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宮田莉朋選手(No.36 au TOM’S GR Supra)「新たな体制で挑む今シーズンについて」| 2023年 SUPER GT年男 新春インタビュー【年男、跳ねる!】
モータースポーツコラム by 島村 元子宮田莉朋選手(写真右)※昨シーズンはTGR TEAM KeePer TOM'Sに所属
例年よりも寒さ厳しいオフシーズンとなっているが、2023シリーズ開幕に向けて水面下では着々と準備を進めているSUPER GT参戦ドライバーたち。今シーズンこそ優勝、そしてチャンピオンを! とそれぞれが大きな野望に向け、気持ちを新たに取り組んでいることだろう。
そこで、今年の干支である“卯”にちなみ、卯年生まれの年男ドライバーをピックアップ! 今シーズンの目標はもちろん、年男の話やプライベートに至るまで、オフシーズンだからこそ聞ける話題にググッと迫ってみた。
第1回目はTGR TEAM au TOM’Sの宮田莉朋選手。2021年に伴侶を迎え、公私ともども充実の日々を送る宮田選手だが、今シーズンにかける意気込み、そして将来のことへとドンドン話が広がり……。宮田選手のアツい想いを、めいっぱいお伝けしよう!!
新たな体制で挑む今シーズンについて
──まず、2023年シーズンに向けてドライバーとしての目標をお聞かせください。
宮田莉朋:今年もSUPER GTとスーパーフォーミュラに参戦します。昨年と同じチームトムスからの参戦なので、どちらもチャンピオンを目指して……チャンピオンを獲って、将来に繋げていきたいなと思ってます。
──目標達成に向けて、なにか意識して新たに取り組んだことはありますか?
宮田:特にないんですが、去年、人生で初めてF1を見に行って……(昨季SUPER GTでコンビを組んでいた)サッシャ(フェネストラズ)と一緒に見に行ったことで、早く海外に行きたい思いがより強くなりました。シーズン終わった後にも海外へ行く機会があって、内容はあんまり言えないんですけどレースを絡めて海外に行けたので、今年結果を出せば(海外でのレースに)行けるかもしれないってとこまで来れてると自分では思っているんです。そういった部分でより気が引き締まるというか、なんか現実的に行けるようになってきたなっていう実感がありますね。特に今年のGTは36号車で坪井(翔)選手と(のコンビ)なので、頼れる人もできたし自分のパフォーマンスを出せば、結果がついてくると思ってますね。
──トムスでのシーズン2年目、今シーズンは昨年までライバルだった坪井選手と一緒に戦うことになりました。これに関してはどう思いますか?
宮田:今年はその逆でみんなから“チャンピオン候補一番”みたいな感じで、いい意味で期待されてると思うんですけど、去年は結構いろいろ……ツラいわけじゃないですけど大変でした。誰も経験値を持ってなくて、サッシャも2021年シーズン中(コロナ禍で来日が叶わず)戦えてないし、僕もブリヂストンタイヤとトムスの車両を理解し切れてなかったので(※1)、そういった部分でまったく頼れない状況でした。
今年はそういう部分でチャンピオン獲るにはどうしたらいいっていう経験がある坪井選手と(のコンビ)っていう部分と、彼は36号車での3年目のシーズンなので、トムスの車両とタイヤのパッケージも理解し切れているし……。去年はその部分がなくて僕ひとりが想像しながらクルマやタイヤを作っていたので。もちろん、サッシャともやってましたけど、基本的にやっぱり日本のチームなんで、エンジニアもやっぱり日本語で話したいっていうのがあったし、サッシャは去年フォーミュラ Eのテストもやってたので、日本で仕事ができる時間も大分と限られてたし。そういう部分がいろいろ積み重なって結構大変だったなっていうのが今年はないので、自分の走りすればいいかなっていうぐらいですね。逆に言うと、頼れる先輩(坪井)がいるんで、そういった部分でうまく歯車が合えばなって思うぐらいですね。
