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高星明誠選手(No.3 CRAFTSPORTS MOTUL Z)「もう1回勝って20点というポイントを積み重ねたい」
SUPER GT あの瞬間 by 島村 元子表彰台でグータッチする千代選手と高星選手
レースでの出来事をドライバー自身に振り返ってもらう「SUPER GT あの瞬間」。2022年シーズンも引き続き、映像とコラムでお届けします!
第2戦富士で激しい攻防戦を繰り広げる中、思いもよらない大クラッシュを喫した高星明誠選手。病院での精密検査の上、翌日には無事退院という知らせには関係者一同が安堵した。それから3週間強で迎えた第3戦では、見事優勝を達成! 自身にとっても、そして新型Zにとってもうれしい初勝利となった鈴鹿の戦いを振り返ってもらった。
──鈴鹿戦は、自身初となるGT500クラスでの優勝そして新型Zによる初優勝でもありました。日産のドライバー育成出身選手としては、何よりの喜びだったと思います。お気持ちを聞かせてください。
高星明誠:KONDO RACINGで4年(※1)走っていて、優勝するまですごく長かったというのが率直な感想です。(チームを)移籍して3レース目で勝つことができましたが、ホッとしてると同時にKONDO RACINGとヨコハマ(タイヤ)と優勝もしたかったなっていう思いも一緒に出てきました。
※1:2018年にGT500クラスへステップアップを果たし、KONDO RAINCGから参戦。2022年、NDDP RACINGに移籍した。
──トップチェッカーを受けた時、どういう思いが頭をよぎりましたか。
高星:やっぱり初優勝したうれしさもありますし、第2戦で大きなクラッシュをして(※2)、短い期間でチームが(クルマを)直してくれて……まぁいろいろなものが重なって。チェッカー受けた時は結構感動しちゃいましたね。
※2:前回の富士戦では、59周目に入ったメインストレートで3号車の高星選手を含む3台がトップ争いを展開。激しい攻防戦の中で、突如スロー走行の車両が目前に迫り、これを避けようとした3号車がコントロールを失ってガードレールにクラッシュするアクシデントが発生し、レースは赤旗中断となった。
──その割にと言ったらおかしいかもしれませんが、クルマを降りた時に涙がなかったので、クールだなと思ったのですが?
高星:うーん(苦笑)。どっちかというと、チェッカーを受けて1周してる間にもう(涙を)出し切ったみたいな感じですね(笑)。そこで出し切れたんで、(クルマを)降りた時は結構サラッとしてたのかなと思います。
──朝の公式練習では、クルマがシェイクダウン状態でピットでの作業も多く、高星選手は専用走行のみでしたが、その専用走行も他の選手のトラブルで赤旗になりました。ほぼ走れない中、予選に向けてどんな思いや不安がありましたか?
高星:千代選手が公式練習で4番手のタイムだったのですが、GT500の専有の時にもトラブル車両がいて、赤旗になったんです。タイムを出していない(アタックシミュレーションができていない)チームがいた中で4番という認識だったので、ほんとにアタックをしたら周りももっと速いんじゃないかっていう部分があって……。なので、Q1はもともと僕が担当(する予定を)してたのに、千代さんが担当することになりました。
そこで千代さんがQ1を担当して、ぶっちぎりのトップタイムだったっていうことで……乗ってない僕からしたら、(予選を前にして)緊張しかなかったです。(自分は) 乗ってないのにどこまでいけるんだろうって……。(同じ状況なら)みんな感じることだと思うんですけど、僕もそのひとりだったし、乗ってないっていう(こと)プラス、クルマも(クラッシュ後に)新しくなって、やっぱりモノコック__モノが変わることによって、クルマの動きって全然変わるものなので。そこに対して、乗ったことのないクルマに対してアジャストできるのかっていう部分とで、ほんとに緊張しかなかったです。
──結果、緊張の中で3番手のタイムを獲得。しかもコースレコードを更新。少しはホッとできたのではないですか?
高星:そうですね。セカンドローに並べたっていうところで、少し安心した部分もあります。ただ午前中走れてたらもっとタイムが出た……出せたっていう思いもあるし、走らなかったのに3番ってタイムだったっていう自信みたいのもあるし……両方の思いはあったので、なんとも言えない感じではあったんですが、決勝に向けて考えれば、3位っていう位置は悪くはないとは思ってたので。半分納得……自分を納得させる、じゃないですけど、そういう思いでいました。
──鈴鹿戦に向け、限られた時間でスタッフの皆さんがクルマを準備されましたが、ドライバーはクルマの個体差をフィーリングとして感じるものですか?
