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モーター スポーツ コラム 2022年9月13日

平峰一貴選手(No.12 カルソニックIMPUL Z)「今までのレース人生の中でこういうのはたぶん初めて」

SUPER GT あの瞬間 by 島村 元子
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No.12 カルソニックIMPUL Z

No.12 カルソニックIMPUL Z

レースでの出来事をドライバー自身に振り返ってもらう「SUPER GT あの瞬間」。レースでの秘話、ドライバーのホンネを”深掘り”し、映像とコラムでお届けします!

第5戦鈴鹿で最後尾からスタートしたNo.12 カルソニックIMPUL Z。序盤から怒涛の追い上げで着実にポジションアップを見せると、後半にはセーフティカーをも味方につけて表彰台争いに加わる。そして、残り3周でトップを奪取! 劇的大逆転で今シーズン初優勝を達成した。まさに圧巻のパフォーマンスを披露した平峰一貴選手に、ミラクルなドラマを振り返ってもらった。

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──最後尾(15位)スタートからの大逆転勝利と、ドラマチックなレースでした。レース後も、表彰式でも感情の高ぶりを抑えられないような様子でしたね。

平峰一貴:最後尾からのレースってやっぱり……メンタル的にもどうなるかなとか。別に運だのみとか、頼りにするつもりはないんですけど、でも運もやっぱり必要で。他のドライバーもそうだと思うんですけど、最後尾スタートからとかなると、余計に結果を求めないといけないっていうのもあって。すごいイヤなプレッシャーはやっぱりありました。トップとか前の方からスタートするプレッシャーって、いい意味ですごい緊張感があっていいんですけど、うしろからだとツラくて。まあ、(ベルトラン)バゲットさんからスタートだったけど、すごいいろいろ走りで工夫して、いろいろ情報もくれて。で、チームも完璧なピットストップをしてくれて。やっぱりそういうドラマがあったっていうレースがものすごく(うれしくて)……。僕、今までのレース人生の中でこういうのはたぶん初めてだと思うし、経験してなかったけど、いざ自分が最後尾スタートから優勝できたっていうのは、もう本当にみんなに感謝ですね。

──チェッカーフラッグが出たとき、プラットフォームからバゲット選手と星野一樹テクニカルアドバイザーが身を乗り出して大喜びしていましたね。

平峰:ストレートに戻ってきたら、バゲットさんと(星野)一樹さんの姿が見えたときは、ほんとにうれしかったですね。星野一義監督が僕らにとっての監督ですけど、(星野)一樹さんは、僕らドライバーにとっては 絶対なくてはならない存在です。もう、ほんとになくてはならない存在です。レース中もそうですけど、いろんなところで支えてもらって。いろんなアドバイスやいろんな取り組み方、あとは周りの情報であったりとか、僕らが気付かないところに気付いてくれて、それをエンジニアに言ってくれたりとか。一樹さんは去年までドライバーだったというのもあるんですけど、もうほんとにこの12号車を勝たせたいという思いがほんとに強くて……。すごい研究されてると思います。それが僕ら全員に伝わるんで、監督のためにも、チームのためにも、っていうのもあるし。

僕にとっては一樹さんにもいい結果を必ず持ち帰りたいっていう思いもありました。まぁ一樹さんは最も熱い男と言っても過言はないと思います。監督も熱いですし、一樹さんも熱いですし、バゲットさんも……。チームインパルのみんなは、ほんとに愛情こもった熱さがすごくあるんで、そういうところが僕自身もやっぱり大好きだし、(レースで)思いっきり攻めたいっていう気持ちになりますね。


──どんなウィニングランでしたか?

平峰:無線で、チームに「ありがとう」っていう風に言ってました。チームからも「平峰、完璧だったよ。ありがとう」って言ってもらって。ウィニングランで僕が心がけたのは、ファンの皆さんにもやっぱりありがとうって言いたいから、手を振るようにしてたんです。まあ、なかなか言葉では表せない感情でしたね。興奮っていうひと言では、終わらせることができない不思議な気持ちでした。

──一方、予選では、Q1を突破しただろうという気持ちがあったにも関わらず、まさかの敗退。何があったのですか?