とは言っても、GTって勝つときは本当に簡単に……勝つかもしれないですけど、チャンピオンを獲るってのはまた話が違うんで。みんなから“チャンピオンも獲れるじゃん”みたいな感じ(で言われるん)ですけど、ホンダにしても日産にしても、タイヤメーカーにしても、そしてドライバーだけが速くても(レースで)速く走れるわけじゃないんで。なので、期待されてるのはすごい嬉しいですけど、(今シーズンは)簡単に(チャンピオンを)獲れるっていうふうに言ってほしくないなとは思いますね。
ひと昔前だったら、もうドライバー(の力)でねじ伏せれるところがあったかもしれないですけど、もう今は……まぁずっとご覧になってる方はわかると思いますが、GTだと予選Q1でももうコンマ2秒とか、下手したらコンマ1秒以内(の差)でQ2へ行けるかどうかという世界なので、ちょっともう次元が違うというか……。なので、どんだけいいタイヤを履いたとしてもエンジンが遅かったら意味ないし、エンジンだけ速くてもタイヤが合わなかったら意味ないし、それぐらい条件が合うか合わないかで成績が左右するぐらいシビアなレースだから、今、不安なのはそこくらいですね。だから、そこを僕と坪井くんでしっかりとカバーしつつ、あとは今までの知識でクルマとタイヤを作っていけたらなっていうところはあります。
※1:フェネストラズは2020年からトムスに在籍するも、2021年はコロナ禍で来日が叶わず、第1戦から第5戦まで欠場。宮田とは2022年からコンビを組んだ。宮田は2020年にSUPER GT・GT500クラスにステップアップ。2シーズンをTGR TEAM WedsSport BANDOHで過ごし、ヨコハマタイヤで参戦した。トムスへは2022年に移籍。ブリヂストンタイヤでフルシーズンを戦った。
今年は年男! プライベートでも大きく飛躍の年に!?
──ところで、今年は年男ですね。卯年生まれは、「もの静か、繊細、温厚な性格で忍耐強くて努力家」なんだとか。ご自身もそう想いますか?
宮田:温厚な性格ではないので(苦笑)……そこはたぶん違うかな? でも基本、僕は没頭するタイプなんで、自分が納得するまでやりきりたいタイプ。レースにしても、勝ったときも負けたときも、何が良くて何がダメだったのかを徹底的に調べて自分の中で改善したいっていう思いがつねにあります。それから、趣味の領域の話なんですが、僕は今、eスポーツというかバーチャルレースでもプロとしても戦ってて。コロナの影響もあって家にいる時間が多かったというのはあるんですけど、プロドライバーかつバーチャル(ドライバー)で世界で何位?、日本で何位?って調べ始めたりして……。バーチャルでも1位になるぐらい没頭して、3ヶ月ぐらいで日本一にもなったんです。今も世界で20~30位ぐらいなんですけど、それぐらい自分が納得するまでやりきりたいタイプ。もしかしたら、“忍耐強い”っていう性格は合ってるかもしれないです。
──レーシングドライバーだと知らない人なら、“もの静か”というイメージを持つかもかもしれません。
宮田:本当ですか? じゃあ、そこも当てはまってるってことでお願いします(笑)。
──うさぎは飛び跳ねる姿から躍進、向上のシンボルでもあるのだとか。公私問わず、年男としての抱負を教えてください。
宮田:生々しい話をしていいのかわかんないですけど、結婚して今年で3年目になるので、とにかく稼いで奥さんを潤わせるだけですね(笑)。もう、それしかないです。すごい視野を広げると、たとえばサッカー選手とかすごい豪華な生活というか、夢のある生活してるなっていう感じだし、種目が違えど自分も同じアスリートなので、そういった部分でも早く稼いでそんな生活したいなって思う部分もあります。去年、コンビを組んだサッシャが、今はフォーミュラeで戦ってるので、いい意味でも悪い意味でも世界の相場と日本の相場の違いがわかってくるようになったし。自分もずっと世界で戦いたいっていう思いがあったんで、そういうとこも含めてたくさん稼いで奥さんに対しても世間に対しても、夢のある姿を……“やっぱレーシングドライバーって夢があるな”って思われるようにしたいと思います。
──前回の年男は12歳のとき。振り返って、当時の“若き宮田莉朋さん”に、今どんな声をかけてあげたいですか?
