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荒天の中の開催となった2023年の開幕戦。
SUPER GT第2戦の舞台は富士スピードウェイ。ゴールデンウィーク真っ最中ということで、大観衆が詰め掛けるレースとしてお馴染みだ。今年は8戦中5戦で開催される450kmレースの緒戦であり、たっぷりと楽しめるはず。
岡山国際サーキットで行われた第1戦では、MOTUL AUTECH Zの松田次生/ロニー・クインタレッリ組がGT500クラスで、そしてUPGARAGE NSX GT3の小林崇志/小出峻組がGT300クラスで優勝。松田は自身が持つ最多勝記録を24勝にまで伸ばし、また小林は100戦目のレースで勝ち、小出はデビューウィンを飾るという記録に残る一戦にもなった。
しかし、レース後半は激しい天候変化によって赤旗が3回も出され、挙句フルディスタンス達せぬまま終了という、少々消化不良的な展開だったことも否めず。思えば、昨年の第2戦も、やはりストレートで発生したアクシデントによって、フルディスタンス到達できなかった。そこでまずは、安全とレース進行について、考えてみたい。
いかに強く雨が降ろうとも、アクセルを踏み続けるドライバー心理に対して
3回赤旗が出た開幕戦。
昨年の第2戦で生じたクラッシュは、その瞬間、最悪の事態を想像した方も少なくなかったのではないか。ストレートでコントロールを失った車両は、スタンド側のガードレールに激しくヒット。大破した状態から、ドライバーが大事に至らなかったことが明らかになった時、きっと誰もが安堵したに違いない。改めて感じたのは、現在のGTカーの高い安全性だ。また、救護体制に関しても、一時期とは比べ物にならないほど高まっている。
前回のレースは、公式練習でDENSO KOBELCO SARD GR Supraの中山雄一が転倒し、これもまたドライバーが無事で一安心。予選には間に合わなかったが、マシンは決勝までに修復されて、関口雄飛と中山は8位入賞と、実にドラマチックな展開ともなっていた。
アクシデントの原因は、急に勢いを増した雨による。おそらくアクシデントが発生しなくても、あの雨足であれば数分後、いや数秒後には赤旗が出されていただろう。あの時点で中山はトップタイムを記録しており、厳しい状態だからこそ誰よりアクセルを踏んでいこうと思っていたはずだ。ドライバー心理としては、そういうもので、すると予選や決勝でも赤旗が出されたことに納得がいくのではないか。
こと雨に関しては、昨今は雨雲レーダーの精度が高まっており、どの時点で強く降るか察知できるようになっている。それはレースを運営する側も、もちろんチームも同様に。実際に強く降ってきたとして、勝負の最中だからドライバーは、ライバルが迫ってくれば同じようにアクセルを踏み続けるだろう。
それを回避するための赤旗だと、ご理解いただきたい。レース運営は、常に先の先を読んでいる。アトウッドで他車を巻き込むアクシデントも発生したが、あれはルーキーがゆえの経験不足が原因。それは断言できる。逆に公式練習は、想定より中山の気持ちが上回ったから、とも言えるだろう。
特に最初の赤旗は、近隣で落雷があり、ドライバーだけでなく観客の安全も配慮されたもの。身の安全を確保してほしい旨、何度もアナウンスされたし、サーキット内に落ちなかったのは不幸中の幸い。3度目の赤旗は、フルディスタンスの75%を満たし、フルポイント獲得できるようにという、いわば親心だったと思ってほしい。雨の中、再開を待ち続けていた観客の皆さんには気の毒ではあったが、変に続行して多少のスペクタルならまだしも、目を背けるような事態でも起きようものなら…。ご理解いただきたい。
鈴鹿SFでの勢いにも乗って、あのチームがリベンジ果たす?
開幕戦のリベンジを期すau TOM’S GR Supra。
昨年の第2戦で優勝を飾ったのは、ARTA NSX GTをドライブする野尻智紀/福住仁嶺組で、GT300クラスは富田竜一郎/大草りき/塩津佑介組のTANAX GAINER GT-R。そして、冒頭でも触れたとおり、前回のレースはMOTUL AUTECH ZとUPGARAGE NSX GT3が優勝しているわけだが、これらの結果をいつものように参考とするのは、こと今回は難しいだろう。
繰り返すが、この2戦はいずれもフルディスタンス達成していないからだ。最後までレースが続いていたら、あるいは雨が最後まで降らなかったら、また違った展開になっていた可能性は十分あるからだ。
たとえば、STANLEY NSX-GTの牧野任祐が、FCY(フルコースイエロー)が出される前にピットに入れていれば。あるいは、宮田莉朋に代わったばかりのau TOM’S GR Supraが、しっかりタイヤがはまっていれば。他にもタラレバはいくつも存在する。
その上、例年なら第2戦であれば、開幕前の公式テストも参考にするのだが、2日間ずっと路面が濡らされ、ドライでのデータがどのチームも取れずじまい。予想屋殺しの状況になっているのだ。今回もずっと雨…というのは考えにくいし、考えたくもないが、現時点での天気予報では降らない方に変化もしている。
ならば、あらためて昨年のレースを振り返ると、そこにもタラレバが存在した。第2戦でトップチェッカーを受けたのは、DENSO KOBERCO GR Supraだったが、アクシデントの発生後に出された赤旗中断中に、ドライバーがマシンを触ってしまい、これが「赤旗中の作業違反」と判定されて40秒加算。続いてゴールした、KeePer TOM’S GR Supraは他者への接触行為で、同じく40秒加算で順位を落としている。同じく富士で行われた第4戦では、そのKeePer TOM’S GR Supraが優勝を飾っており、トヨタ勢にコースが相性良しと考えて良さそうだ。
その上で、サクセスウェイトに苦しんでいないチームとなれば、坪井翔と宮田のau TOM’S GR Supraはどうか?もし勝てたら、リベンジ成功ということにもなりそう。先の鈴鹿スーパーフォーミュラで宮田が初優勝を飾り、2位は坪井。その勢いは見逃せないところだ。
GT300クラスの台風の目は、話題のニューマシン?
