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今年もSUPER GTは岡山国際サーキットで開幕を迎える。
2023年もSUPER GTの開幕の地は、岡山国際サーキット。同時に、本格的な春の訪れも感じさせてくれるはずだ。どんな展開になるか、どんなバトルが繰り広げられるか、もはやワクワクは止まらない。
しかも3年にわたってモータースポーツ界にも大きな影響を及ぼしてきた、新型コロナウイルスも今年になって5類に分類されるようになり、マスク規制も緩和。昨年の途中からはピットウォークやステージイベントも再開され、今年はサーキット全体が再び活況を呈するのは間違いない。
公式テストとレースの結果は概ね一致する!?ならばホンダ勢が…
岡山での公式テストでトップタイムを記録した16号車 ARTA MUGEN NSX-GT。
まずは昨年の開幕戦の結果を振り返ってみよう。ENEOS X PRIME GR Supraの大嶋和也/山下健太組がポール・トゥ・ウィンを飾り、2位はSTANLEY NSX-GTの山本尚貴/牧野任祐組。3位はMOTUL AUTECH Zの松田次生/ロニー・クインタレッリ組と、表彰台が3メーカーで分けられた。開幕戦といえば、全車サクセスウェイトを積まず、真の実力を問う戦いとされているから「これは今シーズン、実力伯仲の戦いになるな」と誰もが思ったはず。
しかし、シーズンを終えてみれば、トヨタ勢はENEOS X PRIME GR Supraがランキング最上位の5位で、第2戦以降は最終戦で3位に上がったのみ。逆にチャンピオンになった、カルソニックIMPUL Zの平峰一貴/ベルトラン・バゲット組は、開幕戦は7位だった。
とはいえ、昨年も公式テストでは、au TOM’S GR Supraの坪井翔/ジュリアーノ・アレジ組がトップタイムを記録していたから、GR Supraとブリヂストンの組み合わせが開幕戦の最適解だったのは間違いない。では、今年の公式テストではどうだったかというと、トップタイムを記録していたのは#16 ARTA MUGEN NSX-GTの福住仁嶺/大津弘樹組。そして2番手も、STANLEY NSX-GTの山本組とあって、NSX-GTとブリヂストンの組み合わせが有利といえそうだ。
今年のホンダ勢は、ドライバーのシャッフルが目立ち、5台のうち体制不動なのはSTANLEY NSX-GTとAstemo NSX-GTの塚越広大/松下信治組だけ。またARTAがチーム無限とのコラボレーションにより2台体制とし、先に挙げた16号車はふたりとも新加入。8号車は野尻智紀の新パートナーとして、大湯都史樹が加わった。いずれも強力なラインアップといえまいか。この4台はいずれもブリヂストンを装着する。
唯一ダンロップを履くModulo NSX-GTは、伊沢拓也の新パートナーがルーキーの太田格之進となった。では、不利かというと、1台に勢力を集中できるメリットもあり、また太田はやはり1年目のGT300クラスで二度も表彰台に上がっており、爆発力にも定評のあるドライバー。ここは化学変化に期待したい。
今年は空力開発が凍結されているため、昨年からの大幅な進化はない。とすると、好調な理由はエンジンにあるのだろうが、そのものに加えて要素がもうひとつある。それが燃料だ。今年からGT500クラスは、全車カーボンニュートラル燃料(CNF)を使うこととなった。CNFといっても、それぞれながらSUPER GTで用いられるのはバイオマス由来の非化石燃料である。
厳密にいえば燃焼されれば、どうあれ二酸化炭素は排出されるが、例えば主原料となるアルコールは植物を蒸留して精製されており、その植物の成長過程で自然界から二酸化炭素を吸収しているため、燃焼時に排出されても「プラスマイナスゼロ」というのがCNFだと思って欲しい。オクタン値は開発が進んだ現在は、ハイオクのガソリンと遜色ないというが、燃焼効率や揮発性などが異なるため、プログラム等を改める必要がある。その点でホンダが一歩リードしているというのが、もっぱらの噂。
いずれにせよ、ホンダは来シーズンからGT500クラスにシビックを導入することを、すでに発表しており、NSX-GTに有終の美を飾らせたいと思っているはず。そこに例年以上の本気度が感じられてならない。
チャンピオンカーの車名は変わっても、あのカラーリングは健在
カラーリングは健在だが車名が変わった1号車MARELLI IMPUL Z。
一方、トヨタ陣営に、ドライバーラインアップの変更は極めて少なく、au TOM’S GR Supraは坪井翔と宮田莉朋のコンビに、Deliotte TOM’S GR Supraはホンダから電撃移籍の笹原右京がジュリアーノ・アレジと組むことになったものの、他の4台はまったく変わらない。
公式テストにおいて、さっそく結果を出してきたのがau TOM’S GR Supraだ。前述のとおりNSX-GTが上位を占める中、3番手につけたからだ。スロースターターならぬファストスターターとして定評のある坪井に、若さあふれる技巧派の宮田のコンビはいかにも魅力的。この勢いが保たれれば、開幕戦のウィナー候補に挙げてもいいはずだ。
これに次いだのが、WedsSport ADVAN GR Supraの国本雄資/阪口晴南組で5番手となっている。話が前後してしまうが、6番手がニッサン勢ながらリアライズコーポレーションADVAN Zの佐々木大樹/平手晃平組で、この2台はヨコハマを履く。昨年、5回もポールポジションを奪っているだけに、予選での速さは際立ったが、決勝では……ということが多く、しかし公式テストにおいてはロングランも安定していたという情報もあり、実際にそうであれば今シーズンの台風の目に、ヨコハマユーザーがなる可能性は十分にある。
