)岡山でレースをして、自分の中ではところどころで結構いいパフォーマンスを出していたと思っていたんです。一度は3位まで上がって。でもちょっと作戦がうまく行かず、ほぼ最後尾まで落ちたんです。そこから20台ぐらい抜いて(自身のスティントで)7位まで上がって……っていうレースをしました。最終的なリザルトは10位で終わったんですが、パフォーマンス的に“必ず勝てる”という自信がつくポジティブなものでした。あとは“ミスひとつすることなく、結果を残すだけ”っていうことをこの富士に向けてマストにしてたので、そういった意味でも本当に結果を出せて良かったなと。あとは、これを続けることでチャンピオンがついてくると思うので、今シーズンは小さなミスひとつせず、まとめることが大事かなと思います。

──迎えた富士戦は、結果的に勝つためのレースという位置づけだったわけですね!?

名取:これはエンジニアさんと話したことですが、KONDO RACINGでは(開幕戦)岡山で勝って(※1)、(サクセスウェイトが)重い状態で富士に臨むという毎年のストーリーであって……。今回、軽い状態で富士に臨むのが初めてで、逆に(セットアップをどうすべきか)わからないみたいな感じでした。そんな贅沢な悩みあるんだと思ってはいたんですが、そんななか、とりあえず(公式練習で)走ってみて、思いのほかJP(デ・オリベイラ)さんがすごい速いタイムを出してくれて。公式練習でクルマのセットも思いっきり決まっていたので、“これは結構上位を狙えるな”と確信はありましたね。(担当エンジニアの)セッティングが、ほんと素晴らしいんです。ほんとにそのおかげで勝てたと言っても過言ではないんです。
※1:56号車は2021、2022年の開幕戦岡山で連勝。

──予選では、タフなコンディションと言われるQ1担当でした。無事、通過して安堵しましたか?

名取:Q1を行かせていただいたんですが、今シーズンに関してはタイヤの持ち込みセット数が(昨年に対して1セット)減らされているので、JPさんには今回持ち込んだタイヤの乗り比べをしてもらって、コメントを出してもらっていました。(僕は)ニュータイヤ自体、練習走行(公式練習)で乗れなくて……それに、シーズン前の富士の公式テストでは雨で乗れなかったんで、実際にドライのニュータイヤを履くのが予選が初めてでした。いつもなら思わないんですが、GT-Rで富士での(アタック)なんで、“ミスしたらどうしよう”っていうなんか変な不安があったのですが、なんとか(Q1を)通ることができました。結構ぶっつけ本番に近かったのですが、JPさんにバトンを繋げられて良かったかなと思います。

──優勝会見では、『予選を終えて、レースに対して手応えを感じていた』と話していましたが、すべて条件が整ったなかで迎える決勝となり、プレッシャーはなかったのですか?

名取:僕、レースで緊張することが正直まったくないんです。岡山でもミスなくやれば勝てるなっていう自信がありました。なので、(富士でも)あとはミスなくすることだけだなと思っていたし、決勝前の夜も爆睡してちゃんと寝られました(笑)。

No.56 リアライズ日産メカニックチャレンジGT-R

No.56 リアライズ日産メカニックチャレンジGT-R

──なんという“強心臓”!

名取:僕はまったくレースで緊張しなくて……。女の子に告白するほうが全然緊張しますね(笑)。

──レースはデ・オリベイラ選手がスタートを担当しましたが、どのように決まっていたのですか?

名取:スタートドライバーを僕で行くかJPさんで行くか、決まってなくて。決勝日になって決まった感じで、結構ギリギリまでどっちで行くか悩んでた感じではありました。でもどっちかというと、予選よりもレースに対してまったく不安要素がなかったし、公式練習の段階から結構ロングランに関しては誰にも負けないぐらいの自信があったので、“いけるな”という感じでした。

──レースでは、2号車(muta Racing GR86 GT)、52号車(埼玉トヨペットGB GR Supra GT)が序盤にピットインしてGT300車両ならではの戦略を採り、異なるアプローチをしてきました。名取選手がコースインするときには2号車がおよそ9秒差で先行していましたが、抜けるという自信はありましたか?

名取:ロングランに関しては、“もう気合でなんとかしてやる!”みたいに変な自信があって、大丈夫だと感じていました。残り30周ぐらいあったんですが、 思いのほか追いつくのが早かったので、“あ、これはいけるな”って。ちょうどダンロップ(コーナー)のところで(2号車が)GT500(車両)に詰まって、うまい具合に差を詰めることができたんです。ちょうどその前(の周)で1秒ぐらい離れていて、(差が)詰まりそうで詰まらない……みたいなことが結構続いていたんですが、このチャンスで一気に詰めることができました。どこでオーバーテイクするか悩んではいたんですが、2号車に対して(自分たちの)GT-Rの強みはどこかと考えました。低速から中速へのトラクションだったり(ストレートスピードの)伸びが早いので、最終コーナーで仕掛けるまでは至らなくても、フェイントをかけて1コーナーでオーバーテイクするのが一番いいシナリオだと瞬時に考え、それを行動に移しました。自分のなかでは作戦通りというか、戦略的にうまくいったと思います。