平峰:いや、何もなかったんですよ。なーんにもなかったです。クルマも良かったしタイヤももちろん良かった。自分も大きなミスもせず、きっちり走り切ったつもりたったんですが、ただただ自分たち(のタイム)が足りなかったんです。その足りなかった原因は、もうなんとなく分かってるんでいいんですけどね。まぁでもあの時のパッケージの中ではベストは尽くせたんですよ。チームもそうなんですけど、結果が出せなかった理由っていうのはいろいろあるんで。それはチームとしっかり見直していかないといけないなっていう風に思ってます。最下位だったんで、やっぱりショックでしたね。僕の中では、トップはもう難しいと分かってたんですが、シングルぐらいは多分行っただろうと思ったんです。ベスト尽くして自分が持ってる力を出し切ったんですけど、それでも最下位っていうのは結構ツラかったですね。

──決勝に向けて、どのように気持ち切り替えようとしたのですか?

平峰:予選が終わった後は、やっぱりショックだったんですけど、なかなか気持ちを切り替えようと思っても、こう……。夜、ずっとひとりで、「明日は15番手からスタートか。どこまで追い上げれるかな」とか(考えた)。追い上げないといけないし、それなりにリスクも取らないといけないんで。どうなるかなって気持ちを切り替えようと思っても、不安がどんどんどんどんこう(大きくなって)……。考えるてる暇があったら身体を休めて、頭も休めて、さっさと寝て明日に備えろよって思ったり、自分にも言い聞かせたりするんですけど、その葛藤が(あって、コントロールするのが)なかなか難しかったですね。でも、バゲットさんもチームのみんなも、「いろんな不安とかあるかもしれないけど、持ってる力をとにかく出し切ろう」っていうことで。ドライバーもそうですが、チームもピット作業とか作戦とか、いろんな運を引き寄せれるようになんとか頑張ろうということで。(レースが)終わったわけじゃないし、(力を)出し切ろうということで。土曜日の夜は、チームのみんなもバゲットさんもいろいろ(気持ちを)切り替えれるように、手助けしてくれました。

─迎えた決勝では、スタートドライバーのバゲット選手が力走。いい刺激になりました。

平峰:バゲットさんのスタートってすごいんですよ。とにかくアグレッシブだし、絶対自分のスティントでいくつかポジションを上げて帰ってくるっていうのはほんとにすごい。それを僕はすごい楽しみにしてて、37号車(KeePer TOM’S GR Supra)を(16周目の)シケインの外から抜いたときも、本人はすごく引っかかってばかりいたから、フラストレーションが溜まってたと言ってたんですが、あそこで抜けてなかったらまた展開が変わったでしょうしね。一歩ずつでもいいから、しっかり仕留めて来てくれたっていう、あの熱い走りが、いろんな運を引き寄せる展開に繋がったんじゃないかなと思います。

No.12 カルソニックIMPUL Z

No.12 カルソニックIMPUL Z

──そのあと、1回目のルーティーンワークが33周目終わりでした。ほぼ予定どおりでしたか。そのとき、平峰選手のダブルスティントも決まったのですか?

平峰:ほぼ予定通りだったと思いますが、ちょっと伸ばしたのかな。でも、バゲットさんのレースベースがいつも速いんで、そこをチームも見ていて、ちょっと(ピットインのタイミングを)伸ばしたかもしれないです。最初は、もしかしたらバゲットさんが早く(ピットに)入って、僕が長く走って、最後またバゲットさんがショートで、という可能性もあったんですが、「ダブル行くから!」ってチームも直前に言ってくれていたので、すぐに気持ちを切り替えました。

──49周目終わりで2回目のルーティンピットでしたが、その直前、130Rで244号車(HACHI-ICHI GR Supra GT)がクラッシュしたこともあり、ピットインという流れになったと思います。チームとはどのようなやり取りをしましたか?

平峰:あのとき、130Rで大きなクラッシュがあって。事前に、何かあったときはすぐ(ピットに)飛び込めるようにはしておけ、それを頭に入れておけ、とチームから言われてたんで……。 で、すぐクラッシュのことを伝えて、「(ピットに)入った方がいいでしょ」って。もうほんとたぶん5秒ぐらいの間だったかな、5秒もないかな。で、「入って入って入って!」って言われて、すぐ飛び込んだという感じです。あとは、244号車には仲がいい佐藤公哉君が乗ってるって思っていたので、大丈夫なのかとちょっと心配があったんですが、チームに聞いたら「大丈夫だよ」って言ってくれたんで。そこもちょっとホッとしたんですよね。

──コース復帰時は8番手、実質4番手になりました。状況を把握できていましたか?