混戦が予想されるGT300クラス。
前回のGT300クラスでは、UPGARAGE NSX GT3の戦術の妙が光っていた。予選こそQ1の赤旗によって、満足にアタックできずに18番手という結果に甘んじていたが、コンディションに応じたタイヤ選択とタイミングが絶妙。気がつけばトップに立っていたという印象で、一時はタイミングモニターがバグったかと思ったほど。
先のレース運営ではないが、あらかじめさまざまな想定をしていて、それが完璧にできたからというのがドライバーのコメントだったが、後々つじつまが合って納得できたのだが。天候変化やFCY提示など、できればあって欲しくないが、うまく先読みできたことが勝因だった。
特にGT300クラスに限った話ではないが、今回は450kmレースということもあり、レース中に最低2回の給油が義務づけられている。300kmであれば、1回のピットストップで済むが、ひとりのドライバーが1/3以上走らねばならないという規定があるため、入れるタイミングにはどうしても限りがある。ところが、今回は2回となれば3スティントのうち、2スティントでその規定を満たせばいいのだから、極端なショートスティントも可能というわけだ。
もちろんアクシデントが発生し、FCY提示前に入るだけでなく、前も後ろも囲まれて本来のペースで走れないならば、そこから抜け出してピットに入って、その後単独で本来のペースで走り続けるという作戦に討って出るチームもあるかも? いわゆるアンダーカットである。
このクラスも公式テストの結果だけでは予想が困難だが、昨年の第2戦でTANAX GAINER GT-Rが優勝し、3位はSUBARU BRZ R&D SPORTの井口卓人/山内英輝組。さらに第4戦でもSUBARU BRZ R&D SPORTは勝っており、GT-RやBRZと相性がいいのは間違いない。さらに第4戦ではLEON PYRAMID AMGの蒲生尚弥/篠原拓朗組もリタイアを喫したものの、ポールポジションから序盤のトップを快走。AMGにも相性は良さそうだ。LEON PYRAMID AMGは前回もポールで、ドライバー交代のタイミングで2位に甘んじたものの、むしろ本来はそう行った戦術面のうまさを持つチームである。46kgのサクセスウェイトが、どう影響を及ぼすかが鍵を握るが、注目しておきたいチームではある。
また、昨年は勝てなかったものの、GR Supra勢も富士を得意とする。4戦行われた2020年には埼玉トヨペットGB GR Supra GTの吉田広樹/川合孝汰組が2勝、そして2021年にはSYNTIUM LMcorsa GR Supra GTの吉本大樹/河野駿佑組が2戦とも勝っている。今年になって、GR Supra勢はそれぞれ独自のエアロチューンをしており、高速コースの富士であるほど、その効果を試す絶好の機会になるのでは?
そして、台風の目となりそうなのはapr LC500h GTの嵯峨宏紀/小高一斗組。プリウスで昨年は苦戦を強いられたチームだが、今年はご存じのとおりニューマシンを投入。ハイブリッドシステムのみならず、ほとんどのユニットをプリウスから受け継ぎながら、前回の予選で7番手を獲得した。ホイールベースが長く、本来は苦手と予想された岡山での健闘が光っていた。決勝はワイパーのトラブルで後退したが、もし何事も起きずに走っていたら? 空力的にも優れると言われ、ロングホイールベースゆえにセクター3を苦にしなければ、面白い存在と言えそうだ。
とにもかくにも、第2戦は雨に見舞われず、できればFCYやセーフティカーも介入せずに、スカッとしたレースになって欲しいところ。誰もが勝者に「さすがだね!」って言いたくなるようなレースを期待したい。
文:秦 直之
秦 直之
大学在籍時からオートテクニック、スピードマインド編集部でモータースポーツ取材を始め、その後独立して現在に至る。SUPER GTやスーパー耐久を中心に国内レースを担当する一方で、エントリーフォーミュラやワンメイクレースなど、グラスルーツのレースも得意とする。日本モータースポーツ記者会所属、東京都出身。
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