──セオリーどおり、しかも1回で仕留めたのが素晴らしい。

名取:本当ですか?(笑)でも、GT-Rの強みはそこなんで。GT-Rは低速から中速の伸びがすごく強いんで、そこを活かすには最終コーナーで並んでおくのがいいなと思いました。最初、最終コーナーで並ばずに1コーナーで挿すっていうのも考えてはいたんですが、もし挿さずに1コーナーだけを狙ったら、インを閉められたときにどうなるか自分の頭の中でまだ読めてなくて。そう思ったので最終コーナーでインを狙っておきたいなと考えて、それを行動に移したという感じでした。

──鮮やかな逆転劇でクラストップになりましたが、そのときは無線で近藤監督やエンジニアから“お褒めの言葉”はありましたか?

名取:『よくやった!』って感じです。僕もオーバーテイクできて興奮して『しゃー!』ってラジオで言ってたんで……。かなりエキサイトして楽しんでいました(笑)。

──2号車を逆転後、相手も粘ってほぼ1秒以内ぐらいで背後についてきてました。 プレッシャーを感じることなくレースをしているということでしたが、チームとは無線でどんなやりとりがありましたか?

名取:いや、まったく……(無線はなかった)。もう無我夢中で走ってて。多分それを察してくれたのかはわからないですが、チームのほうもチェッカーを受けるまで、静かに…… 何も話すことなく、僕も自分の仕事に集中していました。

──では、トップチェッカーを受けた途端に喜びが爆発したとか?

名取:正直、もう覚えてないんですよ(笑)。何か叫んではいたと思うんですが、あまりにうれしすぎて。GT初優勝っていうのもあったので、あんまり覚えてないです。一方で、今回の僕のレースの反省点なんですが、タイヤが冷えてる状態で結構オーバープッシュしすぎてタイヤをちょっと痛めちゃったんで、後半ペースがちょっと落ちてしまったんです。そこが僕の反省点だと思っています。ちょうど昨日まで鈴鹿でテスト(※2)があったんですが、ヨコハマタイヤさんと(データを)見ながらいろいろ修正して、次戦鈴鹿に向けて自分の走りをアジャストしたり結構いい走りが見つかりました。次はさらにパワーアップした自分を見せられるかなと思います。
※2:富士戦のあと、5月8、9日に鈴鹿サーキットにおいてGTエントラント協会が主催するGT300クラスの専有走行テスト行なわれた。2日間・合計8時間の走行では、開幕戦からGT500クラスで導入が始まったハルターマン・カーレス社製のカーボンニュートラルフューエル『GTA R100』を搭載して走行する時間が設けられている。

──つねに冷静な自己分析ができるんですね。ところで、66kgのサクセスウェイトを搭載したクルマは、どんなフィーリングでしたか?

名取:まぁ、頭のなかは9割レースのことしか考えてないんで(笑)。テストではサクセスウェイトを積んで2日間走り、かなり好印象でした。まだいけます! というか、まだまだ行かないと困ると思っています。僕が目指してるのは優勝じゃなく……優勝ももちろんしたいですが、やっぱりチャンピオンを獲ることなので。“サクセスウェイトなんか、気合でなんとかしてやる!”っていう気持ちでいきたいですね。

トップでチェッカーを受ける56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジGT-R

トップでチェッカーを受ける56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジGT-R

──チーム自体、タイトル防衛を大きな目標に掲げて臨んでいます。そのなかで名取選手自身の鈴鹿戦への意気込み、また今シーズンの目標を教えてください。

名取:鈴鹿に対しては、目標を高くしないといけないので、2連勝してみたいです。あんまりGT300で2連勝するチームってないと思いますが……。テストをしてみて、周りの(ウェイトの)軽いチームが速かったので、富士みたいに確実に行けるという感じではないんですが、そのなかでも戦えるベースというかパフォーマンスは全然あるかなと。いいレースをすれば富士みたいな結果が必ずついてくると思うので、それをもう一度繰り返したい。次の鈴鹿は後半戦にかなり影響するレースになると思っています。今シーズンの目標ですが、最終戦までにチャンピオンを決められたらかっこいいなと思っているんです。(最終戦を待たずにタイトルを)決めたらかっこよくないですか?(笑) 僕とJPさんと、KONDO RACINGなら必ず僕はいけると思っているので、その自信を結果で示したいなと思います。

──では、最後に、この企画恒例「24時間以内のちょっとした幸せ」を教えてください!

名取:24時間以内ですか……優勝してから、もちろんSNSとかのほうでもいろんな祝福をいただいて、昨日も(テストで)ちょうど鈴鹿にいて、火曜日にも関わらず結構たくさんのファンの方が鈴鹿まで見に来てくださったんです。普通のテストにも関わらず、今までにないくらい、すごいサインを求めていただいて……。写真も“撮ってください”って求めていただいたんで、なんかすごい……“優勝してこんなに変わるんだ”って感じでした。身に染みてちょっとうれしかったです。やっぱりあと3回ぐらい勝ちたいなと思いました(笑)。

文:島村元子

島村元子

島村 元子

日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。

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