平峰:無線で、大駅(俊臣エンジニア)さんに「今、ピットストップを済ませた順位で言うと4位だから」って言われてたんですが、でも目の前にいっぱいクルマがいたんで、あんまり実感がなくて。だからすぐそのことを忘れてました(苦笑)。なんか、あんまり順位のこと……3位だ2位だとか、今、4位だとかって考えてる自分がいると……。考えていてもいけるよう(走れるよう)なドライバーじゃないといけないんですけど、そこに集中しなかった(順位争いに気を取られなかった)から、なんとかいろんなバトルをかいくぐってこれたかなと思います。

──そのセーフティカー(SC)で実質ギャップも詰まったので、リスタートの時に前の2台__23号車、39号車を抜くことができました。

平峰:そうですね。確か、23(MOTUL AUTECH Z)をSCが開けた瞬間に1コーナー、2コーナーって(近づき)外から抜いて。S字1個目にはもう前に出てたと思うんですけど。あとはそのまま39(DENSO KOBELCO SARD GR Supra)も確かヘアピンで仕留めれたんで良かったなと。

──残すところの15周でトップ3台が接近戦という450kmレースらしからぬハードな戦いの中、65周目のデグナーでは300クラス車両が絡むアクシデントが発生。コース脇の芝生の上を走り、デブリ(芝生や砂利など)も拾っていました。

平峰:(攻防戦の末に)芝生に追い出されちゃったときは、「おっとっと……」っていう感じでした。「危ないなぁ」って(思いながら)芝生の上でガンガンなりながら(跳ねながら)行ってたんですが、なんとか大丈夫だろうと思ってました。芝生にタイヤが乗っかった瞬間、もう勝手に生き残ることに頭が切り替わってて。でも無理はしなかったですね。自分の感覚がコントロール下にあったので大丈夫でした。実際にはちょっといろんなアラームが出てたんで、ちょっと怖かったです(苦笑)。これで(クルマが)止まったら、もうショック……みたいな感じの……その不安がすごくあったんですけが、なんとかチームと無線で(状況を)交信しつつ、今できることをしっかりやって。しっかり前(のポジション)に行くぞっていう気持ちもありつつ。とにかく(クルマを)壊さない、なんとか生き残って帰ってこないと、っていう感じでした。

──このアクシデントでは相手にペナルティが課せられ、12号車は2位に浮上。もう、目前の17号車にロックオン!ですね。

平峰:無線で、大駅エンジニアから前の17(Astemo NSX-GT)がペース落ちてきてるからっていう話を受けてたんです。そのとき、ゲージボードを見たら、2位に12って書いてあったんですよ。それでやっと頭が整理できて、そういうこと(2位)かと。それで、これは(17号車を)仕留めるしかないっていう感じでした。

──75周目のヘアピンでインに飛び込み、200Rで前に出て、ついにトップを獲りました。その時の心中は?

平峰:たぶん無心。メンタル的に言うと無心だったですけど、あとは抜いてから、17はちょっと(ペースが)下がったのもすぐわかったんで、もうこれは攻めてこないなというふうにすぐ切り替えれてはいたんですけど、違う問題(トラブルを示すアラームの点灯)を抱えていたので、それから(チェッカーまで)がやっぱり長かったですね。なんか、「頼むから壊れないでくれ!」っていう思い……、壊れないでくれっていうよりも、「頼むから持ってくれ!」っていう感じかな。もう、ほんとにヒヤヒヤしてました。でも、いろんな集中は切らさずに走り切れたかなっていう感じですね。

──つまり、チェッカーを受けるまでは”自分だけの戦い”だったわけですね。となると、チェッカーを受けた瞬間、「勝った」と。

チェッカーの瞬間

チェッカーの瞬間

平峰:とにかく生き残らないとっていう感じでした。チェッカーフラックが見えて、通り過ぎた瞬間、ホッとしました。勝てたうれしさもあったんですけど、「なんとか(クルマが)持ったぜ!」みたいな感じです。ほんと、クルマに対してもありがとうっていう感じでしたね。

──タフな戦いを振り返り、改めて今回の勝因はどこにありますか?