宮田:12歳の頃といえばレース人生をさまよってるときです。“深い話”をするなら、その頃、家庭的にはレースできるほど資金力があんまりなくて……(元F1ドライバーの)高木虎之介さんが、僕に手を差し伸べようとしてくださるタイミングでした。虎之介さんの(カート)チームに入って、僕のことを虎之介さんがバックアップして全日本カテゴリーに出られるかどうかっていう瀬戸際でした。その条件が、“残りのレース全部勝ったらいいよ”っていうもので。結果的には全部勝ってチームに入るんですが、ただ、そこで(チームに)入ったからといってプロになれるのかなれないのかは自分次第だし、バックアップがあるとはいえ、家族の支援が必要だったし。周りの同世代で言うと、阪口(晴南)選手はじめ、僕と同い年のドライバーはみんな全日本カテゴリーにも小さい頃から出ていて、僕は(全日本クラスに)“出られなかった側”だったので。全日本に出ても彼らには勝てないなって思ってるときだったんです。
なので、あのときの自分に言うとしたら、「彼らを倒して今ちゃんとここ(プロの世界)にいるんで、安心してください」っていうことくらいかな(笑)。でもそのときは本当にすごく苦労したし、父親にもう今じゃ警察沙汰になるくらいでしょうが、ぶん殴られるのが当たり前ぐらい、スパルタだったし。でもそれがあったからこそ今こうやっていられるし、ツラかったけど乗り越えた結果がここなんで。(声をかけるなら)「がんばってください!」って感じですね。
──では、次の年男……36歳になったとき、どんな人になっていたいと思いますか?
宮田:36だと、たぶん子供もいると思ってるんで。個人的には、25までには絶対海外でレースして、 トヨタだとWEC(世界耐久選手権への参戦)はまぁ規定路線のような感じですけど、しっかり海外で活躍し続けてるドライバーでありたい。で、36歳だとそうですね……まだたぶん世界で戦えてると思います。個人的によく奥さんと話すんですけど、僕は自分の子供が男の子であればレースをさせたいって思ってて。自分が知ってる世界がそれしかないんで。僕としては、僕が知らない世界でレーシングドライバーを目指してほしくて。というのも、僕は海外でレースをしたい、世界を目指したいっていう思いでずっとカートを始めたんです。
ただ先ほど言ったように、資金的に本当に厳しかったんで、海外に行ったり挑戦することも難しくて。世界に行けたのも、やっぱりバックアップがあった上で一度は行ったんですけど、子供ができたときには僕がたくさん稼げていると信じて、自分の子供には自分が行きたかった世界に行かせたい。まずは自分ができなかった路線……カートの頃から世界選手権に出たりして、日本ではなくて海外での走らせ方だったり(を学ばせたい)……。今、F1やWECで活躍してる選手ってヨーロッパというか向こうの地域で育って、日本にはないセンスというか技術が彼らにはあると思うんです。そういったところで揉まれることで、自分が成し遂げなかったことを息子には成し遂げてほしいなってすごい思ってるんです。欲を言えば……これ、奥さんに本当に申し訳ないなって思いながら言うんですけど(苦笑)、(子供は)兄弟で欲しくて。で、男の子両方ともレーサーにさせたいっていう……。これはもう僕の最後にできたら……っていう親孝行なんですけど、父親もレースがすごい大好きでトムスのファンだったんですが、今は僕がトムスで乗っているので“これが親孝行かな”っていつも思ってはいるんですけど、最終的には、父親が死ぬ前に僕と息子らで耐久レースに出て、父親が監督になって、 “いい思い出作ったな”って言ってもらって人生を終えてほしいんで……。そういう感じですかね(笑)。
だいぶ昔に、ル・マン24時間でポルシェのワークスでアンドレッティ家が出てるレース(※2)を小さい頃に見せられて……。“俺はこれになりたい”って(父親が)言ってたんですが、それだけは覚えてるんで。(父親の)ドライバー(参戦)は無理だから監督ならいけるだろみたいな(笑)気持ちではいるんですけど。もしかしたら“ドライバー(をやる)”って言われたらちょっとしんどいんですけど、でも僕が親孝行できることはそれしかないんで。(親が)僕にどれだけお金をかけたかは知ってますけど、それを返すのってすごい金額なんで。今もトムスで乗れてることが親孝行だと自分は信じてるんですが、やっぱり最後の最後までやるとしたら、それしかないと思ってるんで……がんばります! まぁ36の頃はまだ無理ですけど、子供がいたら将来そういうふうになってほしいなと思います。
※2:1988年のル・マン24時間レースにおいて、ポルシェは3台目のワークスカー(ポルシェ・962C)に、マリオ・アンドレッティ、マイケル・アンドレッティ(マリオの息子)、ジョン・アンドレッティ(マリオの甥)を配して参戦した。
文:島村元子
島村 元子
日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。
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