高星:結構明確に“モノの差(個体差)”というのはあったんじゃないかなと思いますが、ただ同じサーキットで走ってないし。鈴鹿をそのクルマであまり走ってなかったので、ほんとにそれが”モノの差”なのかどうか。例えば、セッティングを変えた差なのかというのは、正直はっきりとはしてないので。その部分は、今後違うサーキットで確認できるんじゃないかなと思ってます。
3号車 CRAFTSPORTS MOTUL Z
──高星選手としては、今シーズンはクルマだけでなくチームも、コンビを組むドライバーも変わり、そしてタイヤも変わりました。ほとんど”初ものづくし”の状態でシーズンを戦っていますがが、そのアジャストは大変なんですか?
高星:4年間、KONDO RACINGにいたんで、(チームとしての)やり方っていうのは、4年もやればわかりますよね。チームが何を求めてるとか、スタッフが僕に何を求めてるかってことは。すごく勝手が分かるという意味で、そこに対してストレスなくやれていました。ところがチームが変わると、「自分で何をやればいい?」「相手は自分に何を求めてる?」っていうのをまた探りながらやらなきゃいけない。クルマのセッティングに対しても、「僕はこう望んでる」けど、「千代さんはどう望んでる?」っていう擦り合わせも必要ですし。
その中でも、僕にとって一番大事なのはタイヤの使い方でした。(KONDO RACINGでの)ヨコハマタイヤと(3号車での)ミシュランタイヤでは、タイヤのグリップの出方だったり、特性が違うので。そこを自分がどうアジャストしていくかが一番大きかったです。
──決勝は、スタート前に気温が30度、路面温度が50度まで上昇。夏のレースに近いような状況になりました。3号車は暑さにも強いミシュランタイヤなので、自身そしてチームとして、どのようなレースができるだろうと思いましたか?
高星:レースウィークに向けて、 決勝に強いであろうタイヤを持ち込んでいました。ただ、その状況で予選ではどれだけ前に行けるかっていう思いでいたんですけど、予選があれだけ速かったので、「じゃあ今度は決勝で持つタイヤだったんだろうか」ということになってきたんです。そこが不安だった部分であり……僕たちは、マシントラブルでロングランもできなかったので、(レースでの先行きが)読めない部分が多かった。
練習の段階から、そのスープラxBS(ブリヂストンタイヤ)というパッケージの速さや、ホンダxBSというパッケージでのロングランの速さがあるんじゃないかという部分で、結構その部分での勝負になるだろうという思いでいました。ただ、結果的にはミシュランタイヤのパフォーマンスが他のメーカーよりも上を行っていたことで、余裕を持って勝てたのは意外な部分でもありました。
──加えてドライバー2人のがんばりもあったと思います。実際、スタートドライバーの千代選手がオープニングラップで勝負に出て、130Rでトップを取りました。この様子に高星選手もテンションが上がったのでは? それとも複雑な心境でしたか?
高星:(千代の走行を)見ていて、(タイヤの)ウォームアップ性能の違いが明らかに出てたと思います。その影響で1周目にトップに立てたっていうのが大きいとは思いますが、タイヤの性能差がある時のロングランのペースは、ウォームアップが遅いタイヤの方が圧倒的にある(その後のペースが良くなる)という風に感じていて。だから、(3号車が)1周目に前に出られてもロングランのペースになると抜かれるとか、(この先タイヤが)つらい状況になるだろうという予想を……見てて思っていたんです。
ところが、周回を重ねても差を広げていけてたので、「あれ!? もしかしたらチャンスあるかも」という思いもありましたし、反面やっぱりドキドキもしてました(苦笑)。予選の時と一緒で、僕はロングランを走れてないし、日曜日のウォームアップ走行で走ろうと思っていたのにまた赤旗になったこと(※3)で1周も走れずに決勝へ行かなきゃいけないという状況になってしまったので。そういう意味では、ロングランでのクルマのバランスがわからなかったので、そこに対しても不安しかなかったですね。
※3:決勝前、20分間のウォームアップ走行が行われるが、残り8分の時点で1台の車両がデグナーカーブでクラッシュを喫し、セッションは赤旗終了となった。
──不確定要素がありすぎるぐらいの中での戦いだったんですね。
高星:レースウィークに関しては、ほんとに乗る時間がなくて。いろいろな部分が重なってしまったことによって、こんなに乗らない週末も初めてだなっていう思いでいたんです。ただ、クルマとタイヤのパフォーマンスがすごい高かったんで、逆にそれが乗れなかった部分をカバーしてくれてたというか……。そこはほんと助けられたなと思っています。
──その助けられた部分として、ルーティーでのピットワーク作業もあると思います。上位を争う3台の中でもダントツの速さでした。まさにみんなの力で掴み取った勝利でしたね。
高星:今年チーム体制が新しくなり、タイヤ交換だったり、ピット作業という部分でもまだまだ詰められる部分があると思い、開幕戦からずっとやってきてて……。それがある意味第3戦でうまくいったという部分に繋がっています。練習してきたみんなの努力の成果ですし、ピットの作業以外にも燃費だったり、いろんな部分が関わってくるので。(優勝は)そういうものがすべて噛み合った賜物なんじゃないかなと思ってます。
──事前にロングランができない中、実際のクルマのコンディションはどのようなものでしたか?