平峰:やっぱりレースペースが良かったっていうのもあるんですけど、鈴鹿戦に来るまでに、チームとすごくたくさんいろんな準備をしてきました。特に僕らが見えないところでたぶん監督や一樹さん、大駅さんやチームのみんながすごいろんなことやってくれてたと思います。僕とバゲットさんもいろいろ話をしながら、大駅さんを交えて一緒に何回もミーティングをやったし。たくさんの準備をしてきたことが、レースの神様をチームに引き寄せることができたのかなって思います。

──ときにレースでは、自分たちができること以外に、運の要素という部分も出てくると思います。その運というものについて、どう考えていますか?

平峰:僕の身近にいる人ですごく努力家の人がいるんですが、その人は、見えないところですごく努力する人なんです。人が見てないところで努力してて、ただ何をやってるかはわからないです。でも、やってる人ってすっごくオーラを感じるんです。やっぱりなんかオーラが出てるんですよね。身体が華奢であろうがデカいヤツであろうが、その人が腹を括って努力してるから、一生懸命やってる人って、もう目を見たら「あ、ヤバいな」みたいな。ドライバーでも「この人すげぇ」と思う人はいますよ。でもやっぱり、運を引きつけるっていうのは、自分だけじゃできないと思うんです。たくさん努力をしてる人には自然とその流れがあるんですけど、その周りでもひとりひとりが自分の仕事を完璧にこなそうと努力して戦いに挑もうとしているので、どんどん周りの運も引き寄せてられるんだなって思います。今回も鈴鹿に入ったときに、チームのみんなにすごくいい”ビリッと感”があって……。人が見てないところで、それぞれみんながいろんな努力をしてきてるっていうのを感じるんです。そのみんなの努力がグッと一緒になると、運がポンって飛んでくるんだなっていう感じですね。

──次のSUGOでは、サクセスウェイトが89kgに。ランキングトップの立場から、どのようなレースにしていきたいですか?

平峰:現実的な話で言うと、優勝はほぼ難しいと思います。SUGOに向けていろんな準備をもう進めているんですけど、実際にここまで(燃料流量)リストリクターが絞られて、重いクルマもGT500では初めてなので、できる限り引き出しを増やしておいて、いつでもそれを引き出して、ベストなパフォーマンスを見せられる状態にはしておきたいなと思います。

──それでは、最後に恒例のここ直近の「ちょっとした幸せ」を教えてください。

平峰:ちょっとした幸せねぇ……優勝していろんな人からメッセージをもらってすごいうれしかったし。でも、それって”ちょっとした幸せ”じゃないと思うんで。優勝した夜から次の日の月曜日まで、いろんなメッセージをいただいたんですけど、月曜日の昼ぐらいからは次に向けていろんな準備がもう始まっちゃって。パパン!って気持ちを切り替えちゃって、っていう感じなんですね。だから”ちょっとした”っていうのがないんですよね。デカい幸せが、ドン!ってきたって感じです(笑)。だから、チームのみんながすでに次に向けて動き始めてくれてるっていうのを体感できるっていう幸せになるかなぁ。「500円玉拾いました!」とか、そんなのじゃなくてすいません(笑)。

あっ! ちょっとした幸せは、月曜日の夜にちょっと寝れたってことですね。日曜日の夜は、もう興奮状態で。頭からアドレナリンが出てるんで、深夜2時ぐらいまで寝れなかったんですよ。寝れなくて、朝5時にもう目覚めちゃって。もう無理だと思って、近くにあるコンビニに行って、コーヒーを買って……っていう感じでした。でも、月曜日の夜は6時間ぐらい寝れたからちょっと良かったと思って。レースがない時は、12時前ぐらいには寝るようにはしてるんですけどね。休みの日は、もう寝る!ってとことん寝るようにしています。気が済むまで寝ないと、やっぱり脳も休まらないし。休んでからトレーニングをやらないと。去年、あんまり寝てなくて、休みを取ってなかったんで、シーズン後半に行くと別にパフォーマンスに影響してるわけじゃないけど、なんか調子悪いなぁみたいのがあったんです。それからいろいろ検査したら、「ちゃんと休みなさい」って言われて。そういうことがあったので、今年はちょっと休むようにしてますね。

文:島村元子

島村元子

島村 元子

日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。

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