一方、ニッサン勢は4台すべてドライバーが変わらず。その点では極めて強気だ。ただ、チャンピオンである平峰組の車名が、MARELLI IMPUL Zに改められている。もっとも伝統のカルソニックブルーは健在だから、違和感を覚えることはないだろう。ただ、相性は良くないのか、公式テストでは7番手で、これはニッサン勢としては前出のリアライズコーポレーションADVAN Zの佐々木組に次ぐ2番手である。そしてMOTUL AUTECH Zの松田組が、続く8番手。それぞれ使っているタイヤが異なっているのがポイントで、しかも僅差で並んでいるのは、マシンのバランスの良さを物語っているのではなかろうか。
ただ、再三述べているようにテストは、あくまでテスト。必ずしも常に速さを極めようとしているわけではなく、むしろ決勝を見据えて、強さを極めようとしていた可能性もある。蓋を開けてみるまで分からないというのが、本当のところである。
爪を隠すか、さらけ出すか。まだまだうかがいしれぬGT300クラス
公式テストで速さを見せた88号車 JLOC Lamborghini GT3。
GT300クラスで岡山の開幕戦といえば、何と言ってもリアライズ日産メカニックチャレンジGT-Rである。2021年から2年連続で制し、昨年はその勢いのままシリーズを駆け抜けて、チャンピオン返り咲きを果たした。今年はJ.P.デ・オリベイラのパートナーが名取鉄平に改められたが、大きな戦力ダウンにはならないだろう。むしろ野生味あふれるJPの走りから、若い名取が学ぶところはかなり大きいはず。ここは強烈な化学変化に期待したい。だが、岡山での公式テストでは12番手。その存在感が際立つことはなかった。これはもしかして……。
実はこのパターン、昨年とまったく一緒なのだ。これがKONDO RACINGの流儀のようで、速さより強さを重視していたのは間違いない。また名取のマシン習熟に多くの時間を割いており、そのことを考慮に入れても、名取がJPと遜色ないタイムで走れているのは、むしろ期待材料と言っていいのではないか?
逆の角度から見てみよう。公式テストで最速だったのは、JLOC Lamborghini GT3の小暮卓史/元嶋佑弥組。これも昨年と一緒なのだ。JLOCは常に「爪」を隠さない。かつ、速さだけなら誰もが認めるチームでもある。ウラカンというマシン自体も、岡山にはマッチしていて、FIA-GT3としてはトップレベルのコーナリング性能が活かされるのだろう。ただ、もうひとつ誰もが認めるところが、運のなさ。こればかりはどうにも……。チームの妥協を許さない姿勢が、限界を超えてしまっている感もある。
公式テストで2番手は、K’tunes RC F GT3の新田守男/高木真一組。岡山トヨペットが母体のチームなので、ここは絶対に勝ちたいところ。ベテランコンビの力走に期待だ。そして3番手はシェイドレーシングGR86GTの平中克幸/清水英志郎組で、GTA-GT300車両の最上位。ただ、この時はトップ10には、SUBARU BRZ R&D SPORTの井口卓人組が8番手、muta Racing GR86GTの堤優威/平良響組が9番手、そしてHACHI-ICHI GR Supra GTの佐藤公哉/三宅淳詞組が10番手で並んだものの、今ひとつ存在感を欠いていた。
本来なら、岡山はGTA-GT300車両が有利なはずだが、どうして……という疑問を持った方もいるだろう。考えられる要因として、ボディフロアに対する空力規定の変更があり、この時はまだ対応中だったというのが挙げられる。間に富士での第2回公式テストも挟み、1か月も経過している現在では、かなり仕上がってきているはずだ。
ちなみに、富士のテストを参考にしなかったのは、コースの特性が極端に違うこともさることながら、終日雨に見舞われてしまったからだ。最終セッションなど、雨足が強すぎてGT300クラスはほとんど走行しなかったほど。このプレビュー執筆時ではレースウィークの天気は、どうも芳しくない模様ながら、遠慮なく改まって欲しいもの。雨が降れば、勢力図もガラリと変わったりするし、危険を伴わない範囲でのスペクタルも、また一興ではあるものの、開幕戦はやっぱりドライコンディションで見たい!
なお、GT300クラスでは第3戦まで、CNFは使用されないこととなった。GT500クラスであれば、メーカーごと緻密なベンチテストを行うことで適正化が進められるが、車両のバラエティに富むGT300クラスでは準備期間が短かったため、それぞれの対応に差が生じたからとされている。公式テストはGT300クラスもCNFを使っていたが、再びガソリンが使われることで、また流れも変わるかも。やっぱり、このクラスからもワクワクは止まらない!
文:秦 直之
秦 直之
大学在籍時からオートテクニック、スピードマインド編集部でモータースポーツ取材を始め、その後独立して現在に至る。SUPER GTやスーパー耐久を中心に国内レースを担当する一方で、エントリーフォーミュラやワンメイクレースなど、グラスルーツのレースも得意とする。日本モータースポーツ記者会所属、東京都出身。
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