高星:乗っていて、正直もっと改善できるだろうと感じました。やっぱり、どんなにクルマが速くても(ドライバーなら)感じてしまう部分ではあるとは思いますが……。ただ総合的に考えて、他のチームよりもネガティブな部分が少なかったから勝てたっていう部分もあると思うので、そういう意味ではロングランを走っていないわりには、いい出来だったんじゃないかなと思います。
──レースは3回目のFCY中に、ヘアピンでGT300とGT500の接触によってセーフティカーへ切り替わりました。その後、43周終わり
のリスタートが見事に決まったという印象でした。狙いどおりでしたか?
高星:もともと(タイヤの)ウォームアップがいいっていうのも理解はしていたし、リスタートするポイントも自分の中で考えて……。相手をどこで一番油断させられるかっていうことも考えながらやっていたので。その考えがうまくいったのは自分の中でもうれしかったポイントですね。
レース後クルマが降りて抱き合う千代選手と高星選手
──結果、レースは残り9周でスプリントレースのような形になりましたが、ご自身はどの辺りで優勝できると思いましたか?
高星:正直言うと、SC(セーフティカー)が入る前には(勝てると)思ってました。あの時点でもう20秒弱うしろとのギャップがあったので……。僕がミスをしなければ優勝できると思っていたんですけど、それがSCに変わってしまって(後続との)ギャップがゼロになって。またギャップを作らなきゃいけないっていうところから始まって、 SCのリスタートから2〜3周して4秒前後の差をつけることができて……。その時には勝てるんじゃないかという思いはありました。
──今回の鈴鹿の大会の結果で、ランキング争いでもトップでシーズン中盤を迎えるといういい形になりました。この先の目標を改めてお聞かせください。
高星:正直、第3戦が終わった段階で、ポイントリーダーになれるとは思ってなくて……それぐらい1回の優勝って大きいんだなっていうのは、今回実感できた部分です。シリーズを考えた上でもう1回優勝できたら、もっとシリーズチャンピオンに近くなるんじゃないかって思いが芽生えてきて……。なので、着実にシリーズを戦っていく上でポイントを獲らなきゃいけないっていう部分もあるんですけど、もう1回勝って20点というポイントを積み重ねたいなっていう思いも出てきました。まずはリタイアしないでポイントを獲ることは前提ですが、どこかでもう1回勝ってランキング上位に行きたいなっていうのはあります。
──では最後に、「SUPER GT あの瞬間」恒例の質問。ここ24時間以内で感じた”ちょっと幸せなこと”を教えてください!
高星:今、S耐(スーパー耐久シリーズ)富士24時間のレースに来てて、トラブル(※4)などで今週も走れてなかったんです(苦笑)。水、木曜と走れなくて、今回、金曜日の予選で初めて走ることができて……、それがちょっとうれしかったな。レース前に走れて、ちょっとうれしかったなっていうのがありました。GTとS耐両方で全然走れてないんで……。その走れる喜びっていうのを実感してます(笑)。レースなんで、レースの前にはやっぱり乗りたいなっていう思いがあったので。
※4:レースウィーク中、高星選手が参戦するチーム車両が木曜日の専有走行1回目にクラッシュ。修復作業に時間を要した。インタビューはレースウィークの金曜日夜に行った。
文:島村元子
島村 元子
日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。
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